BET.3 ISEKAI TENSEI
発光が弱まっていくと次第に視界が鮮明になっていく。
それに伴い徐々に聞こえてくる話し声。
次に二度三度瞬きを繰り返すと、そこはもう異世界だった。
天まで届きそうな広大な山脈の麓で木造の露店が立ち並ぶゴリッゴリなファンタジー世界。
新鮮な感覚と好奇心に胸躍らせて四顧していると、突然背中に鋭い痛みが走った。
[いたっ! な、なにしやがる!]
怒りを覚えた俺が振り返って声を上げると、そこには三体の怪物が立っていた。
赤黒い体毛で表皮を覆い、こめかみの辺りからロンギヌスの槍みたいな角を生やした人ならぬミノタウロス。
とにかく体がバカデカくて翠色の肌の一つ目巨人サイクロプス。
腹筋バキバキでフィジーク出てそうな筋骨隆々の上半身に、競馬で慣らした俺の目利きからもかなりのやり手だと判る馬の下半身をしたケンタウロス。
「おい、早くどけよ」
ミノタウロスが姿勢を屈めて角で突いてくる。
先の痛みの正体はこれかよ……。
「す、すいませ……」
舌打ちをすると睨みながら前を横切る御三方。
その際に体をぶつけられてとんでもない体幹で吹っ飛ばされた。
露店の陳列棚に背中から突っ込んで棚を破壊。あまりの怪力に、露店の店主も声をあげてやり返すことが出来ず蹲るだけ。
「はっ、これだから軟弱なホビットは困るぜ」
ぎゃははと高笑いしながら通りへと消えていく。
なんてこった、もしかしてこの先あんなのと当たり前のように戦っていかなきゃなのか……?
「もし、大丈夫ですか?」
背中を抑えて悶絶してると、どこからか声を掛けられた。
痛みに苦しみきつく瞼を閉じたまま、俺の意識は声の主へと傾いた。
「いっててて……あー大丈夫。あんな化物だらけなんて聞いてねーけどなぁ……」
バキバキと軋み鳴く壊れた棚を退け、怠い身体をようやく起こす。
ホコリで舞った土煙に咳き込みながら声の主へと振り向くと。
「良かったぁ、無事でしたね……」
天使がいた。
あ、いやフツーに可愛い女の子がいた。
「無事かどうかと聞かれたら無事じゃないけど、肢体も内臓も無事だから無事なんだろうな」
「は、はい?」
「何でもない。忘れてくれ」
怪訝そうな顔で覗いてくる女の子は、俺の言葉に苦笑いをするとちょっと距離を取った。
そんな動作に動揺することなく、スッと立ち上がる。
ひどい! 少しキモいムーブかましたからって何も距離取らなくてもよくない!?
「俺はとある場所を探してる」
「と、とある場所ですか?」
「あぁ、賭場って言うんだが。別名カジノとも言う」
女の子がチラチラとこちらを振り返りながら案内すること15分。
サーカスのテントらしきものが見えてきた。
「お、なーんだあんじゃないの~。やっぱギャンブルの匂いはいつ嗅いでも落ち着くなぁ」
「……ギャン中きっも」
聞こえない聞こえない。
これだから女は困るね~。保守的思考だからギャンブルに対してマイナスなイメージしかない。
だが真の男は違う。男には引けない場面てのがいくつかあるんだ。
大切な人が襲われそうになった時、やると決めた事をやる時、そして目の前に賭場があった時だ。
「悪いんだけど、金貸してくんねーか? 倍にして返――バシッ!」
「さいってー!!!」
痛い……。さすがに初対面の人に無担保で借りるのは無理があったか。
結局女の子は俺を平手打ちして帰って行った。
ふんむ……どうしたものか、方法はいくらでもあるが。
「まずはギャンブルの内容を見て決めよ♪」
足早に賭場へと向かうことにした。
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賭場の中は多様な種族で溢れかえっていた。
ファンタジーゲームでよく見るリザードマン、亜人、獣人、他にも沢山の種族の半人種がこぞって賭場を埋めている。
「これぞ異世界って感じがしてきたな……」
好奇心を抑えて賭場を回る。
現世でも主流のカード系もあれば、水晶のような球体を使ったギャンブルや火や水が宙を舞う魔法を使ったギャンブルまでその数は多岐にわたる。
そしてその中でも一際目を引くのが――。
「さぁさぁ、てめえら勝ち組になりたきゃ奪い合え!!」
ルーレット。
それもただのルーレットではない。
全員同時に賭けて、負ければ場に置かれた賭け額は全て勝者の総取り。
『Place your bet』
「俺は100万ボルツ張るぞ!」
「まじかよ、しょうがねえ!」
その為、賭け額は均等になるようコールで上限を引き上げる形になる。
「ひゃ、100万だと!?」
『That is below the minimum bet』
「なら俺はこの剣と盾を捧げる!!」
しかもベット出来る貨幣はあらゆる物が担保対象。つまり金で足りなければ武器や防具を相応の担保に捧げる者も出てくる。
『No more bet』
全員の賭け金が揃った所で――スタート。
『Good luck!』
そしてルーレットは数字に張るわけではない。
ベットした者がルーレットを囲む椅子に座り、その目の前を円盤の内側から軌道を描いて転がっていく。
「こい! こい! こおおおおおおおおおおい!!」
「俺だ俺にこい!! 来てくれえええええ!!!」
「俺はまだ死にたくない!! 死にたく――」
そのまま球が収まる位置に座っていたものが勝者となるわけだ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
『JUDGEMENT』
勝敗が決すると即座に賭け金は譲渡され、敗者の武器や防具は勝者の手元へ転送される。
絶望で泡を吹く者と勝利に涙する者。本物の死者と生者を決める究極のギャンブルがそこにあった。
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次回更新03/19 18時頃(もしかすると今週更新出来ないかも)




