第17話 勇者王都を追放される
城を追われた僕たちは、さらには王都へ入ることを禁止されてしまった。
今は王都の外。何もない平原。
王都の方を見れば、僕たちを入れないように衛兵さんがこちらを見ている。
住んでいた家から荷物を持ち出す暇もなく、王都には二度と戻れなくなった。
「やーい。偽物! 偽物!」
子供からは石を投げられるが、怒る気力も出ない。
「こら、あの人たちとは関わっちゃいけません」
「でも、母さんが」
「いいから」
母親が怯えながら、僕たちのそばから去っていった。
王都の外に丸腰で出られる子供なんてそうそういない。
きっと勇気のある子なのだろう。将来の勇者候補だな。
「あの。バドン様、あたしたちは一体どうすればいいのでしょうか」
マジュナが不安そうに言ってくる。
そりゃそうか。今の状況では明日生きてるかもわからない。
冒険者のくせに何を不安がっているのだと言う話だが、こんなピンチ今までなかった。
でも。
「もう終わりだよ。終わり。僕たちは拠点を失った。道具もなければ、装備もボロボロなうえ直すアテもない」
「確かにそうかも知れませんが、私たちは勇者パーティ。たとえ資格を剥奪されたとしても、世のため人のため行動するべきではないでしょうか」
ヒルギスはこんな時も真面目だな。
さすがは僕たちのパーティの聖職者だ。
「確かにな。だけど、何も持たない人間に何ができる? ヒルギスは近くの村の教会で祈りを捧げるといい。それが世のため人のためになるはずだ」
「おい。じゃあ、お前は? それにマジュナや俺はどうするんだよ」
僕たちは勇者じゃなければただの一般人だ。
そう。カイセイと同じただの一般人。
「ふ。マジュナとガードンは実家に帰ればいいんじゃないか? きっと勇者パーティじゃなくなったとしても、教えてほしいと頼んでくるやつはいるだろう」
「バドン様は?」
「僕は帰れない」
聖剣を鞘から出し天に掲げる。
いや、こんなものはもう聖剣でもなんでもない。
「聖剣をこんなにして、勇者の資格を剥奪されれば、僕に帰る場所なんてない」
「なら、一緒に教会に」
「ヒルギスの申し出はありがたい。ただ、今の僕はただの危険人物だろ。仲間を見殺しにした人間と一緒にいたら、なんて言われるかわかったもんじゃない」
「それは俺たちだって同じはずだぜ。武器がなく、仲間を見殺しにした共犯者だろ」
マジュナもヒルギスも、ガードンの言葉に深く頷いている。
「え?」
いや、そんなはずはない。
マジュナもヒルギスもガードンも、僕と違ってそれぞれ勇者以外の素質があるんだ。
僕にはもう何も残されていないが、他の三人はまだ別の道へ行くチャンスがあるはず。
「バドン様、何ぼーっとしてるんですか。あたしたちは魔王城へ行くんでしょ?」
「行ってどうする?」
「約束されてたじゃないですか」
「約束?」
「次会ったら、それはお前を殺す時だってな」
「ああ」
そうか。
僕はカイセイにそう言った。
だが、無理だ。王都に戻って聖剣を直してもらうつもりでいたが、剣はボロボロのままだ。
これでは勝ちようがない。
「諦めてしまうんですか? 一度負けたくらいで」
「僕は一度も負けたことなんてなかった。情報収集のために撤退したことはあったが、次会った時は必ず仕留めていた」
そう、今回は情報収集など必要ないはずの、見知った相手だった。
にも関わらず勝てなかった。僕の全力の攻撃も防がれたうえ、聖剣を壊された。
どんなものを切っても、傷ついたことのなかった聖剣が、いとも簡単に粉々に砕けてしまった。
「神は言っておられます。この程度で立ち止まるべきではないと」
「勇者じゃないのにか?」
「俺たちは元々勇者だったか?」
「いや、俺たちは元々カイセイも含めてただのパーティだった。先代はすごかったと言われ、比較され、箸にも棒にもかからない。そんなヘボパーティだった」
活躍しても認められなかった時期が長かった。敗北がなくてもそれが当たり前だった。
だが、今はどうだ。一度負けたくらいで心を折られ、王からの散々な扱いで諦めかけていた。
違うだろ。悪いのはカイセイだ。僕たちじゃない。
「カイセイは魔王軍なんだ。それを元々そうだったことにして、スパイだということを伝えられれば、こんなことにはならなかったんだ。今からでも遅くないはずだ。カイセイの首を取って、王に献上すれば、僕たちはまた勇者パーティに戻れるはずだ」
「バドン様。その意気です」
「ああ」
僕たちが勇者だ。僕たちが正義だ。
どんな卑怯な手を使ったとしても、勝てば僕たちが正しいことが認められるはずだ。
そのためにはなんだってしてやる。カイセイに全てを奪われたんだ。だったらこっちだって、取り戻すためには何をしても許されるだろ。
「まずは、今、足りないものを集める必要があるな」
「それでしたらあちらの近くに村があります。そこでならまだ私たちの情報が流れていないのではないでしょうか」
「なるほど。ありがとうヒルギス」
やっぱりこんな時はヒルギスの知識が頼りになる。
向かう先は決まった。
こうなったら、もうこれまでと同じことをしていても仕方がない。
家には帰れなかったが、金ならある。
たとえ質で勝てなくとも物量であの嵐の壁を壊してやる。
「さあ、バドン。俺たちに指示を出してくれ。お前は俺たちのリーダーなんだからな」
「わかった」
僕は一つ咳払いをして、マジュナ、ヒルギス、ガードンの顔を順に見た。
「僕たちは裏切り者である魔王軍幹部カイセイを倒すため体勢を整える。目指すはヒルギスの言う村だ」
「「はい」」
「おう」
「体勢を整え次第、魔王城へ向かいカイセイを誘い出して討伐を目指す」
今は勇者ではないただのパーティだが、これで返り咲くために十分なはずだ。
僕たちはヒルギスに先頭を任せて村へと歩き出した。
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