悪役令嬢に転生しましたが婚約破棄されました
「お前との婚約を破棄する!」
交通事故にあったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。そして、テンプレにストーリーを改変しようとして、失敗して、婚約者の王子に断罪されている。
「私は何もしておりません!」
「そうね、あなたは何もしなかった、だから何も変えられない」
そう王子の横にいる、ピンク髪のヒロインが言う。
「何を言うの…!」
「だってあなたには、何もなかった、美しさも、賢さも、強さも、正しさも。物語の悪役令嬢の持つ美点はなにも」
「なにを…!」
その途端、私の姿が変わった。美しかった姿は、前世の姿に変わる。
「いや、なんでこの姿…!」
冴えない私。何も持たない私。見たくない。見ないで。
「そもそも、このゲームに悪役令嬢は存在しなかったでしょう?」
そうだ。このゲームに悪役令嬢は存在しなかった。あったのはヒロインと王子達の、優しい恋物語だけ。
「あなたは正しい被害者の立場を望んだ。でもそんなもの、始めからなかったのよ」
ヒロインと王子の顔が、クラスメイトの顔に変わった、やめて、見たくない!
世界が崩れる。そして、白い光で目が覚めた。
ジリリリリリリ。
スマホの目覚ましで目が覚める。どんな夢を見たかも覚えていない。部屋から出て、鏡を見ると、いつも通りの冴えない私。母親の作った料理を食べ、少し遅れて学校に向かう。
教室では既にクラスメイト達がそれぞれのグループに固まって会話している。この中で特に輝いている二人。クラスの1軍ってやつ。なんだか、二人の顔を夢で見た気がする。
「おはよう、××さん」
「おはよう、顔色悪くない?」
二人とも、三軍の私にも朗らかに話しかけてくれる。二人は手を繋いでいる。恋人同士なのだ。クラスじゅうから祝福されている。
自分のいつもいるグループに行く。
「おはよう、貸した乙女ゲーム、どうだった?」
「おはよう、うーん、私には合わなかったかも」
「そっかあ」
パッケージの中央にいるイケメンは、どこか恋人同士の片割れに似ていた。
…別に、彼に恋していたわけではない。誰にでも分け隔てなく優しくて、顔がよくて、スポーツも勉強もできて、爽やかで、そんな彼が選んだのは自分に似合いの優しくて可愛い、これまた完璧な女の子。たとえ私が好きでも、相手にはされない。優しくできるのと、対等に愛せるかは違う、私はそれを理解している。
だけど、でも。私が悪役令嬢だったなら、婚約者とか、彼の傍にいるのが正当な立場だったら違ったんじゃないかって。自分を選ばない事を罪だと責めて、思いっきり傷付ける理由ができるんじゃないかって。そう考える事がある。
…なんだか今日の私は変だ。こんなことを考えるなんて。私はただストーリーを読んでいるだけ。悪役令嬢を応援してるだけ。そんな他意なんて存在しない。しないはずなのだ。家に帰ったらまた悪役令嬢ものを読もう。きっと、私にいい夢を見せてくれるはずだから。
そう思いながら、手を繋ぐ二人のほうを見ないようにしていた。
…見たらきっと、夢を思い出してしまうから。
悪役令嬢の見た夢、のマイルドバージョンという感じです。




