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6 現金な聖女


 私は薄暗く少し生暖かい場所にいた。生物としての本能がビシバシ警告を発してくる。一刻も早くここから出ろ、と。


 現在の私がどういう状況にあるのか説明すると、上から魔竜ギルゴノスにかぶりつかれ、上半身がすっぽりその口の中に収まっている感じだ。


 確かに生物としては危機的な状態にあるんだけど、私は全くの無傷だった。

 体を覆う魔力がしっかりと守ってくれている。魔竜の方は何とか噛み砕こうと顎をガシガシ動かしてくるものの、言葉通り全然歯が立たないらしい。あ、牙が欠けた。

 魔力を八分の一にしろと言われた時は正直不安に思ったけど、本当にこの量でも大丈夫みたいだね。でも、ちょっと待って。


 私は両手で魔竜の口を押し開ける。馬車の御者台にいるオリヴィア先生の方に振り向いた。


「無理せずもっと魔力を引き出したらいいのでは?」

「駄目ですよ、相手方が逃げてしまうので。その魔力量はどうにか倒せると思わせる最適なところを狙っているのです」


 ふーむ、言われてみればギルゴノスからはこの期に及んで「頑張れば食べられるはず!」という意思が伝わってくる。牙が欠けても諦めないその根性は称賛に値するけど、こっちも食べられてあげるわけにはいかない。


 魔竜の口から逃れた私は、距離を取って体勢を立て直す。

 前世を通じて暴力沙汰とは無縁だった私が選んだ反撃手段は、以前に雲に穴を空けた時と同様だった。拳に魔力を集中させ、突き出すと同時に発射。

 魔力波動パンチ!


 遠距離から放たれた魔力の塊がギルゴノスの腹部を直撃。魔竜はその巨体を浮き上がらせて後方へと吹き飛んだ。

 復活してこないかと警戒して見つめていると、なんと全身が塵へと変わっていく。後には煌く宝石だけが残されていた。

 戦利品を拾い上げると説明を求める視線でオリヴィア先生を見た。


「それは魔石です。魔獣の魔力が結晶化したもので、高値で取引されています」

「高値ってどれくらいですか?」

「その魔石なら二十万リトくらいでしょうか」

「に、二十万、あんなに簡単に倒せる魔獣がそんな大金に!」

「ワンパンで簡単に倒せたのはレイシア様だからですよ。ギルゴノスは通常なら騎士五人ほどでかからなければならない魔獣ですから。あの大きさですし」


 なるほど、この世界では腕力があればあっさりお金が稼げるのか……。ワンパンで二十万……。

 馬車に戻った私は即座に魔力感知を再開させた。


「……先生、もう一頭ギルゴノスを狩りにいきましょうか」

「一度ホームレスに転落しただけあって金に意地汚くなっていますね」

「お金の大切さを知ったと言ってください。私を強く育ててくれて感謝します、先生」

「あなたのような人を現金な人間と言うのですよ」


 はい、現金がいかに大事か、私は物乞いをして学びました。


 結局ギルゴノスは却下されたものの、他の種族の魔獣を狩りにいくことで手を打った。竜以外にも普通の獣をベースに巨大化させたような魔獣が存在し、私とオリヴィア先生の感知で魔狼種や魔猪種を見つけることができた。



 ――手の中の宝石達を眺めながら私は笑いを抑えることができずにいた。

 この魔石だけで合計百万リトくらいあるらしい。一時間ちょっと魔力波動パンチを数発撃っただけで百万……。もう笑いが止まらない。

 冷めた目で私を見ていたオリヴィア先生が馬車を停止させた。


「もう暗くなってきたのでこの辺りで野宿します。夕食にしましょう」


 そう言って彼女が収納箱から取り出してきたのはパンとハムだった。それらをボンボンと二人の間に置き、「さあ、食べますよ」と。


「いやいや、もっと色々な食材がありましたよね? せっかくだから調理してきちんとキャンプしましょうよ」

「きちんとキャンプ、とは何なんですか?」


 アウトドアを楽しむという文化はこの世界ではあまり根付いていないみたいだ。ゴドウィン様なら理解してくれたかもしれないけど。

 旅好きの公爵様が作ったこの馬車は外でも快適に過ごせるように機能が充実している。


 私は馬車の下に収められていた折り畳みのテーブルと椅子を取り出して設置。炎を発する魔法具、火炎板を発動させてたき火を作った。馬車の中にも調理スペースがあるんだけど、今回はこのたき火を利用して外で料理をする。


 たき火にかけた鍋でジャガイモ、ニンジン、タマネギ、豚肉を煮込んでいく。この具材ならカレーにしたいところだけど、あいにく収納箱にルウは入っていなかったのでスープにすることに。

 収納箱にはルウはなくとも、驚いたことに粉末だしがあった。どうやらゴドウィン様が東方から取り寄せたらしい。粉末だしとは言わばうま味成分の塊。あらゆる料理に活用可能だ。

 とりあえず鍋にだしと塩、オリーブオイルとローリエなどのハーブを投入。これでそのうち美味しいスープができ上がる。


 さらに、オリヴィア先生が丸のまま食べようとしていたパンとハムを使ってサンドイッチを作っていく。

 何か生野菜はないかと収納箱を覗いているとキューリを発見。

 この魔法の大容量収納箱は中が別次元になっているようで、相当な量の物が入るし、収納中は時間も停止している模様。なので、野菜や肉は新鮮なままだし、入れた時の温度がそのまま維持されるという優れ物だ。

 それで、取り出したキューリだけど、スライスしたこれに粉末だしと塩をもみこむ。これでご飯が進む浅漬けの完成。

 今日はそのまま食べずに、マヨネーズをしてハムと一緒にパンに挟む。ハムキューリサンドができ上がった。


 頃合よくスープも仕上がったので、夕食にしようかな。

 とテーブルにお皿類を並べていて、目を丸くしているオリヴィア先生に気付いた。


「レイシア様、まさかこんなに料理ができたなんて……」

「前世の私は母子家庭だったので自然と覚えたんです。それに」


 それに、前世の私はとあるキャンプ漫画の影響でそれに憧れていた。高校に入ったら絶対にソロキャンデビューしようと入念に準備もしたり。

 ……結局、デビューの日に事故に遭って他界したんだけど。



キャンプものの主人公って料理できないと務まらない気がします。これはホームレスものですけど。


ホームレス聖女の特性

・お金が大事。

・そこそこ美味しいキャンプ飯が作れる。


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陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~



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