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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お繋がりに参りました

作者:

「おじさん、今日はおじさんが子供の頃の話をしてくれるんでしょ? 早く聞かせてよ〜」

「そう急かすな、はぁ……聞いたら寝ろよ?」

「うん!」


俺は目を瞑り、昔の記憶を掘り起こしながら話し始めた。



これは俺がまだ中学一年生だった頃の記憶だ。

この記憶は随分と虫喰いのように穴だらけであり、朧げであるが、ゆっくりとそれを埋めていこうと思う。


中学生一年生になり初めての夏休みを謳歌していた俺は、部屋でダラダラと過ごしていた。

冷房が効いている部屋で過ごす一日は俺にとっては幸せ以外の何物でもなかったが、少々物足りなさを感じていたのだ。


健全な学生は部活や友人達との交流があるだろう。しかし、俺はそう言うのとはあまり縁のない学生時代を歩んでいた。まぁ、理由はあるし、それが理由で腐れ縁とも呼べる友人ができたので悪くはない。


まぁ、なので部活も遊びの予定も当然ながら入っておらず、夏休みの宿題は日記のみで後は日が過ぎるのを待つだけであった。まぁ、書くとしても今日は楽しかったくらいだろうな。学校の日記は皆んなそんなもんだろ?


「あ?」


そんな暇を持て余していた時だった。ぼーっと携帯で子犬が砂浜を走り回る動画を見ているとメッセージが来た。


送り主は友人の一人だった。名前は……よく思い出せないからT君としよう。


『なぁ、これさおもしろくね?』


そのメッセージと共に送られてきていたのは一枚の画像だった。


『 おつかれさまです。

貴方は████様より御繋がりになられました。

おめでとう御座います。


████様は既に繋がれました。

ありがとう御座います。


他の方も時期に御繋がりいただけます。

ありがとう御座います。


もし、貴方も繋がれたいのなら動画を最後までご確認ください。きっと上手くいきます。 』


画像は一通のメールのようだったが、その内容はあまりにも異質だった。

パッと見た正直な感想を言うのであれば、気持ち悪いだった。 全くもって面白くはない。

T君も当然のことながら心当たりはなく、嫌がらせの迷惑メールだろうと思っているようだった。

文字だけなら無視をしようと思っていたのだが、問題はその動画であったらしい。


Tが言うにはその動画では家の前が映し出されていたようだ。そして家の前の電灯にはロープがぶら下げられていたらしい。ご丁寧に先端には大きめの輪っかが作られていたのだとか。


『なぁ、なぁ、これ面白くね? 流行りのAI生成ってやつ? 』


どう返事をしたものかと考える。

動画が悪戯であり、仮に流行りのAI生成によって作られたものであってもTの個人情報が漏れていることには違いない。


取り敢えず、俺はT君に動画は最後まで見たのか? と聞いてみた。するとT君からは『見た』とだけ返事が返ってきた。


「一応、叔父さんにも聞いてみるか」


俺の父親の知り合いにそう言うのが詳しい人がいる。俺は度々そういった事に巻き込まれるので連絡先を持っているのだ。


俺は万が一を考え、叔父さんに連絡を入れる。

画像とそれが本物かどうかの確認して欲しいと、メッセージを送る。


「勘違いだと嬉しいんだけどな」


その日の夜だった。俺は妙な夢を見た。

今までに感じたことのない感覚であったのを覚えている。まるで、それが自分ではない別の誰かであるような……身体を動かしているのではなく、動かされているような気分だ。

そんな俺は小さな台とロープをせっせと運んでいた。


歩いている場所はよく知っている道通りだった。学校から家に帰るまでの通り道であり、よく途中の駄菓子屋に寄って夏の日は氷菓を買っていた。


しかし、夢の中では駄菓子屋によることはなかった。そして、たどり着いたのは俺の家だった。

家に入るのかと思ったが、門から庭に入り、小さな台を置いて、ロープを木の枝に結ぶ。


どうしてそんな事をしたのかって? いや、わからないんだよな。不思議とそうしなければいけない気ががした。そうするべきだと考えたんだろう。


俺は小さな台に乗り、ロープの先についた輪っかに自分の首を通す。


これから自分がするであろう事はその時には理解していた。しかし、それに対する恐怖が全くもって湧いてこないのだ。だから、それを止めようとする意思も出ず、俺は目を閉じてその台から飛び降りるしかなかった。


全身の重さによって首が締まるが苦しくない、それどころか身体が浮くように軽く、心地よさすら感じた。


意識が朦朧とし出した時だった。バキっと音がなり俺は地面へと落下する。

首にはロープが巻きつき、上を見上げると枝がグシャリと折れていた。


痛む尻を摩りながら上を見上げて、なぜか強い憎しみをその枝へと向ける。そして次に目線を向けたのは俺の部屋の窓だった。


「……見てない」


友達にでも裏切られたかのような声だった。

それを聞いた俺はハッと目を覚ます。


「はぁ、はぁ……はぁ……」


起きるとすぐに感じたのは妙な息苦しさであり、大量の汗をかいている事に気がつく。

時間はまだ夜中の3時を過ぎた頃であった。

二度寝をしようと思ったが、その夢の事が頭から離れず、寝付けずにいた。

メールボックスを見ると一通だけ送られてきていた。なんだろうかと思い、開いてみたがすぐに閉じた。


「はぁ……あいつ、性格悪すぎだろ」


結局、俺は携帯で夢の事をメモすることで暇を潰してその夜は過ごした。


朝を迎え、夢のことがまだ頭の中に残っていた頃だった。母が俺を起こしに部屋に入った時だった、悲鳴のような声で俺に駆け寄る。


「どうしたの!? この首の痕は何?」

「え?」


母にそう言われた俺は洗面所の鏡で自分を見る。すると俺の首には締め付けられたような痕が残っており、赤色になっていた。まるでロープにでも絞められたような、そんな痕だった。


それ見た俺は急いで窓を開け、庭の木を見る。

すると庭の木の下にはポトリと枝が折れて落ちていた。


「か、母さん。庭の木が折れてるんだけど」

「昨日は風が強かったからね。それで折れたんでしょ? そんなことよりも、あんたの首よ! それ平気なの? 」

「まぁ、平気だよ。夜、変な夢を見てさ、それが原因かも」

「そう? うーん、病院行く?」

「いや、本当に大丈夫だって、平気だから」


何度か同じやり取りをして結局は病院に行く事になった。まぁ、子供がいきなり首に痣を作っていたら心配もするだろう。

だが、その時の俺はそんな事を考えられるほどの余裕はなかった。


「午後に病院に行くからね?」

「そんな心配しなくてもいいのに」

「じゃあ、そんな痣を作らないでちょうだい」


ご尤もな指摘にぐうの音も出なかった。

そんな時、家の電話が鳴り響く。まだ何か言いたげだった母さんは、俺に目を向けながらも電話の対応をしにいった。


俺はふぅ、と息を吐き。携帯を見る。夜中に書いたメモは所々文章が変だが、その内容をしっかりと書いている。


「はぁ、あれは俺ではなかったのか」


あの夢でロープや台を運んでいたのは俺ではなかった。つまり、他人が動いているのを一人称視点で見ていたわけだ。


だとするとあれは一体誰だったのだろうか。そもそも実在するのだろうか?夢の中なのだ、俺が勝手に想像した人物かもしれない。


そう思いながらメモを最後まで読む。するとメモの最後にその人物に繋がりそうなことが書かれていた。


『聞いたことのある声だった』と。


俺が誰の声なんだろうかと考えたとき、母の真剣な声で俺を呼ぶのが聞こえた。


「ちょっと、……代わりなさい」

「わ、わかったよ」


俺へ電話に代わるように言う。


「あ、██君? あのね……がね…んじゃったの」

「えっ……?」


俺は気がつけば呆然と宙を眺めていた。

T君のお母さんは泣きながらも俺に伝えてくれた。


死因は自殺らしい。首をロープで吊って自殺したとの事だった。

最初にそれを発見したのはT君のお母さんらしく。次にその悲鳴を聞いたお父さんが駆けつけた。ロープからT君を下ろした時は既にその身体は冷たく、固くなっていたそうだ。


俺はT君のお母さんとの電話を切る。

足の力が抜け、その場に座り込むように崩れた。


「大丈夫よ……大丈夫だから」


母さんは俺が友達を失って、悲しんでいると思っているのだろう。しかし、その時の俺はただ怖くて仕方がなかった。

なぜなら、俺にあの夜……メールを送ってきたのはT君だったからだ。


俺が夢から覚めたあの夜、あの時間にT君は送ってきていたのだ。

件名が『迷惑メールの件』だったから、あの時は見る気を失せた。

メールをもう一度だけ開く。俺はギョッとした。


『みてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてないみてない』


俺はすぐにメールを閉じ、そのメールをスライドして削除した。


「そうか……そうだったんだ」


あの夢で、最後に聞こえた一言……あれはT君の声だったのかと気づく。


それ以上、その事について考えるのをやめた。

T君がどうして俺を吊ろうとしたのか、あの時、どうして悲しそうな声だったのか。

……俺は思考をそこで止めた。


T君が死んだ翌日、俺の電話に警察から連絡がきた。どうも最後にT君と連絡を取っていたのが俺だったそうだ。


警察の質問はとても簡潔なものだった。


『T君が送った画像はどんなものでしたか?』


その質問を聞いた時に不思議に思ったのを覚えている。どうして送り先である俺から聞こうとするんだろうかと。画像を送ったのはT君なのだから、そっちの携帯を見れば済む話ではないかと。


警察には迷惑メールの画像だった事を伝えた。

その内容が気持ち悪く、それを面白がったT君が送ってきたと説明した。


警察はそれを聞いて妙に納得したような反応を示した。


『あー、なるほど。わかりました、ありがとうございます』


それで警察とのやり取りは終わった。

人が死んでいるのに子供のそれだけの説明で納得するのだろうかと疑問に思ったが、今思えば警察はあの画像について知っていたのだろう。


もしかしてと思い、俺はアプリでT君とのメッセージの履歴を確認する。すると、T君から送られてきた画像は真っ黒になっており、タップしても黒い画像が表示されるだけであった。


T君が死んだ三日後に叔父さんからメッセージが送られてきた。


『動画は見るな。見れば吊られるぞ』


それだけ送られてきた。

つまり、あれはそう言うものだった訳だ。叔父さんは、あまり長い文章は送ってこない。


叔父さんには友達が連れていかれたとだけ送る。

するとすぐに既読がつき、叔父さんは『そうか』とだけ送ってきた。


叔父さんのメッセージを見た俺は、そっとメールボックスの中にある新着のメールを見ない事にした。


消しても消してもそれは送られてきている。

俺はあのメール以降、それが誰から送られてきているのか、どんな内容なのかは見ていない。

きっとそれは現世にいない人物からのメールなのだから。



「……どうだ?」

「怖かった。今でもメールは来る?」

「……ほらよ」

「うわっ999件ってなってる! 見てないんだね」

「死ぬかもしれないからな。 ほれ、今日はもう寝ろよ」

「うん、明日はどんな話してくれる?」

「そうだな……雨についての話をするか。明日は雨らしいからな」


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