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7 再び罠にかかる聖女


 月が空に上り、周囲はすっかり夜の闇に覆われていた。

 ぼんやりとたき火を眺めながらオリヴィア先生はお酒のグラスを傾ける。一つ息を吐いた後に、誰に話しかけるでもなく呟きはじめた。


「……私はこれまで、レイシア様を利用して自分が出世することしか考えていなかった。きっと見えない何かに追われていたのね」


 ……この人、なんか人生を振り返り出した。たき火には癒し効果があって、キャンパーの中にはこれにはまる人もいるって聞くけど、こういうことだったのか。

 先生はおつまみ用に私が焼いてあげた牛肉にフォークを突き刺した。口に運んだ後にもう一口お酒を飲む。


「この肉、すごく柔らかいですね。しかも、やけに味わい深い」

「低温でじっくり火を通しましたから。味わい深いのは粉末だしをすりこんでうまみをプラスしたからです。あとは塩と胡椒しかしていませんよ」


 私の解説を聞いたオリヴィア先生は頷きを返し、グラスの中の氷をカランと鳴らした。


「美味しいご飯が食べられますし、収納箱のおかげで冷たいお酒だって飲める。この暮らしも案外悪くはないのかもしれませんね。私もレイシア様と一緒に旅に出てもいいでしょうか?」

「お断りします。先生、もう帰ってください」


 彼女は少しすねたような表情を見せた後に、残っていたお酒を一気に飲み干した。


「帰りますよ、私にはエドワード様がお約束くださった軍事顧問のポストが待っているのですから」


 いつの間にそんな約束を……。

 たき火の癒し効果くらいじゃこの人の心は浄化できなかったみたいだ。私の〈ヒール〉をかけてみようかな。

 こっそり魔法を発動させようとしていたその時、オリヴィア先生が思い出したようにこちらに振り返った。


「そうそう、レイシア様も明日今一度、城に立ち寄ってほしいとのことです」

「え、私、もうこのまま王国を出ようと思っていたんですけど」

「だから私に言付けを頼んだのでしょう。明日、王都の国民に向けて新国王のお披露目をするそうで、ぜひ聖女様にも同席してほしいのだとか」

「王位継承って一日で済むものなのですか?」

「ゴドウィン様がついていますし、エドワード様は明らかに父王様よりお仕事のできる方ですからね」


 そういうことならと、明日お城に寄ることを私は了承した。すると、先生はもう一度意思を確認するように尋ねてくる。


「行くと言っているじゃないですか」

「私はきちんとお昼の間に警告しましたからね」

「……ん、どういうことです?」


 お昼って他愛ない雑談をしただけでは?


 よく分からなかったものの、この日はキャンプで夜を明かし、翌朝、オリヴィア先生と共に王都へと戻るべく馬車を走らせた。(ちなみに、魔力を使えば馬達に意思を伝えられることが判明したので私が操縦した)

 王都に着くと私は国民達から熱烈な歓迎を受けた。昨日のことが噂になっているらしく、あちこちから「ホームレス聖女様!」と呼ぶ声が聞こえる。いやいや、今はボロ服纏ってないでしょ。

 まるでパレードのように町を通過して馬車は城に入った。


 城門を通る際、ものすごく申し訳なさそうに頭を下げる門番達の姿が目に入る。あなた達が悪いわけじゃないから気にしないでください。

 城の中では数人の王子王女達が温かく出迎えてくれた。何でも間もなくエドワード新国王様のお披露目が始まるそうなので一緒に最上階のテラスへと向かうことに。


 眼下には大勢の国民が集まっているのが見て取れた。数万人はいるだろうか。エドワード様以外の兄弟が一列に並んでいるので私もそこに加わる。

 と隣に立つ王女が体をビクッとさせた。ああ、第四王女のメリンダ様だ。


「……レ、レイシア様、さ、昨日は大変ご無礼を働きまして……!」


 彼女は泣きそうな声で何度も頭を下げてきた。すっかり私に対する恐怖が根付いてしまった模様。


「……あなたももう気にしないでください」


 すると、私達二人の様子を見ていた王子王女達があえてこちらに聞こえるような声で。


「レイシア様は今日、王都周辺の魔獣をことごとく討伐しながら帰ってらしたそうだ」

「まあ、さすがは武神に劣らぬ力をお持ちの聖女様ね!」


 そう、城に帰還する道中、私は感知した魔獣に片っ端から魔力波動パンチを撃ってきた。一頭当たり数万から数十万かと思うともったいなくて……、じゃなくて、一帯が少しでも安全になればと思って。

 現在、私が腰に提げた袋には魔石がたんまり詰まっている。この後、換金に行くのが楽しみだ。

 ついこぼれそうになる笑みを必死に我慢していると、隣ではメリンダ様がもう涙を流しながら全身を震えさせていた。


「ささささ! 昨日は! たたたた! 大変ご無礼を!」

「……気にしないでください」


 どうやらお兄様お姉様方はまだこの子を許していなかったらしい。私を使って懲らしめるのはやめてください。


 そうこうしている間に、エドワード様が新国王の正装で姿を現した。服装のせいもあるけど、やっぱり王子だった時とは雰囲気が違うね。

 彼は私を見て小さく微笑んだ後に(ん?)、国民達に向けて所信演説を始めた。

 うーん、私はこの手の話は苦手なんだよね。もうエドワード様が校長先生にしか見えない。国民の人達、貧血で倒れたりしないだろうか。などと心配しているうちに演説は終盤に。

 よし、魔石の換金に行ける! と思っていたその時だった。


「最後に、この場の皆に発表したいことがあるので聞いてほしい。私とここにおられる聖女レイシア様は正式に婚約することが決まった」


 …………、……はい?


 私は王子王女達に背中を押されてエドワード様の横に並ばされた。集まった数万の国民達から大歓声が沸き起こる。

 まだ状況が飲みこめていない私に、新国王は再び微笑みを向けてきた。


「勝手なことをして申し訳ありません。ですが、私はレイシア様がお答を出すまで待つつもりですので、ご安心ください」


 彼の話を聞いていて、遅ればせながら私の脳裏には昨日のオリヴィア先生との雑談が甦ってきていた。恋愛に関してはエドワード様は腹黒い、という話だ。

 し! しまった! これは罠だったのか!


 ちょうどタイミングよく、後ろに控えていた先生が私の背後にやって来て耳元で囁いた。


「だから言ったでしょう。レイシア様、王都中の民の前で宣言されて、婚約を破棄できますか?」


 ……破棄、できないかも。



ハッピーエンド? な終わり方ですが、最後までお読みいただき有難うございました。


一つ前に書いた小説も完結済みですので、こちらもお読みいただければ嬉しいです。

この下にリンクをご用意しました。

『社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~』


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陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~



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