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82 藤巻君との電話

 国家試験合格の連絡をメールで藤巻君へと入れた。

 その返信がすぐあるのかは判らないけど、ここで一つの重要な事に気が付きました。


「ねえ、よく考えたら藤巻君からも合否連絡来てないんだけど? これって同罪じゃない?」


 私がスマホでメールを送る様子を眺めていた中村さんにそう告げると、中村さんもその事に気が付いたみたいで顔を顰める。


「確かにそうですね。これは由々しき状況なのでは?」


「まだ寝てるって可能性もあるけどね。一人暮らしだったら普通にありだと思う」


 前世に於いて、お休みの日には普通に昼近くまで寝ていました。特に夏休みなどの様に休みの日が長ければ長いほど生活のリズムは昼夜逆転します。その為、夜遅くまで起きていて、朝起きる時間がどんどんと遅くなるんです。


「いえ、流石に無いですって。っていうか、試験も終わったんだし毎日藤巻君と連絡のやり取りしていますよね?」


 曇りの欠片も無い眼差しで私を見詰める中村さんですが、私はその視線を受け止められずに逸らしちゃいます。


「えっと、二日か三日に一回は連絡するよ? ほら、毎日って流石に多いから」


「有り得ない! え? 鈴木さんそれ本気で言ってます? 恋人同士ですよね? 付き合っているんですよね? え? もしかして、試験終わってから一回もデートして無いとかは流石に無いですよね?」


「行った! 行ったよ! 食事に行った! 試験お疲れ様って感じで、受かってると良いねって!」


 必死に弁明する私ですが、中村さんの眼差しが段々と座ってきました。


「鈴木さん達って変! 恋人ですよ? 将来結婚するかもなんですよ? 付き合い始めたばかりとかって毎日の様に会いたいとかじゃないんですか?」


「え? でも、それって迷惑じゃない? 毎日会ってもそれこそ話題とか尽きるし」


 良く毎日電話するとか聞きますけど、よくそんな話題がありますよね? 家族に学校での出来事を話す子供みたいなものなのでしょうか? そう考えると出来なくは無いと思うのですが、毎日の様に何かしら作業をしていると気が付くと10時とかは普通に過ぎます。そうすると、夜遅くに電話するのも悪いしってなって、ついつい電話をする事が減っちゃいますね。


「藤巻君からはどうなんです?」


「えっと、だから三日に一回くらいは来るよ?」


 うん、だから全然問題無いと思うのですが、中村さんは何故か頭を抱えていました。


「なんか付き合い始めた恋人同士感が欠片も無い」


「なんか失礼な事を言われてる!」


 そんなお馬鹿な話をしていると、メールが飛んできました。


 スマホでメールを開くと、藤巻君からの合格おめでとうと言うお祝いの言葉と、自分も無事に合格しましたという内容でした。私はすぐおめでとうと返事を返し、良かったと胸を撫でおろします。


「藤巻君も無事に合格したって」


 スマホから目線を上げて中村さんを見ると、何故かジッと私を眺めていました。


「うん、それは良かったけど、電話は?」


「え? 電話?」


 中村さんが何を言っているのか解らず、手に持っていたスマホを見る。すると、思いっきり溜息を吐く音が聞こえました。


「だ・か・ら、何で電話で会話しないの? メールだけで終わらせるの? 別に夜中とかじゃ無いし、相手からメールが来たんだから今なら会話出来るでしょ?」


「おおお、成程。凄いね、そんな事、思いつかなかった」


 メールで返事が来たので思わずメールで返事をしました。でも、確かに言われてみれば電話を掛ける方が文字を打つより手間は無いですね。


「鈴木さんって、こんな事を言ったら駄目なのかもだけど若々しさが無いって言うか、恋愛に対して貪欲さがないですよね? なんで?」


「え? 何でって言われても、う~~ん、経験不足とか? 恋愛経験無いし」


「私だって無いよ! でも、憧れるよ? 恋人となら色々と出かけたくとか成るよね?」


 中村さんからの圧が凄いのですが、それは人それぞれのような気がしますよね? 別に会いたくない訳ではないのですが、ほら、一旦家に帰っちゃったら家から出るのが面倒になりませんか? 出かける用事とかもその日が近づいてくると段々憂鬱になって来るとか、良くありますよね?


 まあ、そんな事を中村さんに説明はしませんけどね。それくらいの分別は私にだってあります。


「なんか変な事を考えてますよね?」


「え? そんな事無いよ! そっかあ。そうなんだって納得しているよ!」


「そこが既に駄目なんです!」


 凄い理不尽な事を突きつけられました。ただ、まあ中村さんを何とか宥めて、改めて藤巻君に電話をすることにします。うん、雰囲気的にと言いますか、流れ的にと言いますか、電話せずに終わる事が出来ないような。


「あ、鈴木です。今、時間的に大丈夫ですか? あ、はい。良かったです。えっと、無事合格おめでとう。うん、あ、ありがとうございます。うん、うん、だよね。私もホッとしました。やっぱり合格しないと意味無いから」


 お祝いの言葉を告げると、藤巻君からもお祝いの言葉を頂きました。そこから、今までの苦労とかを振り返って何となく話が盛り上がります。ただ、私の向かいに座る中村さんの表情が、最初は何かドキドキワクワクっていう感じだったんです。ですが、私達の会話が進めば進むほどに無表情に変わっていきます。


「うん、うん、あ、そうだよね。手続きとか時間盗られるし、うん。え? あ、そっか。普通そうだよね。え? でも、うん。うん。解った。大丈夫だよ? うん、特に用事は入ってないから。うん、うん、解った。ちょっと確認しておくね。うん、それじゃあね。うん、バイバイ」


 会話をしていくにつれ、今度は私の表情や声に困惑というか、ちょっと困ったような感じが含まれたのかな? 相手側の藤巻君もちょっと慌てたような感じでした。そして、そんな様子を感じ取ったのは何も藤巻君だけではなく、目の前の中村さんも同様だったみたいです。


 電話を切った私は、自然に小さく溜息を吐きました。その様子を見ていた中村さんは、ちょっと心配そうに私を見ます。


「えっと、聞いていいのかだけど、どうしたの? 何かあった?」


「う~~ん、あったというかあるというか」


 気持ちの整理をしようとするんですが、ちょっと混乱しているかもしれません。


「藤巻君も合格してた」


「うん、それはすでに聞いた」


 そうでした。既にメールが来ていた事は言いましたね。そして、それ故に電話をする事になったのでした。


「来週、実家に合格報告も兼ねて一時帰省するんだって。それで、その帰省に一緒に来てくれないかって言われたの。まあ、前から国試合格したら一緒に報告に行きたいって言われてたから」


 藤巻君は引き続き大学病院での勤務が続きます。その為、4月になる前に一時帰省をするそうです。特にお世話になったお婆さんに無事医者に成れた報告はしたいそうで、一通りの手続きを終えたら岐阜の実家へと向かうんです。

 そして、その時に私を一緒に連れてって紹介したいそうです。

 うん、将来的には結婚する事を前提にしたお付き合いですから。そう考えると相手のご家族と会うのは非常に重要な事だと思いますし、何と言っても我が家のお父さんの一族みたいな事も有りますから事前確認は必要かな。


 勿論、相手の家族次第で別れるかどうかは判りませんが、結婚における大きな判断材料の一つであることは間違いないありませんよね。


「まあ、可笑しい事ではないのかな?」


「うん、まだ付き合い始めたばかりだし、初めて相談された時にはちょっと吃驚した。藤巻君も若し良ければって言ってたけど、何となく来て欲しそうだったし。それと、我が家にもちゃんと挨拶したいって」


 藤巻君の実家かあ。まあ、会話の内容は、実家へ行く前にまず我が家にも顔を出したいっていうお話だったんですが。まあ、妥当なご意見といえば妥当?


「おおお、もしかして、お父さん娘さんを下さい的な?」


「えっ! そ、其処まで一足飛びには行かないよ! お付き合いさせて頂いてますって感じだと思う!」


 ただ、先程の会話には具体的な部分はありませんでしたが、藤巻君だと十分に有り得そうな気がしてきました。そして、中村さんも其処は同様のようです。


「あの藤巻君だよ? 彼女さんの前で言うのも何だけど、ちょっと不思議な思考回路の藤巻君だよ?」


「うん、オブラートに包んでくれてありがとう。でも、そうだよねぇ」


 藤巻君ってちょっと不思議というか、空気読めてない的な所は多々ありますよね。え? 今ここでそれ言っちゃう! って事が幾度も有りました。良くも悪くもマイペースな彼ですが、そんな藤巻君が先程の会話で明らかに私の返事を気にしてくれる事に自然と笑みが浮かんできてしまいます。


 その後、買い物に行ったお母さんが戻るまで、中村さんとは色々と話をしました。中村さん的恋愛脳は参考にならないような気が多分にしますが、それでも色々と相談にのってくれる事は助かります。自分の中の考えを纏める為にも非常に有効でした。


 そして、その夜に両親を交えて話をします。


「今週の日曜日って時間ある?」


「改まってどうしたの? 何かあるの?」


 お母さんが不思議そうな表情を浮かべます。予定されているイベントとしては、国試合格をもって終了しています。そこから手続きなどでバタバタとしていますが、それは両親には関係ありませんからね。


「うん、あのね。今、お付き合いしている藤巻君が一度挨拶に来たいって。ほ、ほら! 国家試験も受かったし、一つの区切りがついたから?」


 うん、何となく焦っちゃって早口になってしまいました。今回は特に何かある訳じゃないと思うけど、良く考えたら男の子を自宅に呼ぶ事すら初めて。その為、余計に変に意識しちゃったのかも。


「あら、それって例の奴? 娘さんを下さいって言うの?」


 お母さんが思いっきりニヤニヤと悪い笑みを浮かべていました。その横で話を聞いていたお父さんは何とも言えない渋い表情を浮かべています。


「え? 違うよ! その、無事に医師免許を取れたからその報告に一度実家に帰省するんだって。それで、私にも良ければ一緒に来て欲しいって言われたの! そ、それで、その前に一度うちにも挨拶に来たいって」


 当初予定していた会話などどっかへ行っちゃって、焦りと共に何かどんどんと口から言葉が? でも、会話の構成が上手く行ってない気がする。


「それは、二人で両家に挨拶にっていう事だよな? そこまで話が進んでいたのか?」


「え? あ、違う! 其処までの話にはなってないよ!」


 何となく悲しそうな表情でお母さんの顔を見るお父さんですが、これはきっと自分だけ除け者にして話が進んでいたって勘違いしていると思う。


「あら? でも、日和の話を聞く限りお父さんのいう事も間違いじゃ無いんじゃないの? お母さんもお父さんと同意見よ?」


「ちょっとお母さん!」


 両親への説明は、予想以上に混沌とした気配が濃厚になってきました。誰か助けて!

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― 新着の感想 ―
試験も終わってるし少女マンガやドラマや映画漬けにして恋愛シミュレーションでもさせる?
お見合い相手と付き合ってるんじゃって位には不思議な関係だよね。 熱烈な恋愛でも無いのに親に紹介やらはなぁ……?
外野はやきもきするだろうけど当人同士のペースが合ってる感じするのよき
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