夜の明かり
朝、線路を駆け抜ける電車の音で目が覚めた。少し肌寒く感じたけれど朝の光がこれほどまでに綺麗だと思ったことはこの日以来無い。
温かくて、枕にするには少々高い腕が心地良かった。
早朝の肌寒さが私たちの体温に染まっていく、そんな朝のことだった。
「…おはよう」
ずいぶん経ってからあなたは眠い目を擦りながら私にそう言った。
起きたばかりのあなたの声がなぜか愛おしくてたまらなってしまい、朝からあなたの胸に飛び込んでしまった。
背中をあなたの温かい手が包み込んでくれた。
「朝ごはん作るよ、どんなのが良いとかある?」
そう言うとあなたは、納豆は臭いかな…とぼそっと呟いてから考え込んでしまった。
いつも朝ごはんに納豆食べてるの?と聞くとこくりと頷いたのでじゃあいつも食べてる朝ごはんを食べてみたいと言ってみた。簡単なものでごめんねと手を合わせて困ったように言う表情にまた愛おしさを感じてしまった。
「あ、その格好じゃ寒いよね!なんか取ってくる!」
聞き慣れない足音を聞くと改めて人様の家にいることを実感して、身体がじんじんと熱くなってきてしまった。はい!と優しく渡されたTシャツは普段のサイズよりも随分と大きく、体格差を改めて感じてどこか寂しくなってしまった。さっきまで抱いていたはずのあなたの身体が遠いもののように感じられた。
「白藤さんは普段朝ごはん何食べてるの?パン派?ご飯派?」
いただきます、とよく手入れされた大きな手を合わせて言った後、箸へ手を伸ばしながら私に問いかけた。忙しない様子なのにどこか品のある食べ方で、箸の持ち方も綺麗だったので少し見惚れてしまった。
朝は何も食べないと答えると、えー!と目を丸くしていた。何か言いたげな顔をしていたが変に口出ししてはいけないと思ったのか黙り込んでスマホを見てしまった。
「あ、え今日の一限、教授体調崩して休みだって」
あなたはスマホの画面を私に見せながら教授最近ちょっと声掠れてたもんなぁ〜と呟いた。私は今日一限しか授業がないため全休になるが、そんなことよりもあなたと話がしたいと思った。これからどうなっていくのか、あなたがどうしたいのか。出来れば、もっと一緒にいたいなんて思ってしまった。
「…食べ終わったら話せる時間あったりする?出来ればこれから…?のこと、話したい!です。」
箸を置いて、さっきまでの表情とは打って変わって真面目な表情で私を見る。
まだ肌寒い朝にあなたのTシャツに包み込まれた私の身体が温まっていく。そんな夜の明かりだった。