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予定外

作者: 通りすがり

どこだかわからない、深い霧に包まれた場所。足元はぬかるみ、冷たい空気が肌を刺す。若い男は、自分がなぜここにいるのか、全く理解できなかった。最後に覚えているのは、橋の上から川の流れを見下ろしていた時の目も眩むような高さと、そこからの落下の恐怖だけだった。

「勝手に死なれたら困るな」

低い、それでいてよく響く声が、霧の中から現れた黒いコートの男によって放たれた。男の顔は影になって見えないが、その声には有無を言わせぬ威圧感があった。

「別に死にたくて死んだんじゃない」

若い男は、苛立ちを隠せずに答えた。

「だって川に身投げしただろう」

「違う、橋から川の流れを見ていたら眩暈がして落ちてしまったんだ。あれは事故だ」

「ならまだ生きたいのか」

「もちろんだ」

「なら話は早い、お前を生き返らせてやる。お前はまだ死ぬ予定じゃなかったからこっちも困っていたんだよ」

黒いコートの男はそう言うと、若い男の肩に手を置いた。その瞬間、若い男の体は光に包まれた。



少し離れた場所で、二つの影がそのやり取りを静かに見守っていた。一方は背の高い鬼、もう一方は小柄な鬼だ。

「予定より早く来ると何がまずいんだ」

新参者の小柄な鬼が尋ねた。

「急だと、死後の行先を決めるための資料が揃ってないからな。資料揃えるのにはそれなりに手間と時間がかかるから予定外は迷惑なんだよ」

背の高い鬼が答えた。その声は、どこか退屈そうだった。

「それにしても、生き返らせるって、もう肉体は死んでるんだよな」

「ああ」

「じゃあ生き返らせないじゃないか」

「別に肉体は何でもいい、適当なのに魂を押し込めばいいだけだ」

「それで大丈夫なのか」

「よくあることだよ。とりあえずあの魂がちゃんと予定通りにここに来さえすれば他のことはどうでもいいのさ」

「意外と適当なんだな、地獄というとこも」

小柄な鬼が呆れたように言うと、二匹の鬼は顔を見合わせて笑い出した。



若い男が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。ひどく体が重く感じる。窓の外には見慣れない街並みが広がっている。

(ここはどこなんだ。それになんだか体がうまく動かせないぞ)


彼はまだ知らない。自分がこれから、人間ではない何かとしてしっかり予定まで生きていがなければならないことを。

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