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異世界で今や有名になった男1女3のパーティシリーズ

異世界で今や有名になった男1女3のパーティが過去に体験した絆を深めた話

作者:

木陰にいると暑さを忘れてしまいそうだった。


そよ風を感じる昼下がりは何者にも邪魔されぬ静寂を創り、目の前のこの輪さえなければ、今生きていることへの感謝を覚えられたかもしれない。


思い出されるのは、記憶。


仲間と過ごした、辛くとも楽しかった思い出の日々。


それも、もうすぐ終わりを迎える。


レンの前には、植物の蔦で作った輪があった。

本当に動けなくなってしまう前に、最後にこしらえたのだ。

それはちょうど頭が入るくらいの大きさで、その先は太い木の枝に固く結ばれている。

ぶら下がっても、千切れないくらいに。


…どうして、こんなことになってしまったのか。


きっかけは些細なことだった。


今にして思えば、とても下らない、取るに足らないこと。

でも、それは少しずつ膨れ上がり、蓄積し、膿んで…どうにもならなくなった。


別れて行動するようになってからも、無駄に時間を使ったわけではない。

一人でも過ごせていたし、途中までは何の問題もなかった。

けれど、彼女らはやっぱり偉大で、特殊で、異端で…。

そして何よりも、強かったのだ。


自分が情けなかった。

悔しかった。

戻って、謝ろうかとも考えたが…出来なかった。

あんなことを言って出てきたのだ。

自分の居場所なんて、もう、無い。


この状況を見たら、みんなは何て言うだろうか。


ルカは冷静に話をしてくれるだろう。

リンは大丈夫だよと言って安心させてくれるだろうか。

ミクは…一歩でも動いた瞬間に体当たりで突き飛ばしてくるに違いない。


そしてそれからは…。…。


止めよう。

こんなことを考えるために、これを作ったわけじゃない。

何度も、何日も悩んで、出した結論なのだ。

間違ってはいない…いや、間違っているのだろう。

でも、自分にはこれしかないのだ。


無慈悲な輪の中に、頭を入れる。


恐怖で、脚が震える。


これまでだって、命の危機に陥ったことはあった。

けど、そんな時、いつだって彼女らが居た。

ずっと、彼女らに支えられてきたのだ。


…ごめん。


…本当に、ごめんなさい。


涙が一筋、頬を伝った。

許してください。

罰を受けますから。

これから。

今から。


足を離した時に見えた光景は、予想もしなかったものだった。


…ミク?


さっきまでそこには誰もいなかったのに。

どうして?

そんなことを考える余裕はすぐに無くなった。


「ぐっ!」


首にかかった輪がギリギリと食い込む。

息が、出来ない。


ジタバタと手や足を動かすが、輪は締めるのを止めてくれない。

当然だ。

そうなるように作ったのだから。


細くしか開けられない目でミクの居た方を見る。


ミクは…無表情だった。

こちらを見てはいるものの、その顔からは何の感情も読み取れない。


「…!」


ミクを見た驚きで、息を全て吐き出してしまっていた。

途端に苦痛が全身を襲った。


苦しい。

辛い。

逃れたい。

せめて、十分に息を吸ってから飛べていたら…?


自分は何を考えているんだろう。

覚悟は出来ていた。

出来ていた…はず…。


意識が遠くなってきた。

もう目も開けていられなかった。


死ぬ。


そうか、死ぬんだ。


死…。


…。



衝撃を感じた。

何かが起こったのだろうか?


「ゲホッ!」


息が出来ることに気がついた。

しかし、咄嗟にそうだとは分からず、しばらく咳き込みながら悶え苦しんだ。


自分は…地面にいた。


少しだけ呼吸が整ってくると焼けたような匂いがした。

首にかかった輪の反対側が焼き切れていた。

よく嗅いだことのある匂いだった。

そう、ミクが使っていた火炎魔法の…。


ザッという音のした方を見ると、ミクがこちらを見下ろしていた。

表情は、やはり無い。

いや…あるのかもしれない。

それは…軽蔑…だろうか?


ミクに何かを言おうと思ったが、直前までの喉の痛みで言葉が出てこなかった。

やっと話せるようになった時、こちらよりも先にミクが口を開いた。


「テレポート。」


瞬時に体が浮いたような感覚を覚えた。

同時に疑問も浮かぶ。

確かミクはテレポートを覚えていなかったはず。

ということはアイテムだろうか?

けど、その手のものは高かったような…。


テレポートした先には…。


ルカとリンが居た。


二人はそれぞれ大きな木の根に座っていた。

何か話していたのだろうか。

今まで何かを話していて、それがふとした拍子に中断して…といった表情に見えた。


二人はこちらを見て、驚くでもなく、じっとしている。


自分はというと、首に輪がかかったまま、情けなく地面に這いつくばっていた。

二人はその輪をちらりと見て、表情は変えず、何かを思っているようだった。


急に恥ずかしくなってきた。


慌てて立ち上がり、姿勢を正す。


しばらくの沈黙。


三人とも、こちらの目を見ていた。


何も言わずに。


…謝らなければ。


「あの…」


おずおずと口を開く。


「みんな、ごめ」


と言いかけたところで、左頬に何か当たったような気がした。

次の瞬間には、自分の身体が遥か後方に吹き飛ばされていた。


「うぐ!」


折角立ち上がった地面に、また情けなく転がっていた。

何が起きたのか?

みんなの方を見ると、二人は先程と変わっていなかった。

もう一人は、両方の拳を握りしめていた。


ミクだった。


ミクがゆっくりと、真っ直ぐに伸びた右腕を下ろす。


そして一瞬、こちらを見た後、2、3歩地面を蹴り、飛びかかってきた。


速い。


そうだ。ミクはとても速かった。

その動きで敵を翻弄し、先制攻撃を仕掛けるのだ。


そんな懐かしさに浸った次の瞬間、押し倒され、馬乗りにされた。


そして…。


「ぐふっ!」


今度は左拳で顔面を殴られた。思い切り。


「痛っ!」


間髪入れずに今度は右。


痛い。とてつもなく。


敵はこんな攻撃を食らっていたのか。

そんなことはすぐに考えられなくなった。


「ミ!ミク!」


ミクは耳を貸そうともせず、右、左と全力でレンを殴り続ける。

そして、その状況でもミクに表情は無かった。


「痛!ご、ごめん!」


さすがにまずい。体力が…!


ミクはとどめとばかりに両手を組み、頭の上に掲げた。

そしてそれを振り下ろさんとした時。


「し、死ぬって!!」


ぴたりと。

ミクの両手が止まった。


た、助かった…?


ミクは一瞬、両目を大きく見開いた。

ミクの視線がレンの両目を射抜いた。

そして、再開してから初めて表情を変えた。

それは…激怒だったんだと思う。


そのまま、もう一度高く両手を振り上げ…容赦なくレンの顔面に振り下ろした。




ちくりとした痛みと共に目が覚めた。

ここは…。


「気がついた?」


声のする方を見ると、リンが居た。

回復魔法の白い光が辺りを照らしている。


「リン。」


「久しぶり。」


リンの優しい声が懐かしかった。

急に泣きそうになってきた。


僕はかつてよく過ごしたテントの中に寝かされていた。

四人入るといっぱいになる、思い出のテント。

そこでリンは僕を癒やしてくれている…。

僕は体を起こして言った。


「リン、あの…」


その時、テントの入口の布がバッと開けられた。


「ひっ!」


ミクだった。


さっき最後の瞬間に見せたあの表情はそこにはなく、代わりにその前の無表情をぶら下げていた。


咄嗟に先ほどの痛みと恐怖を思い出し、身がすくんでしまう。


ミクはこっちを見て、何かを確認したようだった。

そして一呼吸の後、言った。


「私が怖いか。」


そう言うと、こちらが答える間もなくテントに入り、どかっと座りこんでしまった。


何と答えたら良いのだろう…。


答えに詰まっていると、今度はゆっくりと布が捲られた。


ルカだった。


僕と目が合うと、入るねと小さな声で告げた後、静かに布を潜り、僕のそばに腰掛けた。


「話せそう?」


その声はかつてのルカのままで、心地よさがありながらも凛とした響きがあった。

僕は自然と姿勢を正す…。


「う、うん。」


僕が落ち着けているのを確認してから、ルカは話し始めた。


「今まで辛い思いをさせてごめんなさい。」


怒られるとばかり思っていた僕は面食らってしまった。


「私はレンの気持ちをちゃんと考えていなかった。リーダーとして責任を感じてる。」


いつも僕らを引っ張っていってくれていたリーダーの謝罪に、僕は困惑していた。


「あなたをこうして連れ戻したのも私の指示…いえ、我が儘だった。手荒な真似をしてごめんなさい。」


ミクが少し、僕から目を逸らした気がした。


「あなたの気持ちを知りたいの。」


そこまで言うと、ルカは座り直してから続けた。


「もしあなたがここに居たくないのなら、私達はもうあなたを追わない。」


ルカが近くに置かれていた袋に目線を移した。


「近くの街までの食料と道具、お金も用意した。」


…ここは街からそう離れていないはずだ。

にも関わらず、袋はぱんぱんに膨らんでいた。

これまでの思い出が詰め込まれているかのように。


ルカが目線を戻した。


「あなたが決めてほしい。」


ルカが真っ直ぐに僕を見つめながら言った。


ルカは急かすような口調ではなかった。

ゆっくりでいいから決めてほしいといった口調だった。

でも、僕の心は決まっていた。


「一緒に居させてください。」


みんながぴくりとだけ動いた気がした。


「本当に?言わされてない?」


ルカが言う。

さっきよりほんの少しだけ表情が柔らかくなっているような気がした。


「うん。」


僕は座りながら頭を下げた。


「迷惑をかけてごめんなさい。

こんな僕で良ければ、居させてください。

みんなと一緒に居たいです。」


ルカはすぐには答えなかった。

だが、少し悩んだ後、


「分かった。」


と言った。


突然、近くにいたミクが僕の胸ぐらを掴んだ。

僕は驚いたが、みんなはそうでもないようだった。


「条件がある。」


ミクは複雑な顔をしながら、僕を見つめている。


「あんたが何をしようが、あんたの自由。勝手。

私が嫌いなら嫌えばいい。」


ミクは続けた。


「でもルカもリンも、あんたが大事なの。大切な仲間なの。そして私も!」


ミクの目が潤む。


「このパーティに居る限り、私だって好きにやらせてもらう!

けどね、もしまたあんなことしてみなさい!」


その時のミクの顔をレンは忘れないだろう。

怒りと悲しみと、安堵。

涙を流しながらレンに詰め寄るミクの気持ちはぐちゃぐちゃになりながらも、最もレンの傍に居た。


「助けたうえで、私が殺す!」


ミクは真っ赤な目で、レンを掴みながら返事を待っている。


レンは答えた。

涙を浮かべながら。


「分かった。…ごめんなさい。」


そこまで言うと、ミクの顔から怒りが消え、その分の涙と声が溢れ出た。


「うあああっ!」


ミクはレンの胸に顔を埋め、大声で泣いた。


ルカとリンも、顔を覆って、泣いた。


テントの中を涼しげな風が通り抜けていった。

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