赤ちゃん王子との出会い
幸福度99.9パーセントの我が国唯一の汚点。
それが死にたがりの私だ。
実は今日、王様に呼び出されている。
「おぬしは人の笑い声を聞いても何も思わぬのか?」
「私は毎日毎日死にたいと思いながら生きているのです。笑い声を聞いても、ちっとも楽しくありません。」
「君は異端児だ。この場で死刑と言いたいところだが、死にたい君には死刑はご褒美にしかならないだろう。それに、笑い声をなんとも思わない異端児だからこそ我が国に貢献できるのだと思う。幸福度が赤ちゃん並みにある我が息子と過ごしてみたまえ。きっときみも考えを改めるだろう。」
そう話して、王様は立ち去った。
次に入ってきたのが王子だった。
これが一人息子か。ワ・ラーエ王子。
私はその美しさに息をのんだ。
なんて整った顔立ちだろう。
こんな顔に見つめられたら、何もかもどうでもよくなるに決まっている。私も今まさにどうでもよくなろうとしていた。
「きみ、私は王子であるぞ」
「ははあ。」
「私の相談役になるのだ。」
顔は確かに良いが、こんな美しい顔を毎日見続けるなど、到底できない。
体よく断りたいところだ。さて、なんて断ろうか。
「王子様、申し訳ありませんが、わたしは、死が近い人間でございます。王子様の近くにはいれません。なにとぞお計らいください。」
「なに!私の願いもかなえられないだと。そんな…」
王子は明らかに狼狽していた。
「もう耐えられない!赤ちゃんに戻るぞ!」
目の前で王子は、大声で泣き始めた。
おぎゃー!おぎゃー!と。
???
目の前で何が起こっているのだ?
王子は目の前で泣きだし、見張り役はおろおろしている。
私もおろおろしていると、応接室のドアがバーンと漫画みたいに開いた。
「王子!無事ですか!!」
現れたのは美形で長髪の人物だった。
「王子!よしよしいい子ですね。」
「王子、みんなが見ていますよ。」
「王子、元気出してください」
長髪美人は、ひたすら王子をなだめている。
なだめながら、私の方を向いて、話し始めた。
「あなたも手伝ってください。」
「王子はどうされたんですか?」
私はすかさず聞く。
「あなたが死に近いところにいるのならば…王子は「生」が近いところにある人間なのです。」
「それはどういうことですか?」
「つまり…王子は25歳でありながら、赤ちゃんの才能を秘めているのです!」