夜の盛り
「瀬戸くん…!」
彼女がとろけそうな顔をしたせいか、この初夏の暑さのせいか、尋常じゃないほど鳴っている鼓動を僕は必死に彼女に聴こえないようにしていた。僕は彼女に触れたくてたまらなくなって、彼女の胸元に秘められている果実に傷がついてしまわないように慎重に手にする。それはびっくりするほど柔らかく、甘いものだった。
僕はもう彼女に溶けていた。引き返すにはもう遅かった。
彼女の甘い匂いが冷房までもつけ忘れた部屋に肩を寄せるように残っていく。そんな初夏の夜のことだった。
「…来て」
ようやく舌を離すと、彼女は両手を広げ、精一杯の声でそう言った。彼女の鼓動もまた激しく鳴っているのだろうか。そうであって欲しいと思いながら、彼女の両手に飛び込み、胸に顔をうずくめる。彼女の鼓動を、体温をゆっくりと感じた。
しばらくしてから彼女の鼓動が落ち着いてきたので、彼女の顔を包み込み、額にそっとキスをする。とても小さい彼女の顔は僕の手ですっぽりとおさまってしまう。地毛なのだろうか、少し明るい髪、すっかり落ちてしまった口紅、少し崩れてしまったファンデーションから真っ白な素肌がのぞいている。
彼女の本当の姿をもっと見せてほしい、そんなことを思ってしまった。
ベッドに移動するために彼女を抱き寄せ、慣れないお姫様抱っこをしてみる。さっきまであんなにキスをしていたのに、こう顔を近づけると照れてしまう。
「だ、大輝くん…?」
ベッドに乗せると彼女は可愛らしくも艶っぽい声で僕の名前を呼んだ。彼女のつぶらな瞳に僕が写っていた。
その瞳が愛おしくて仕方がなくなり、彼女の首のほくろにそっとキスをする。そして彼女の首筋や耳を舐め回す。彼女の甘美な声が耳元に伝わってくる。それは僕の心を躍らせるには十分すぎた。
「もっと触って…」
彼女は僕の両手を顔まわりや胸元に持っていき、肌に滑らして少し照れた表情でそう言った。彼女の頬を赤く染めた色は耳にまで達していた。首筋には彼女から移ったであろう口紅の色がほんのりのっていた。
もっと彼女に溶けたい。このまま彼女と一緒に溶けてしまいたい。
腰や太もも、足首と彼女の曲線をなぞるように触り、舐める。そのうちに僕は彼女の甘い蜜までも舐め始め、柔らかい果肉に撫でるようにして指を沈ませる。
深く沈めたところで、彼女の蜜と吐息に混ざる甘い声が溢れ出してしまった。
僕はそんな彼女の顔にそっと触れ頬にキスをする。
彼女の温かく、甘い声と僕の張り裂けそうな心臓の音が触れ合っていく。そんな、夜の盛りだった。