80 高校時代の友人達と
中村さん達との卒業旅行を無事に終えると、今度は高校時代の友人達とお疲れ様会がありました。
関東に住んで居る三上皐月ちゃんが、大学の卒業式を終えて一時帰郷したタイミングで集まる事になりました。卒業旅行はそれぞれ大学の友人と行ったみたいです。
「地獄は終わった! 此処からは一時の戦士の休養!」
うん、なんか松田さんが謎のテンション。ただ、何か似たような展開を大学受験の時に見たような?
「佳奈は相変わらずテンション高いね。まあ、気持ちは分からなくはないけど」
笑いながら話すみどりちゃん。そんなみどりちゃんと佳奈ちゃんは国試が受かれば三河国大付属病院で研修にはいるそうです。医学部と薬学部と所属は違いますが、それでも同じ大学病院内に友達がいるのは羨ましいです。
「皐月は合格してたら名古屋に帰って来るの?」
「うん、研修先は名古屋で決まってる。だから合格だったら引っ越しとかが大変。3月での引っ越しは無理だから、4月以降で引っ越す予定だけど休みが判んないから」
人間の病院もですが、動物病院も入院している動物とかがいたら休日出勤もあるのかな? 皐月ちゃんが所属を決めた動物病院は比較的大きな病院らしく、それこそ土日も診察を行っているそうです。その為、私達同様に勤め始めてみないと休みの日程が判らないそうです。
「合格発表後も医籍登録手続きとかでバタバタするし、遊ぶなら結果が出るまでしか無いんだよね」
国家試験に合格しても、それで勝手に免許が交付される訳じゃ無いんですよね。医者は医籍登録、獣医師は免許交付申請、薬剤師も同様に免許申請が必要なんです。まあ、卒業後とはいえ学校もフォローしてくれるし、あくまでも申請すれば良いのですが手続きに必要な書類などで時間がとられます。
「こっから私はローン生活まっしぐらかあ」
奨学金で進学をした松田さんは、奨学金の返済が始まるそうです。それでも自宅からの通勤という事で家賃が要らない為、今の処は無理なく返済を進められそうらしい。
「まあ、何かあったらみんなに相談しなよ? 協力できることはするから」
「何と言っても医者が2名は強いよね。獣医師はどうなんだろ?」
「うん、せっかくの縁だし、助け合いは重要だよね」
みどりちゃんはこういう所はリーダーっぽい。賑やかなムードメーカーは佳奈ちゃんだけど、私達の中心なのはみどりちゃんだ。まあ、時々毒舌ではあるけどね。
「うん、ありがとう。まあ10年返済で無理なく計画出来てるけど。ただ、結婚とか出産とかで予定が狂ったりする可能性もあるじゃん? だから出来るだけ早く返済しちゃいたい」
ケラケラと笑う佳奈ちゃんだけど、私達の視線は自然とその表情に注がれました。
「なるほど。それで? 具体的にご予定が?」
「無いの知ってるよね! お陰様でぜんぜん無いよ!」
同じ大学という事で、普段から比較的交流のある二人故のやり取りですね。ただ、ここで首を傾げるのは確かみどりちゃんには彼氏が居なかった?
「そういえば、みどりちゃんは彼氏いるんだよね? 卒業後結婚とかするの?」
「あ~~~」
「そこいっちゃうよねぇ」
思わず私がみどりちゃんに尋ねると、みどりちゃんは虚空を見詰め、佳奈ちゃんは思いっきり溜息を吐きました。
「うん、まあ別れた」
うん、そう言い切ったみどりちゃんの表情には未練も後悔も欠片も感じられません。ただ、何となく自嘲的な雰囲気が漂いました。
「まあ、みどりは外から見れば御淑やかなお嬢様だから。ある意味仕方がない結果かなあ」
「佳奈が私をどう見ているかは兎も角として、自分の男を見る目が無かったって事。端的に言えばその一言なんだけど、付き合って1年持たないとは思わなかった。なんかさ、親しくなるにつれてどんどんと態度が変わってきて、女なんだからって言葉が日常で頻発するし、ああ、もう駄目だなって思って別れた」
みどりちゃんの性格は、何方かと言えば私達の中で一番男っぽい。ちゃんと相手の事に気を遣うし、傷つけるような言動はしない。でも、相手が間違ってると思えばキチンと指摘するし、白黒はっきりと付けたいタイプ。
「友達と遊ぶのにも口出ししてきて、私とも会うなとか言い出して。あれは駄目だって私も思った」
「佳奈が思ったならもう駄目。私達の中で一番世話焼きは佳奈」
「うん、それは私もそう思う」
皐月ちゃんの言う通り、ムードメーカーである佳奈ちゃんは私達の中で一番家庭的で女の子らしい。長女というのもあるんだろうけど、いつも家族の事も気にしている。そんな優しい佳奈ちゃんか駄目だと思うって事はよっぽどだと思う。
「女子高育ちは男を見る目が無いのかも? ほら、私って純粋培養だし?」
「純粋」
「純粋って何だっけ?」
「純水に生き物は住めない」
みどりちゃんの発言をみんなで茶化します。一概に間違いと言えないかもですが、みどりちゃんが純粋かと言われると何とも言えませんね?
「よし、今日はオールナイトで語り合おうか。ちょ~~っとみんなの私への認識が世情とは乖離している気がする」
そんな馬鹿話をしながらも、高校時代のノリでワイワイと騒ぐのは非常に楽しい。
「でも、遂に卒業かあ。6年間長かった気もするけど、今思えばあっという間だった気もする。もう社会人になって働き始めてる子もいるけど、何か実感が沸かない」
「うん、でもさあ。私達の業界って結構ブラックも多いって聞くよね? だから何かあったら相談してよ? パワハラやセクハラとかも普通にありそうだし、自分一人で抱え込まずに悩みは相談するように! そこに遠慮なんかいらないからね!」
4月からの仕事への不安は、2度目の人生を歩んでいる私だって持っている。
特に研修医はブラックだという噂は普通に聞こえて来る。昔よりは改善されているらしいけど、それでもメンタルを病む人が多いと言われている。
今の私であれば、少なくとも金銭的な援助は可能だ。体や心を壊してまで同じ場所で頑張る必要なんて無い。それを知っているだけでも違うと思うし、私にはお姉ちゃんだっている。美穂さんのお陰で医療関係の人脈だってそこそこ存在すると思う。
だから、何にせよ一人で考え込まないで相談して欲しい。友達だから言えなかった。そんな悲しい事にならない様にして欲しい。そんな思いで私はみんなにお願いした。
「うん、日和の言う通りだよね。勤務時間も不安定だし、何かと仕事を押し付けられるかもしれない。場所によっては新人いびりみたいな話も聞くかな。でもさ、4人で知恵を出し合えば解決策の一つや二つ出て来るって」
「受験勉強の時もそうだった。一人だったら絶対に頭おかしくなってた」
「最後の国試の勉強もプレッシャーヤバかったね。でも、まあ何とかなったよね。結果はまだだけど」
「それ言っちゃダメなやつ!」
「うん、駄目!」
「合格してるって!」
騒ぐみんなを見ながら、私は将来の事を思う。
受験ノイローゼ、鬱、HSPなど様々なメンタル的な問題が顕在化してくる時代が今後来るのを私は知っている。その原因の一つは恐らく孤立や孤独では無いだろうか? 治療の一つに同じ悩みを持つ者同士の会話や交流がある。身近な人、家族の在り方が変化しているのか、それともSNSなどによる人との繫がりによって何かが歪むのだろうか?
「高校時代にみんなと知り合えて、仲良くなれて私は幸せだなあ」
もし高校時代を孤独に過ごしていたのなら、間違いなく大きな挫折を味わっていただろう。多くの幸運に恵まれてきたことを改めて実感する。
「日和は良い子だねぇ」
「だよね! 名は体を表すだよね!」
「流石は我がグループのお母さん!」
「は? 何でお母さん?」
皐月ちゃんの聞き捨てならない評価に思わず疑問の声を上げるんだけど、みどりちゃんはうんうんと頷き、佳奈ちゃんには肩をパンパンと叩かれた。
「頑張れおかあさん!」
「お母さん、これからもよろしくね!」
「引っ越しの時、掃除に来て!」
「はああぁ? なんでお母さん呼びって言うか、皐月は掃除くらい自分でしなさい!」
「うん、無理」
相変わらずの皐月ちゃんではあるが、そこはもう24歳なのだからどうにかした方が良いとは思う。その後、何時もの様にみんなでカラオケへと向かい思いっきり歌で発散したのは言うまでもない。




