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85 藤巻家への初訪問

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

本当に助かっております。m(_ _)m

 藤巻君は無事にご挨拶を終えました。

 何やら細々とした事があった気はするけど、取り合えず終わった事に私はホッとしました。そもそも結婚の挨拶とかじゃ無いんだから、其処まで気にする必要は無いはずですよね? 我が家の家族が色々な面で盛り上がりすぎだったんです。


 そう、其の筈だったんですが。


 藤巻君の家へは藤巻君の車でやって来ました。名古屋から3時間くらいかけて藤巻君の実家へと辿り着いたんですが、当初予想していた家とはまず規模が違いました。まず、家と言うよりちょっとした日本家屋というお屋敷かな? 家の周囲もちゃんと漆喰の壁で囲われていて、更に門までありました。


「うわぁ、凄い。武家屋敷みたい」


「まあ、田舎あるあるだよ。元々、本家がここら辺の大地主だったし、農地改革で土地が貰えたらしいからね。まあ、分家として独立したみたいな感じかな?」


 三重県の祖母の家でも同じような話を聞いたけど、そちらとは規模が違うみたい。親族間の結束が今も強く、戦後に協力して畜産業へ転換した事も大きいみたいだった。


 門から車を敷地内へと入れると、平屋の大きな家と畑が目に飛び込んできました。


「あ、この感じは祖母の家に似てるかも」


「まあ、築150年近く経つから」


 祖母の家も築200年とか言われているから、そう考えると昔の家って長持ちですよね。祖母の家に似た感じだった為、ちょっとホッとしている自分が居ました。


 車を庭の隅に停めると、エンジンの音を聞きつけたからか玄関から年配の女性が現れました。


「あ、お母さん?」


「うん」


 予想通りの返答に、私は急いで車から降りてぺこりと頭を下げました。まだちょっと距離がある為、一先ずは会釈までです。

 藤巻君がエンジンを切り、車の外へと出て声を掛けました。


「ただいま!」


「お帰り。さあさあ、鈴木さんもまだまだ寒いですから早く家に入って。ほら、邦彦もご案内なさい」


 藤巻君はちょっと仏頂面でお母さんと言葉を交わしています。その様子を見ながら私は一先ず胸を撫でおろしました。


 うん、何となく問題なさそうかな。


 藤巻君からもご両親が私達の事を反対しているなどの状況は無いと言われていました。藤巻君が今回私を同伴したかった理由は、何かと支援してくれている本家のお婆さんが既に91歳と高齢という事もあり早々に挨拶をしておいた方が良いと判断したみたいです。


「頭首のお墨付きさえ貰っておけば変な横やりも無い」


 そんな事を言っていましたけど、そもそも横槍が入りそうな状況なのかな?


「初めまして、鈴木日和と申します。藤巻さんとお付き合いをさせて頂いています」


 うん、まだ結婚を決めた訳では無いので、あくまでもお付き合いを始めましたとしか説明が出来ません。それでも、何となく歓迎されている感じなのでちょっと緊張が和らぎました。


 招かれるままに玄関から中へと入ると大きな土間が広がっていました。そこで靴を脱いで、其処からは藤巻君の案内で奥の部屋へと連れてこられました。


「まだまだ3月だと、ここら辺は寒いから。ストーブの近くに座って。すぐ両親も来るから」


「ありがとう。でも、何か歓迎されてるっぽいから安心した」


 緊張が少し解れて頬が緩む。


 中村さんから事前に教えられていた内容では、旧家というのは何かと決まり事なんかも多く、各家毎にしきたり何かも有って面倒だよって言われていた。確かに家などを見ると旧家全としている為、ついつい身構えてしまったけど何となく大丈夫そう。


「うん、まあ、歓迎されるのは判ってたけど」


「ん? 何かあるの?」


 藤巻君らしからぬ歯切れの悪い返答に首を傾げる。そして、何かあるのかと藤巻君を見詰めるのだけど、視線を合わさず目をキョロキョロさせていた。


「ねえ、何かあるなら事前に教えて貰えるとって、ん?」


 話しかけていると、何やら家の外が騒がしくなってきたのが判る。ついつい家の入口の方へと視線を向けると、先程の土間の方で人の話し声が聞こえて来る。


「あ~~~、やっぱりこうなるか」


「え?」


 藤巻君へと視線を戻すと、天を仰いでいるのが見えた。その様子に私も遅らせばながら嫌な予感が頭を過る。


「おやまあ、邦くんお帰りなさい。何やら嫁さんを連れて来たって? 邦君ももうそんな年になったんだねぇ。いやあ、おばさんも年を取る訳だねぇ」


「邦君お帰りなさい。お医者さんになったんだって? 凄いねぇ。邦君は昔から頭良かったから」


「あ、そっちの人がお嫁さんかい? あたしらは邦君のお母さんの姉妹や従兄でね。邦君の車が来たのが見えてご挨拶にね」


 うん、何やら50代前後の女性が挙って土間から上がってこっちへとやって来ました。


「あ、えっと、その、ど、どうしたら?」


 ご両親へちゃんとした挨拶もまだなのに、此処はどう対応すれば良いのでしょうか。そもそも、まだ嫁じゃ無いですが、そこはどう説明すれば。思いっきり混乱していたら、藤巻君が立ち上がって女性達の方へと向かいます。


「ご無沙汰しています。僕らも今到着したばかりで両親にも挨拶が出来て無いんです。あとで本家にも顔を出しますから、その際にご挨拶させてください」


「あらまあ、ごめんなさいね。ちょっと来るのが早かったかしら。みんなで立ち話してたら邦君の車を見かけちゃって。それなら私達も本家に行ってるわね」


「そうねえ、うちの子達にも声掛けなくちゃ。せっかく邦君が帰って来たんだから」


「うちの咲は牛舎行ってるわよ。でも、本家の未来ちゃんも北海道から帰って来てるわよ? 冬休みって言ってたから、会ってあげてね」


 何とか壁になってくれる藤巻君だけど、私は挨拶をしなくても良いのだろうか? とりあえず視線が合ったのでお辞儀はしたんだけど、どうして良いか判らずに戸惑っている内に女性陣は引き上げて行ってしまった。


「あらあら、和ちゃん達の声が聞こえてたけど、帰ったのね」


 藤巻君のお母さんが、お茶などの乗ったお盆を持って現れる。そして、テーブルにお茶を並べてから漸く腰を下ろしてくれた。


「はじめまして。藤巻君とお付き合いを始めました鈴木日和と申します。宜しくお願い致します」


 私はぺこりと頭を下げる。まだお付き合いの段階なので、何と言って説明すれば良いのかにちょっと困る。今更だけど結婚を考える段階になってからのご挨拶でも良かったような?


「ご丁寧に。邦彦の母、和子と言います。邦彦はぶっきら棒な所があるから大変でしょ? でも、根は真面目で良い子なので、これからも宜しくお願いしますね」


「あ、いえ。此方こそよろしくお願いします」


 藤巻君のお母さんの挨拶に合わせて、私はまた頭を下げます。藤巻君のお母さんにしてはおっとりしている感じ? そんな事を思う。


「父さんは畜舎?」


「勿論よ。3時頃に一回帰って来るから、その時鈴木さんにご挨拶させるわ。なんせ畜産は年中休み無しですから、今日帰って来るって聞いてはいても休めないの。ごめんなさいね」


「あ、いえ。藤巻君から予め聞いていたので大丈夫です」


 その後、色々と話を聞くと繫忙期などは男女問わず駆り出されるらしい。ただ、普段は食事の用意や買い物などもある為、女性陣は午前中に手伝って午後からは家の中の事を取り仕切るとの事だった。


「この子は家の仕事が好きじゃ無くて、勉強が出来たからお医者さんを目指したんですよ。まあ、家畜を相手のお仕事は年中無休で重労働ですから、この子には向いてなかったんでしょうね」


「一番は臭いのに耐えられなかった」


 ボソリと呟く藤巻君だけど、確か子供時代にその事で喧嘩が多かったって言ってました。家畜の世話をしていれば、当たり前に匂いが衣服にも染込みます。藤巻君自体はそういう物だと判っていても、他の子供は違いますからね。


「そうね、変な所潔癖症だったもの。でも、本当に無事お医者さんに成れてホッとしたわ。みんな喜んでくれたわよ」


「別に潔癖症じゃない。家が異常なだけ」


 うん、家でも藤巻君はこんな感じなのかと思わず笑えて来る。でも、ある意味らしいなあといった思いもある。


「あら、ごめんなさいね変な話ばかりして。でも、良かったわ。この子に恋人が出来るなんて思ってもみなかったから。きっと渋々お見合い結婚するのかしらって思ってたもの」


「えっと、私も多分両親にそう思われていると思います」


 私が思わずそう告げると、藤巻君のお母さんは目を丸くして笑い出した。


 その後も穏やかに会話が続けられたのは、藤巻君のお母さんの人柄だろう。大家族というか、多くの親族と日々一緒にいるからか、非常にコミュニケーション能力が高い気がする。


「帰ったぞ」


 どうやら藤巻君のお父さんが帰ってきたようで、土間の方から声が聞こえた。藤巻君のお母さんが立ち上がって足早に土間へと向かう。


「ふぅ、鈴木さんゴメン。うちの母が何か色々と聞いちゃって」


 お母さんが席を立ったからか、藤巻君は漸く緊張から解放されたような表情を浮かべた。恐らく色々と聞かれるのが苦手っぽいから、そこは家族とでも同じなんだなって納得してしまう。


「大丈夫、もしかしたら家族になるかもしれないんだし、色々と聞きたい事はあるんだと思う。その気持ちは分かるし、会話の節々に藤巻君の事を心配してる感じもあったね。うん、良い家族関係を結べてるんだね」


 家族仲はやはり重要だし、子供との距離感も違和感を感じる様子もない。

 一人っ子の場合よく母親が子供との共依存に陥るケースもあるって聞くし、その点でもキチンと自立出来ているかな? などと変な視点で私は二人の様子を見ていたんですよね。


「何方かと言えば、親族含めて子供達は基本放置に近いから。上の子供が下の子の面倒を見るのが当たり前、子供達は本家でまとめて世話をする。日中は曾祖母や曽祖父が子供達の面倒を形上みるけど、まあやっぱり放置だね」


「ごめん。想像は出来るけど、何とも言えない。今のアフタースクールみたいなのをイメージしちゃうけど、親族だと全然違うんでしょ?」


 藤巻君は大きく頷く。まあ、幼少期から常に一緒に育ってきていれば、大家族の子供みたいになるのかな? 遠慮とかそういうのも無くなるのだろうか? でも、中村さんの家なんかは、本家を異様に意識しているから、藤巻君の所もそういった身分差はどうなのか。


 そんな事を話していると、藤巻君のお父さんが此方へとやって来ました。どうやら、着替えていたみたい?


「お待たせしました。邦彦の父、明彦です。態々ご挨拶に来ていただいて、少しでも良い印象を持っていただければ何よりですが、気になる事があれば自由にお尋ねください」


「うわ、気持ち悪って、ん? 父さんどうした? って痛!」


 お父さんの挨拶に、ボソリと呟く藤巻君。ただ、まあねえ。こういう所は直した方が良いと思うよ?


 お父さんは無言のまま立ち上がり、思いっきり藤巻君に拳骨を落としました。


 中々に鈍い音がしたなあ。


 そんな事を思いながらちょっと黄昏ていると、藤巻君のお母さんが笑いながらやって来ました。


「本当に邦彦は言わなくて良い事をいうもので。良くそれで問題を起こしていたんですよ? まあ、流石に私達は家族ですから聞き流しますが、イラっと来たらちゃんと言ってやってくださいね」


「全然聞き流してないし。殴られたし」


 頭を押さえながら文句を言う藤巻君の姿に、思わず苦笑いと溜息が零れます。


「あの、大丈夫です。時々、その呟きに助けられることもありますから。何となく憎めないっていうか、変に取り繕う事も無いので、周りから信頼はされていると思います」


「大丈夫……」


 うん、何かショックを受けてるみたいだけど、偶に空気読んで! って思う事が無い訳じゃないですからね。救われた回数とイラっと来た回数を比較すると、若しかするとイラっと来た回数の方が多いような?


 ちょっと私が考え込んでいると、藤巻君のご両親が慌てた様子で4月以降の事などを尋ねて来ました。特に私は大学病院に残らず外に行きますから、其処ら辺はキチンと説明しておきます。あと私だけでなく姉も医者であることなども説明しました。


「凄いわねぇ。姉妹揃って優秀なのね」


「いえ、学部順位では藤巻君の方が上でしたし、私は必死に努力しただけで」


 まあ、そこは頑張りましたからね! 青春時代を棒に振って頑張りましたから! 両立出来るほど頭は良くなかったですし。


 その後、当たり障りのない会話が続き、遂にこの後のイベントの話題へと移りました。


「父さん、夕飯は本家で祖母ちゃんに挨拶して、あっちで食べるんだよね? ならそろそろ行った方が良くない?」


「ん? ああ、そうだな。母さんは今か今かと待ち侘びてるだろうし、そろそろ行くか」


「親族総出で待ち構えてるから、ちゃんと彼女さんを守りなさいよ!」


「え?」


 何やら聞き捨てならない言葉が聞こえました。

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― 新着の感想 ―
こういう家へのご挨拶、他人事だとわちゃわちゃしてて面白いけど、当事者視点だと大変そう…
物調面→仏頂面では?
告白した焼肉屋も親族の誰かが経営してる店なのかなー?
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