表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャーロキアンのホームズⅤ〜小さな依頼人と子犬の物語〜  作者: 語り部ファウスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

第三幕:無邪気な脅迫

やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。

なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。


第二幕では、生意気な女の子が僕らを挑発してきた。

グレグソンの妹だと言われても、僕が手加減する理由にはならない。

彼女が探してほしいものは、子犬だ。


なぜ子犬なのか?

君、よく聞いてほしい。こういう“クソガキ”は、まず他人と共感しない。

おそらく兄のトビー・グレグソンに甘え放題で、周囲から叱られる経験も乏しい。

だから彼女が求める“探しもの”は、人間の友だちの代替品だ。

ヌイグルミの延長線上にいるような存在。

ただし、金持ちの子どもとなれば話は別だ。

ヌイグルミじゃ高が知れてる。もっと“自分に従ってくれる生き物”じゃないと気が済まない。


彼女はキレイなドレスを着ていた。

だが、あれは着慣れた子の所作じゃない。

歩幅も姿勢もぎこちない。

つまり普段着ではなく、“着せられた服”。

礼儀や振る舞いを強制され、子どもらしさを奪われている。

そういう子どもは、かならず“自分を無条件に受け入れる存在”に逃げ込む。


猫はその点、気まぐれだ。

躊躇なく子どもを置いていく。

でも犬は違う。犬は、どんなクソガキでも愛せる。

僕は横にいるワトソンを見た。

ーーそうでなきゃ、とても話として成立しない。


君、僕の言っていること、わかるかい?


「えーー、あ、うん。そうよ!」

クララ嬢は顔をこわばらせて、僕をにらみ上げた。


「犬の、アタシの友だちのロキが三日前に姿を消したの。パッとね」

彼女は両手を拳から開いて、空気をはじくように広げてみせた。


「アタシとあの子は、ほんとに仲良しだったの。なのに急にいなくなった。

だから探したの。だけど、どこにもいない。

トビー兄さんに聞いても、ぜんっぜんダメ。兄さん、警察官になったら急に大人ぶってアタシの話を聞かなくなったし。

でもロキは違うの。白いビーグル犬よ。額に星の模様があるの」


「白いビーグル犬?」とワトソンが眉をひそめた。

「そいつ、本当にビーグル犬なのかい? 色の話だが」


「ビーグル犬から生まれたら、ビーグル犬よ」

クララ嬢はあきれたように言い捨てた。

「たしかに兄弟犬とは色が違ったわ。でも、だからこそ欲しかったの」


「特別扱いが欲しいクソガキは、そう言うものだ」と、僕はつい口を滑らせた。


「なんですって?」

クララ嬢は、僕を蹴り飛ばしそうな勢いで睨んできた。

「アナタって、紳士とは呼べないわ」


「君こそ、そのドレスが似合うレディになってから言ってくれたまえ」


彼女は一度深く息を吸い、

ーー妙に落ち着いた調子で言った。


「……じゃあ、改めて言うわ。

探偵さんたち、ここから追い出されたくなかったら、アタシの言うことを聞きなさい。

犬を探すの。ベーカー街のどこかにいるはずよ。すぐ見つけなさい!」


「脅しか依頼か、どちらかにすることだね」

僕は肩をすくめた。

「ーーそれに、君の犬が生きている保証はない」


そう言ってから、僕は最高に爽やかな笑顔をメイベル・アダムズに向けた。


「もしかすると、この恥知らずのメイドが鍋にぶち込んで、僕らに食わせたかもしれないぜ。

昨日の肉のシチュー。あの具の少なさ……子犬だ」


メイベル・アダムズの顔は、不機嫌から“爆発寸前”へ変わった。

クララ嬢は真剣な疑いの目で彼女を見る。


「クララお嬢さまのおっしゃる通りになさってくださいまし!!」

メイベルは吠えた。

まるで、犬より犬らしく。


(こうして、第三幕は犬探しによって幕を閉じる。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ