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「外の騒ぎ、聞こえない?大変なことになったんだ!あのツルたち、しっかり私たちを追い続けてきて……もう少しで絡みつかれちゃって終わっちゃうのよ!」

 その言葉に合わせるように、和昭は無意識に拳を握りしめ、額にはまだ汗がにじんでいるーー緊張過ぎるだから。

 理央は深く息を吸い込み、気持ちを落ち着かせるようにしながら、弥往終をじっと見据え、冷静に、そして理路整然と話し出す。

「さっきの状況から判断すると、あの蔓たちはただの暴走ではない。なにかの規則に従って動いてる気がする。しかも明らかに私たちに敵意を向けて攻撃した。君がずっとここにいるうえに、食べ物禁止の図書館で堂々とケーキを食べていたんだから、何か知ってるはずだ。正直に話してほしい。」

「堂、堂々?!ど、どこが堂々とよおおおおおっ!!!」

 弥往終のツインテールがピョンと跳ね上がった。

「堂々としてたらこんなジメジメな狭い隅っこに隠れてコソコソとケーキを食べるの!?まあ古本修復室の隅だからといって、『正直に話してほしい』なんて、ありえないだよ!!ケーキをこっそり食べている現行犯に捕まったのに、知らないことを『正直に話してほしい』って……もう提蘭に飛び込んでも無罪にはならないやつ……ううぅ……」

「……君は緑科学部の学生でしょう?ほんと何も知らない?」

「う、うん、確か緑科のだけど、でも今の今まで何が起きてるのか全然分からないの!えっ、もしかしてーなになに?なんのこと!?何があったの!?」

「……科学的な突破を追い求め、その限界に挑むとか、倫理と安全の底線にギリギリで突っ走るとか、そういうのが緑科学部ではないでしょう?

 でないとしたら、なぜ植物が突然暴れて私たちを襲ってくるの?外の話ならまだしも、ここ復藤大学の内部だよ?こんなことをする能力と動機があるのは緑科しかいないでしょう?」

「ちょ、ちょっと待って!?緑科を鬼扱いするなよ!!ひどーー!」

「じゃあ逆に聞くけど、あの植物たちが何の理由もなく私たちを襲ってくるなんて本気で思ってる?そんな世界を滅ぼすような大騒動を起こせるのは君たちしかないのではないのか?もはや外……」

「理央……生々し過ぎる……」

「たとえそうであっても……このフェースをちゃんと見てよ!ね!どう見ても『世界を滅ぼす系の主人公やキャラ』に見えないでしょ!?私ってごく普通のやつなんだよ?毎日時間通りに授業に行ったり遊んだりしてるだけで、人混みにまぎれて一目ではピンと来ないくらい一般的な人間なんだからね!

 ほらほら!この黒髪!青い目!ツインテール!アホ毛付き!それだけだ!どこに『注目される要素』あるってのさ!?地味さの極みだよ!?めちゃくちゃ普通なの!」

 理央はしばらく考えた末、やっとこの言い回しを選んだ。

「その認知、なんかズレてない?てか、その言い分が逆に怪しい。」

「いやいやいやいや!?怪しくなんかないってば!?そもそも私が『世界を滅ぼす系』のことなんてするわけないし、したくもないし!

 ……ていうか、私には分からないんだよね。どうして人間って、関係ない他人にあんな酷い仕打ちをするのかって。

 つまり、なんで無関係な人に自分の怒りや憎しみをぶつけるの?どうして平穏な生活をわざわざ壊すの?命まで奪おうとするなんて……それって歪んだ心のせい?暗くて言えない何かがあるから?それとも、ただの本能?弱いものを踏みつけて、自分の存在を確かめたいだけ?

 でもさ、人ってさ、本当はもっと、支え合って生きてくべきだと思うんだよね?力こそ全て!って言って拳振り回して、仲間に痛みしか与えない生き方なんて、そんなの哀しすぎるよ!頭蓋をウェイトルームとして使い、力ずくで生存の法則を書き記す霊長類は、本当にしっかりしなければならない!」

 理央はわずかに目を細め、疑念を隠さずに問いかけた。

「じゃあ、なぜこんな状況でまだここでくつろいでケーキを食べてるの?」

「は!?どこが『くつろい』なのよ!!ケーキ食べてたってのんびりしてたって思わないでほしいんだけど!?こっちは課題のことで頭がパンク寸前なのよ!?期末課題だよ!?

『よし、この誰もいない小さな世界で三日三晩籠って集中して書くしかない!』って気合い入れて、でっかい荷物抱えてここまで来たのに!調べ物しようとした瞬間、いきなりあの騒ぎとかどういうことよーっ!!まさかまったくチャンスくれないんだ!!!」

 課題?

「そういえば、前に誤論フォーラムで緑科の学生たちについてのスレを耳にした。特に印象に残ったのが二人。ひとりは春の雀みたいに元気で、もうひとりは静かで穏やかな子だった。二人の性格は真逆なんだけど、なんかわからない行動をすることがあるんだって、そのスレはそう言った。」

「そう?」

「当時はちょっと大げさに感じてたけど、後であるビデオを見てから、ちょっと信じたかったけど……まさか今、本人に会うなんて……予想以外だね。」

 理央の耳元に和昭がこっそりと顔を近づけ、囁いた。

「そっか。それでどうする?」

「焦らないで、考えしてる。彼女は多分、信頼できるタイプだと思う。」

「理由は?」

「わざわざ図書館の古本修復室で資料調べてるから、伝統的な学び方に傾向があるかもしれない。とりあえず、『復古派なの?』とか『パソコン嫌い?』って聞いてみて。ここで雰囲気を壊してはいけない!さっき生々し過ぎる!」

「……分かった。」

 理央はこくりと頷いてから、声を少し張って弥往終に問いかける。

「……もしかして君、復古派?パソコンは使わないタイプ?」

「え、あ、いや……パソコンは使うのよ?ほら、端末も持ってるし!」

 弥往終は二人に右手のリング型端末をちょっと見せて、そしてケーキの底から、手書きのノートを1冊取り出した。色あせた紙には、植物のモニタリング図が細かく描かれている。

「でもね、この課題に必要な情報はネットには全然載ってない!」

 そう言って、彼女は突然、使ったことのないフォークの先で、ノートの余白に貼られた小さなシダの標本を指差した。

「見て、このシダの特殊反応。これを探し出すために、古本修復室で三日三晩かけて《植物行動予測モデル》って資料を探してたんだからね!?本当は三日三晩で課題書き上げるつもりだったのに、まさか資料探しで三日三晩使うとは……ちょっ、どうしたの?!」

 突如、和昭の身体が重くなり、机に倒れ込んだ。机の上に置かれていた水が倒れ、弥往終のノートの溝を伝って流れ出した。

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