茶碗
清吉が見た事ない茶碗があったとは、何と今まで何をしてきたのか、少し残念な気持ちになり師匠に問いかけた。
「この様な珍しい茶碗はやはりお茶会に喜ばれますか?」
「確かに、催しには茶碗は1番の人の目を惹きつける事です、がそれだけが茶を飲む楽しみでは無いのです」
師匠は遠くを見る様な目になり、静かに話す。
「私が1番気に入った物は何だと思いますか?」
「茶碗より?ですか?」
「私が手作りでつくる茶杓、柄杓です、それからあそこに掛かってある花籠」
柱に掛かっている一輪の花の入った籠を指で指した
そちらを向き清吉は、何故かその花が凄く美しく貴重な物に見えてきた
「なんや、、、不思議ですな、、、あの花が可愛く見えて」
師匠は下を向き少し笑った
その顔を見て、親しみのある人だなぁと思う
清吉はこの師匠に思い切って聞いた
「一つお願いがあるんです。これから士官するのに私に会う殿様、嫌、勤めるお家は何処が良いでしょう」
師匠は驚いた様に清吉を見つめた
「清吉さんは、お店を継ぐ方ですよね」
「私は次男で、前から家を継ぐ事は考えてません」
「跡継ぎさんが、、、そうですか、、、」
「確かに兄が亡くなったので長子です、周りは皆そう思ってました。しかし生まれてから一度も店を継ぐと思った事は無いです。それは父が武士を捨てたのは本意では無いのは分かってました、私は父の残年を継ぐ者として武士になりたいのです。」
「お気持ち分かります、茶の道も武士の道も同じ道、清吉さんには岡崎の殿様が合ってるような、、、」
「岡崎、、、」
「あの殿様は我慢強いお方で、一番の良き所は幼い頃から忍耐強く育ってますし。」
「父が支えた小笠原家は遠くに行ってしまい、岡崎なら京都からそんなに離れていません」
「そうですか、離れた所なら島津様も良きお家だと伺ってます」
「薩摩国、ですか、、、確かに遠く、ですねぇ、、、」
「信長様に献上する茶碗がもう一つあります、それを持っていってはどうでしょう、それを士官の話に」
清吉は慌てた。
そんな大それた物を頂き、士官しようなど夢にも思わなかった。
「いや、大丈夫です、その為に槍の稽古してきました、私の人となりを見て頂き、駄目なら諦めるので」
「中には、こう言った物でも士官のやり取りに使われるのです。特に手に入りにくい物などは」
「しかし、、、」
「あなたの父上には茶だけでなく、お世話になってますから」
「こちらこそ、師匠に茶の指導や商売の大切さを学んできました。ですからその様な大切な物は結構です」
「ならば、岡崎の方に気に入らるよう願掛けしましょう」
「ありがたき幸せにござる」
清吉は深々と首を垂れた。