ボタンに期待
ワイシャツのボタンをいつもより一つだけ多く開けてみた。
俺の隣の席のあいつは生徒会長の妹だが、しかしあいつは真面目すぎるわけで
はない。
だから、俺の制服の着方が乱れていようと、
『あーっ、制服の着方がおかしいよ。そんなことしてたらお兄ちゃんに言いつけちゃうんだからね』
なんて言うことはない。
そもそも、あいつのスカートだって先生方が望む長さからは幾分短いのだ。
それでも、何か言われることを期待してしまう。
こんなちっぽけなボタン一つに気付いてくれることを期待している。
出掛けに見たテレビの占いに恋愛運が最高だと言われたのが、俺を無性に期待させている。
教室に入って着席した俺を見るなりあいつは言った。
「寝癖」
──寝癖。
チーン。御愁傷様、俺。ポクポク。
「どうせ今朝寝坊したんでしょ」
ああそうだ、その通りだ。
いつもは占いの時間にはとっくに家を出ているのだ。
「ほら、制服だってぐしゃぐしゃだよ。ボタンくらい閉めたら?」
ああ、やはり。
今日の恋愛運は、確実に最高である。