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シャーロキアンのホームズⅤ〜小さな依頼人と子犬の物語〜  作者: 語り部ファウスト


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6/7

第六幕

【物語】シャーロキアンのホームズⅤ(6) 〜小さな依頼人と子犬の物語〜

【第六幕】

やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。

なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。


第五幕では、僕の天才的な機転のおかげで、大した出費もなく犬を手に入れた。


ポケットにあった金は全てなくなった。ただで手に入れたら、英国紳士としての恥になるからね。

ホームズとしてもーーさ。


老人の名はディンと言った。君が知りたそうにしていたから、ね。

北欧の神話に関係してるようだけど、

僕には興味はない。


さてーーもちろんだけど、この新しく手に入れた犬をロキと名付けた。


僕らは犬と勝利を胸に、虚実荘へと戻っていった。

あの恥知らずの女たちは、僕たちのソファに座ってぺちゃくちゃと、おしゃべりをしている所だった。


「聞いてください、お嬢さま。

あの二人はずっとお酒飲んで、だらだ部屋の中で過ごすんですよ。

ホームズならヴァイオリンを弾くでしょう? でもあいつら、持ってないんですよ。まあ、持ってても、下手の横好き、聞くに耐えない下手くその響き。

ええ、そうに違いません!

うちの旦那がいたら、お嬢さま!

ええ、旦那がいたら、あんな男はぶん殴ってますわ!」とハウスメイド。

「まあ!アダムズ夫人の旦那は、そんなに気が短いの?」とクララ嬢。

「ーー誰だって、あんな奴のヴァイオリンを聴いたら、気も短くなるでしょうよ。ヴァイオリンがなくて良かったわ。」と太ったハウスメイド。

「じゃあ、彼がロキを連れてきたら、ヴァイオリンを贈るわ。」とクララ嬢が僕をジッと見ていた。

「ーーほほほ! それは、良いーーお考えですねーー」とソレは黙った。

彼女はゆっくりと立ち上がって、

僕らに軽く会釈をすると、そのまま階下へと降りた。

「ロキーー見つけてくれたんだ。」とクララ嬢は、駆け寄ってきた。

それから僕から犬をもぎとって、ぬいぐるみのように、犬を抱きしめた。

犬はギャっと悲鳴をあげたが、おかまいなしだ。

「ロキだわ!星柄もあるわ!」と彼女は抱きしめていた。

「ほんとの名探偵だわ!ありがとう!」

ここで彼女の強気な仮面がとれ、無邪気な笑顔を見た瞬間、僕のセリフは変わってしまった。

「次は、手放さないように気をつけてね。お嬢さんーー」と。

この笑顔を凍らせるのは、ホームズにはできない。

ふと、ワトソンと目があった。

彼はとてもうれしそうに僕を見てた。

「アナタもね!大事なものは、のがさないでね!トビー兄さんにも、アタシ、話しておくわ!」

再び彼女は犬を抱きしめた。

ギャァと犬が叫んだ。

「もう少し、そのーー大事にしたまえ。赤ちゃんを扱うようにーー」と言っておいた。


クララ嬢と哀れな犬が去った後の事だ。二人で向かいあってソファに腰かけた。

僕らは黙ったまま一本の酒瓶の酒を、分けながら飲んだ。酒瓶の中の酒が半分に減った時、僕は口を開いた。

「ーーその、君はーー僕を、甘い男と思ったかい?

あんなに、自慢げに言ったのにーー」

ワトソンは、新しい酒瓶を自分のソファに引き寄せて抱きしめていた。

「その方が君らしいよ。

ーー正直、ほっとした。

子供の弱みを握るやつ、キライだ。」

「ーー覚えておくよ。」

「うん。覚えててくれ。ボクらは英国紳士なんだ。光の人だ。どんなに暗い時代でも、ボクらは輝きたい。

ーーボク、書くぜ。君の話を。本物のワトソンみたいには上手く書けない。

コナン・ドイルみたいには書けない。

でも、ボクらが生きてたって、

生きてたってーー読む人が思えるような作品、書くよ。君のために。

ボクの魂のためにさーー」

ワトソンは、そういうと飲みかけの酒瓶を自分の手元に引き寄せていった。

「ーー残りは、ボクのものでいい?

通訳ってさ、喉が渇くんだよ。」

ワトソンは、そう言うと酒瓶を完全に自分のものにした。

「やれやれ。僕らは無一文なんだ。

大切に飲みたまえ。」と言って、ソファに横たわった。


結果は良かったと思った時、扉が勢いよく開かれた。


そこにいたのは、トビー・グレグソン警部補だ。彼は、汗だくで顔を真っ青にし、ネクタイを曲げ、靴には泥をつけながら、今にも心臓が破裂しそうな勢いで、分厚い革表紙のファイルを胸に抱いていた。


「スコットランドヤードにレストレードがいた!

ーーアイツは制服巡査だった!」


(こうして、第六幕は興奮する警部補によって幕を閉じる。)


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