監禁されたけど3秒で縄を解いたら、ヤンデレ王子の心が精神的に追い詰められていきました
王城の一角。昼なお暗い回廊を、靴音を立てずに歩く一人の男がいた。
「……今日こそ、君を僕のものに」
金髪碧眼の王子、リーガル・フォン・ヴェルクスシュタイン。
その瞳には、狂おしいほどの執着が燃えていた。
相手は――公爵令嬢、カレン・ディア=シュトラウス。
気高く、美しく。そして何より、
「誰にも縛られたくない」という信念を持つ、自由奔放な令嬢である。
「殿下、お呼びだと伺いましたが……」
優雅な足取りで扉を開けたカレン。
しかし次の瞬間――ふわりと漂った香りに、意識が暗転した。
* * *
「……っ、ここは……?」
目覚めると、そこは天蓋付きの寝台の上。
両手両足を、絹の縄で優しく、だが確実に縛られていた。
「ようやく起きたね、カレン」
傍らの椅子には、リーガル殿下。
その笑顔は、いつもの優雅なものとは程遠く、どこか壊れていた。
「これでようやく、君と僕は一つになれる。ずっと、ここで暮らそう。離れられないように、ずっと……」
淡々と囁くその声。常人ならば恐怖に震えたことだろう。
だが――
「――嫌ですわ」
カレンは優雅に微笑み、何事もなかったかのように、するりと縄を解いて立ち上がった。
「!?」
リーガルの目が見開かれる。
「殿下。わたくし、縛られるのは趣味ではございませんの。こういうの、得意でしてよ?」
さらりと縄をベッドに置くカレン。
「……少し優しくしすぎたかな。もう一度、縛り直そうか」
呟くように言ったかと思うと、リーガルはカレンを押し倒し、再び縄で縛った。
「殿下、少々お乱暴では?」
「すまない。でも君の心を縛るには、こうするしかないんだ」
「縄だけに? ですか」
冷静なカレンをベッドに固定し、先ほどより強めに縛り上げたリーガルは、確信に満ちた声で告げた。
「これで……君は僕のものだ」
「……ふぅ」
難なく縄を解くカレン。
「!?!?」
「殿下。わたくしが“縛られるのが嫌な女”だと、まだ理解してくださらないのかしら?」
「……どうやったんだ。確かに、さっきよりキツく縛ったはず……」
「だから言いましたでしょう。こういうの、得意なんですの」
“得意で済むのか!?”と内心叫びながらも、殿下は即座に次の手段に出た。
「もういい、次はこれだ!」
再びカレンを押さえつけ、今度は鎖でぐるぐる巻きにする。
「今度は違う。これは特殊合金製の鎖だ。鍵もかけた。これなら魔法も使えまい」
「それで、殿下。わたくしを縛って、どうなさるおつもりで?」
いつの間にか拘束を解き、涼しい顔で尋ねるカレン。
「なっ……!? 解いてる!? どうやって……」
「ですから、得意でしてよ」
「得意で済ますな!!」
殿下はついに取り乱した。
「いいや、もう一度だ……今度こそ!」
再び拘束に取りかかるリーガル。
今度は、スモーク入りの仮面をかぶり、溶接機まで持ち出してきた。
「殿下、何をなさって……?」
「溶接だ。今までの鎖じゃ不十分だった。これで“二度と”逃げられなくしてやる!」
火花が飛ぶ。もはや王子の脳内は「縛る」一択だった。
「よしっ……これで完璧だ……!」
額の汗を拭い、殿下は息を吐いた。
「これで、本当に君は……!」
「終わりました?」
背後から聞こえる落ち着き払った声。
振り返ると、そこにはまたしても自由の身になったカレンの姿が。
「わたくし、こういうの――」
「うわああああぁぁぁぁ!!」
ありえない出来事に恐怖で絶叫する王子。天井が震えた。
「……得意でしてよ」
小声で、だがはっきりと告げるカレン。
足元には外された鎖、そして仮面。
「ちなみにこの合金、素材の配合が中途半端でしたわ。弱火で三分加熱すれば柔らかくなりますのよ。まあ、わたくしならそんな小細工しなくても脱出できますけどね」
「…………」
リーガルは遠くを見つめていた。
「殿下。もしかして――わたくしに、拘束プレイでもお望みでしたの?」
「ちがぁぁぁう!!」
王子は叫び、新しいロープを取り出した。
自分でも、何度目かわからない。
「まだだ……君が観念するまで、僕は――!」
「殿下、そろそろ諦めてお茶にしませんこと? 喉が渇きましたわ」
その一言で、手からロープが落ちた。
「……僕は……何をしていたんだ……」
* * *
「おかわり、いかがです?」
「……ああ」
いつの間にか、カレンに紅茶を淹れられ、机を挟んで向かい合っているリーガル。
縄も、ワイヤーも、仮面も、溶接機も――すべて手放していた。
「次からは、もっと“心を縛る”アプローチでお願いしますわね?」
「心を……縛る……」
その言葉を反芻する王子。
その横で、カレンはふっと微笑む。
「殿下。あなた、案外――可愛いですわね?」
「…………っ」
王子は顔を赤らめ、そっと目を逸らした。
* * *
こうして、物理で縛っても解かれてしまうため、
“心を縛る”方向へと切り替えた王子と、
逆に殿下を転がす令嬢の、奇妙な攻防が幕を開けたのだった。
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