1-3(2)
三人は蛇のように身をくねらせながら、菌糸が張り巡らされた通路をすり抜けていく。
しばらくして、多少安全だと判断した弥往終は二人と並んで歩きながら、手にしていた電磁パルス発生器を理央に差し出した。
「これ、君に渡しておこう? 緑科と体学部では君たちを見かけなかったし、予備として持っていて!」
「じゃあ、君は?」
「ふふっ、もちろん私にもまだあるよ――」
突如として通路全体が激しく揺れた。錆びついたボルトが、まるで雨のように天井から降り注ぐ。
「――荷重構造が崩れた!? 待って、気をつけてっ!」
弥往終が一気に力を込めて二人を安全エリアへ突き飛ばした――
だがその直後、変形した鋼が彼女の左側を挟み込んだ。
鈍く響く骨の軋む音に少女の抑えた呻きが混ざる。左腕からじわりと暗紅色の血が滲み出した。
「な、何してるの……!?」
「大丈夫、気にしないで。まっすぐ進んで! 私はすぐ追いつくから……!」
弥往終は腕に走る鋭い痛みに耐えながら、歯を食いしばり、無理に笑みを浮かべてみせた。
「もう少し進めば完全に安全になるはず。……スーパーまでは、まだちょっと距離あるけど。」
「……」
「……」
「無理しないで。君も体学部ではないでしょ?」
理央は弥往終を支えながら言った。
「そうだね。」
和昭も頷き、弥往終に肩を貸して足早に歩き出す。
「わかった。次は、この先135メートル進んだところで右に曲がって、あとは……」
「まずは君を助ける。」
ロック機構がゆっくりと外れ、かすかながらもはっきりとした「カチリ」という音が響いた。まるで何かが解放されるかのようだった。
和昭はロックを強く押し、理央は同時に上に引っ張って、取っ手を「パシッ」と音を立てて外した。
「よかった、怪我したのが利き手じゃなくて。」
弥往終は二人と一緒に取っ手を握り締めた。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫じゃなくてもやるしかないでしょ。それに、ただの擦り傷だから大げさにしないでよ!今一番大変だったのは蓋を開けることだね。私が合図を出すから、みんなで一緒に引っ張ろう。」
「うん。」
弥往終は深呼吸をして、「準備——」
「3、2、1、引け!」
湿ったコンクリートの井戸の壁からぱらぱらと破片をこぼし落とす。錆びついたマンホール蓋が、耳をつんざくような金属音を立てながら、ゆっくりとずれていく。
一筋の白い光が水銀のように闇へと染み込み、カビ臭の中で螺旋状の塵を浮かび上がらせた。
その差し込んだ光に、弥往終は思わず目を細めたが、手の動きは無意識のまま押し上げ続けていた。
やがてその光は扇のように広がり、ついには滝のように降り注ぐ光の奔流へと変わる。
「開いた!!」
声が防毒マスクの中で鈍く響いた。
「意外と力を入れなくても開いたな。」
弥往終はこっそりと眉をひそめ、何気なく言った——防毒マスクの下では顔色が見えないから気にすることはなかった。
三人はまるで溺れかけた者が流木にすがりつくように、必死に井戸の縁を掴んでいた。防毒マスクのゴーグルには細かい水滴がびっしりと張りついている。
最後に井戸から這い上がった弥往終は、二人に腕を引かれ、ぐらりと体勢を崩して、積み上げられたプラスチックの箱に倒れ込んだ。
鈍い衝突音が地下室に鈍く響き渡る。
震える手で防毒マスクのバックルを外すと、鼻の奥に腐敗と消毒薬が入り混じった匂いが一気に押し寄せてくる。
彼女の視線は、棚に無造作に倒れ込んだミネラルウォーターのケースへと向かった。
かつては整然と並べられていた水のボトルたちは、今では床一面に散らばり、そのいくつかは踏みつけられて割れ、冷たい照明に濁った光を返していた──。
「やっと……着いたか。」
理央がぼそりと文句を漏らす。だが、ふと顔を上げると、弥往終は部屋の隅、壁の影に身を沈めていた。
右手は左腕をぎゅっと押さえ、濃い赤が服の繊維を伝ってじわじわと滲んでいく。
「傷、見せて。」
理央が手を伸ばすと、血の匂いが空気を割って広がった。
弥往終は横に体をそらして避けた。
「……ただの擦り傷って言ったでしょ。」
「でも、擦り傷の音じゃなかった気がする。」
カラン……。
どこからともなく転がってきた缶詰が理央の足元で止まった。
「私たち、まだそんなに仲良くないでしょう?」
弥往終が低い声で言った。
「私はまだ君たちの名前すら知らない。だから、そんなに心配しなくていい。」
少し間を置いて、彼女は続ける。
「……でも、君は商学部の光源理央でしょ?前に君の論文を読ませてもらったことがある。」
弥往終の視線がゆっくり横に流れる。
「それに、あっちのは文学部の夜桜和昭?」
闇の中から、布の擦れるかすかな音が聞こえた。
返事をする前に、理央の手が素早く万年筆の先を掌に構えた。
「誰だ?」
影の中からゆっくりと両手が挙げられ、もう一人の少女が棚の後ろから半身を出した。
「君たちは……終。怪我をしているんですね。」
「おや、千夏ちゃんもいたの?」
弥往終は慌てて傷ついた手を衣服で隠した。
「応急セットがここにあります。」
仮に「千夏」と呼ばれる少女が、タタタッと小走りでやってきて、歪んだ赤十字マークが描かれた救急箱を抱えてきた。
「外は混乱しています。今、私にできるのはこれだけです。他には誰もいません。」
弥往終は無言で救急箱を受け取る。冷凍庫のブゥーンという低い音が響く中、誰も口を開かなかった。
沈黙を破ったのは、光源理央がアルコール綿を開けたときの、その刺激的な匂いだった。
「まずは傷を処置する。無理しないで、命を救ってくれた人なんだから。」
「……そっか。じゃあ頼むよ。」
弥往終はようやく息を吐いた。
「三角巾の作り方、知ってる?骨折しちゃった、私。」
地下の冷蔵庫で、白熱灯がチカチカと不規則に瞬き、耳障りなブーンという音が響いていた。弥往終は背中を霜のついた金属ラックに預け、ゆっくりと自分の腕を見つめた。
――不自然な角度に曲がった前腕。
突き出した骨が皮膚を押し上げ、袖口には血が凍りついて氷の殻をつくっている。
手指はわずかに曲がることができる。脈を確かめながら、彼女はぽつりとつぶやいた。
「開放骨折、橈骨動脈は無事だったのが幸い。けど、今はちゃんと消毒して止血する余裕なんてない。ごめん、ちょっとルール違反する。」