野菊の様な少女
窯元に連れられて、山道を登っていく清延の前に大きな窯が見えた
案内されて近づいて行くと、突然大きな声が響いた
「誰だ!近づかないで!」
振り向くとまだ幼さが残る娘が恐ろしい剣幕で怒鳴っていた。
窯元が些細を話して少女をなだめてる間に清延は側に並んだ陶器を眺めた。
「良くできでるな、これなんかは、、、」
と、触ろうとした時、また、少女が怒鳴る
「触るな!」
驚いて、手を引っ込める清延
「全く、この子は怖い物しらずだ」
窯元が呆れた顔でそう言うと、去って行く
「アンタ、何しにきたんだ!」
「焼き物を見にきたのだから、もう少し静かに見させてくれまいか」
清延は、ひとつひとつじっくりと見ていった
「それはまだ、完成してない、これからこれに色づけするんだ、触るなよ、」
「わかっておる」
「さっさとみたら、早くいね!」
清延がため息をつく、そしてその娘を見ると、手が染料でとても汚かった。
「色は其方がつけるのか?」
娘は大きく頷いた。
「やはり、仕上げが大事なんだなぁ」
「へぇ、わかった様な事言うんだ」
娘がひとつの皿を手に取り、丹念に調べている。
「これを使う人が大事にしようって気持ちになる様にこれに素敵な魔法をかけてやるんだよ」
「ふーん、そうだなぁ」
「分かってんの?」
「まぁ、そのこだわりは分かる、と思う」
「ふん、分かれば嬉しいけどね」
「その皿にどの様な仕掛けで、んー変わるのか?」
「やはり、分かってない!」
笑いながら娘が皿を棒で割る
「な、何をするんだ!」
答えずに、割れた皿を元の形になおそうとしてる
「それは無理だろう」
「それをするんだ、、、よ!」
娘が割れた皿をひとつひとつ継ぎ合わせて、そこに又液体を塗っていく
次第に皿が元の形になる。
「はぁーわざと、その様な、、、」
「これが案外面白いんだわ」
「ふーむ、、、そうなのか、、、」
「元々、割れるためにある物、でもこれは趣と言う面白さがある、本当は最後にやるより最初からやった物が出来るともっと面白い」
娘が傷になった所を優しく撫でながら呟く
「なかなか、これだと言う物は完成しない」
清延は、師匠の言葉を思い出していた。
茶杓ひとつになかなか良き物が出来ないと言ってた言葉と似ていた。
「其方は、私の師匠に似てるな」
「ふん?あんたの師匠?って誰?」
「その窯で出来た茶碗で茶をたてたら、日本一の御仁だ、知らぬだろうが、、、」
「日本一?まぁ私が好きな人なら一人いるけど」
娘は振り向いて、じっと清延を見た。
「どのみち、あんたも士官が何かでこんな物を欲しいんだろ?」
「まぁ、そんな所だが、考えを変えたよ」
「え?!」
「皿や茶碗は、やはり違うと思う、やはり武人らしく、最も戦う為に役立つ物を探す事に決めた」
「ふーん、そうか」
「では、これからそこに行くので」
清延が去ろうとすると、後ろから声をかける娘
「何を求めて、何処に?」
「武人に必要なもの、関まで行く」
「関、、、あ、、、カタナ、、、かぁ」
清延が振り向き様に娘に問う
「良き皿を見せてくれて、、、其方は名は何と申す?」
娘は少し笑いながら答える
「あたい?あたいは、臙脂」
「えんじ、、、」
清延の背に遠くから声がかかる
「名前も大好きなお方から授けてくれたんだよー」
清延は、次の目的地迄、急ぐ事にした。
もう臙脂の声は届かなかった。
清延の姿が見えなくなり、娘が寂しそうに呟いた。
「大好きな利休様に付けて頂いたんだって!」
娘が佇む側に、薄紫の野菊が風に揺らいでる。