第三話:鍛冶屋の親方と鉄の精霊
本日は、この回を含めて、あと2話を発表します。
「領主様クラスの方が、検問をしているのかもしれません。あとは事故で道が塞がってしまい通れない、そんなとこですかね」
「なるほどな……どっちにしろ、材料はすぐには届かないな」
これからのことを考え込み始めた親方をみて、もう少し助言が必要だと感じたので、ブランシュはそっと部屋を見回してみた。
受付の少女は、もうナイフ磨きに戻っているが、耳はピクピクしているので、親方との話はしっかり聞いているようだ。
壁にかけられた剣や斧。入口付近には、包丁やナイフなども置かれている。鍛冶場に近い場所には、鍛冶の材料だろうか、ごつごつした石のようなものが木箱に山積みされて置かれている。
部屋の様子を確認したブランシュは、ここで自分の力を使おうと決めた。
実はブランシュには、特別な才能がある。
幼いころ、占いの師匠でもある実の祖母から、こう習った。
「占いというのは、この世界の声を聞くことなのです。我が血筋に伝わる力が、それを後押ししてくれるでしょう」と。
確かにブランシュの先祖は、どこかの寺院の巫女だったと言い伝えられている。
まだ幼く、空想好きだったブランシュは、祖母の言葉を言葉通りに受け取ってしまい、自分は世界の声を本当に聞けると思い込んでしまった。
そして、その思い込みを、先祖から伝わる力が可能にしてしまったのだ。
ブランシュの、その才能とは……。
ブランシュは目を閉じ、意識を部屋に集中する。そして、心の中で世界へと語りかけた。
(お願い!誰か、私と話して!)
目をつむっていたブランシュは、ゆっくりと目を開く。ブランシュが目を開くと、まずボルド親方の顔が目に入った。
相変わらず太い腕を胸の前で組み、じっとこちらを見ている。
その肩の上に――小さな丸い金属が乗っていた。
つやつやとした黒い球体。継ぎ目もヒビもない、まるで磨き上げた鉄の塊だ。
それが親方の肩の上で、ちょこんと揺れている。
(この子が、私の呼びかけに応えてくれた子なのかな?)
ブランシュが興味深くじっと見ていると、丸い金属の表面に、ぱちりと二つの小さな目が開いた。
「むーい」
小さな声がころころと転がる。呼び出したブランシュへの挨拶なのだろうか。
その声に、ボルド親方はまったく反応しない。腕を組んだまま、真剣な顔でブランシュの占いを待っている。
(やっぱり、親方には聞こえてないか)
ブランシュは心の中で、新しい友人にそっと挨拶を返す。
(むーいむーい)
すると金属の球は、ぴょこんと小さく跳ねた。嬉しそうに、また「むい」と鳴く。
そのとき、ブランシュは気づいた。
親方の後ろの木箱。そこに山積みにされた鉄鉱石が、かすかに光って揺れているように感じられる。
(……あなた、あの箱に積まれた子たちの仲間?)
「むい!」
小さな友達は誇らしげに一回転した。その姿が可愛らしくて、ブランシュは思わず笑ってしまった。
「なんだ?おっさんが考え込んでいるのが、面白いか?」
「違いますよ。外で待ってるゲイルさんのことで思い出し笑いです」
なんとかボルド親方をごまかせた。その間も、ボルド親方の肩にいる小さな鉄の子は、楽しそうに揺れている。
ブランシュが「話がしたい」と世界に語りかけると、必ずではないが、物や場所に宿った『声』が、姿を借りて現れるのだ。
これがブランシュの力。
物や場所が語る声と、少しだけ話をする力。
ブランシュにだけ聞こえる、世界とのおしゃべりなのだ。
親方がまた腕を組んで考え込み始めると、丸い金属は小さく小刻みに揺れながら、「むいむい」と歌うように話し始めた。
(あなたのこと、むいちゃんって呼ぶね?あなたはこの部屋にある鉄鉱石から生まれたの?)
「むい!」
それからブランシュは、ときおり相槌を打ちながら、鉄鉱石のむいちゃんの話に耳を傾けた。
「むいー」
(むいちゃんは、お友達の石さんたちが少なくなって淋しいんだね。それで隣街に昔からいるお友達を呼んできて欲しいってことね?)
むいちゃんは、コクンとうなずいてから満足そうにぷるんと震えると、ぴょんぴょんと跳ねながら、鉄鉱石の山の中に転がり込んでから消えた。
親方に見つからないようにむいちゃんに小さく手を振ってから、ブランシュは今聞いた話を推理してみる。
むいちゃんは、昔からいるお友達がいると言っていた。隣街に、昔からある鍛冶屋のことだろうか。
「親方、この隣街に古くからある鍛冶屋はありませんか?」
親方は少し考えてから、目を大きく見開いた。
「隣街の古い鍛冶屋?――ある、あるぞ!隣街に俺の年の離れた兄弟子がいてな。歳で廃業したんだ」
「そこに使えそうな材料が残っている……かも?」
「……それ、本当か!?いや、これは野暮な質問だった。占いだもんな。だが隣街ならすぐそこだ。さっそく確認にいかせるよ」
鍛冶場に声をかけ、若い弟子三人に事情を伝え、台車を引いて隣街に見に行くように指示をする。
弟子たちがすぐに準備をしに走り出したのを見ながら、親方は何度もうなずく。
「嬢ちゃん、いいだろう。あんたの占いは満足するものだった。取引成立だ」
ボルド親方の了承の返事を聞いて、ブランシュはホッとして小さく息を吐いた。もし駄目だったらと思い、少し緊張していたのだ。
「じゃあ、ゲイルさんを今、ここに連れてきます」
ブランシュは、外へと飛び出した。
「ゲイルさん!こっち来て!」
建物の壁に姿勢悪く持たれていたゲイルが、びくっとする。それでも不機嫌そうな顔でやってきた。
「なんだよ、俺は占いをして欲しいだけなんだけどな」
「お金になる話なんだけどなぁ。聞きたくない?」
「本当かよ」
ブランシュは気の乗らなそうなゲイルの腕を引っ張り、半ば強引に店へ押し込んだ。そして、そのまま背中をおして、ボルド親方の前までつれていく。
「お、おい、俺はあんまり、この店に入りたくないんだよ……って、ボルド親方!えっと、ご無沙汰しておりやす」
ボルド親方の前に立たせたゲイルの肩を、ブランシュはぽんと軽く叩いた。
「ゲイルさん、ボルド親方がしばらく雇ってくれるって」
「はぅ?雇う?どういうことだ!」
「ここで働けってこと」
話が違うとブランシュに食って掛かるゲイルを、ボルド親方は大声で怒鳴りつけた。
「うるさい!金が必要じゃないのか!?チビたちが腹、空かせてるんだろ?」
弱い所を突かれたのか、ゲイルは一瞬で大人しくなった。
「よし!たった今から、お前はこの鍛冶場の見習いだ。安心しろ、見習いといっても十分、チビたちの腹がふくれるくらいの給金は出す。ほら、さっさと鍛冶場に行け!」
親方に肩をつかまれ、強引に連れて行かれながら、ゲイルは振り返ってブランシュを罵ってきた。
「売ったのか俺を!?いくらもらった?とんだ占い師だ」
「黙れ!嬢ちゃんは恩人だぞ」
親方に後頭部を派手に叩かれて、ゲイルは力なく引きずられていった。
「しっかり稼いでね!」
にこやかに手を振るブランシュに、親方の豪快な声が響く。
「嬢ちゃん、今日は助かったぜ!また頼みにいくかもな」
よし!常連がまた1人増えたと内心喜んだブランシュだったが、ハッと思い出した。
「早くいかないと!本当に遅れる!」
慌てて店を出る彼女に、店番の少女が晴れやかな笑顔を向けた。
「ありがとうございました!」
単なる客への挨拶だろうか。幼い子どもを救ったことへの礼も入っていたかもしれない。
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