表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/78

69 心の傷

 タリホー株は無事に売り抜けることが出来ました。

 私が売り抜けた後に若干株価の上昇が抑えられましたが、それでもまだ株価は上がって行ってます。それでも、私的には無事に売り抜けてホッとしました。


「相変わらず凄い金額ね」


 最終金額の明細を見てお母さんが溜息を吐いています。予め分かっていたとはいえ、流石に70億近い金額となると私だって平常心ではいられません。今回の明細を見た時には思わず手足が震えていました。椅子に座ってから明細を見た私はグッジョブです。立って見ていたら倒れてたかも?


「一部は寄付に回す予定。何処に寄付するかで悩んだけど、交通事故遺児への基金と犯罪被害者の会に先ずは1000万ずつ寄付する事にしたよ。金額的には殆ど税金対策にはならないけど、寄付用に通帳を分けて10年は毎年振り込み出来る様にするつもり」


 単年での寄付だって喜ばれると思うけど、やっぱり毎年決まった額が寄付される方が助かると思う。

 毎年株の売却益が出る訳じゃ無いし、どこまで稼げるかも判らないので10年分として2億円を別口座にします。勿論、間違って使っちゃわない為。


「どっから聞きつけて来るのか判らないけど、寄付の依頼とか良く来るわよね。まあ、日和が決めたんなら悪くないんじゃない? 一人でも、二人でも、寄付で救われる人がいるなら悪い事じゃないと思うわ」


 寄付したお金ってどれくらい有効に使われるのだろうか? 其処ら辺が不透明だから寄付はしないっていう人もいますよね。寄付について考えていると、テーブルに頬杖ついた状態でお母さんが私の事を見ていました。


「ん? お母さんどうしたの?」


 普段のお母さんらしからぬ表情に、思わず尋ねてしまいました。


「日和、何か悩み事? 寄付の事で何かあったの? 私悩んでますってそんな表情をしているわよ?」


 お母さんが言う通り、悩んではいますね。でも、その悩みは私が何かをしたからと言って解決できる類の物ではありません。その為、どう説明すれば良いか考えます。


「うん、悩んでると言えば悩んでる。ほら、今回寄付するにあたってちょっと調べたでしょ? 交通事故遺児の為の基金何かは有名だし、ボランティア活動しているNPO法人とか、色々な団体があった。それぞれ違いとかを見比べていたら、奨学金って返さないと駄目なんだね。貸与型と給付型があって、給付型は返さなくても良いけど、貸与型は20年とかで返さないと駄目だった。お母さんは知ってた?」


 前世では高校までしか行きませんでした。

 前世の私は大学や短大に進む気は無かった為、奨学金について調べなかったんです。

 そして、今回改めて調べてみてちょっと驚きました。奨学金って言いながら、大多数は借金何ですよね。


「ええ、お父さんが結婚後も返済していたから知っているわよ。お父さんの場合は、借りた額が少なかったのと所得が増えて行ったから比較的返済も楽だったけど、今の時代に借りる子は苦労するかもしれないわね」


「そっか、お父さんは奨学金借りてたんだったね」


 調べた限りでは、給付型の奨学金を貰う為のハードルは中々に高い。その為、多くの子供達は貸与型奨学金で高校や大学へと進学しているらしい。勿論、誰にでも給付をするのは間違いだっていう理由は判らなくはない。

 ただ、ここで驚いたのは親が不慮の事故で已む無く遺児になった子供達も同様に貸与型奨学金がメインになる事です。一応、利息無く借りれるみたいだけど、奨学金を借りなければ進学できない子供に余裕など有るのだろうか? 貸与型の奨学金を借りると言う一点を見ても、厳しいのではと思う。


「外国で言う奨学金は給付型で、貸与型は奨学金とは言わないって言われるわね。でも、判らなくはないのよ? 可能な限り多くの人が奨学金で大学などに進めるためには貸与型も必要だとは思うわ」


 お母さんが言う様に、確かに給付型にしてしまえば返済はいらなくなる。でも、そうなると財源が乏しくなるのは何となく理解できた。


「そもそも申請した事が無いからお母さんには良し悪しの判断は難しいわ。それでも、奨学金で大学へ進む事で、少しでも多くの子供達がより良い未来を過ごせるよう願うわね」


 当事者では無いからこそ、奨学金の齎す恩恵がイメージでしか判らない。ここ最近よくテレビなどで言われるのは、生涯獲得賃金が高卒と大卒では大きな開きがあるという事。

 収入格差がそのまま幸せの過多を表すわけでは無い。それでも、自分の希望に向かって進み、形になる事を願わずにはいられない。


「昔お姉ちゃんが言ってたように、何処で頑張るかだよね。でも、頑張ろうにも頑張れない人もいるよね。頑張ろうって思った時に少しでも助けになれば良いね」


「そうね。でも、貴方が出来る範囲で良いと思うわよ? だって、考えても切りがないわよ。すべての人が平等なんてありえないわ。でしょ?」


 お母さんが言う様に、全てが平等何て幻想でしかない。人は生まれる前から既に格差がある。そうでなければ親ガチャなんて言葉は生まれないだろう。お金だけじゃない、健康や、頭脳や運動神経、それこそ容姿だって持って生まれた段階で差が出来てしまうのが現実だ。


「判った、出来る範囲で頑張る!」


「日和は色々と悩むタイプだから、もう少し気楽に頑張りなさい」


「気楽に頑張るって矛盾していない?」


 私が聞くと、お母さんは笑います。でも、言いたい事は何となく伝わって来ました。


 出来ることから頑張る。そして、自分が気が付く範囲で、手が届く範囲でを意識しよう。無理をして自分達家族が幸せになれなければ本末転倒だ。


「そういえば、美穂ちゃんと良子ちゃんはどれくらい利益が出る予定なの?」


 どうやら私のお悩みの話は終わったみたいです。まあ、聞いてもらえて少しは気持ちが楽になったかな。そんな私は、お母さんからの質問に対し少し考えます。


「えっと、前世では10倍は固いと思う。出来れば20倍くらい行って欲しいけど、細かな所が変わってきているから無理は出来ない気がする。やっぱりアメリカの同時多発テロとか、ウーマンショックが無かったのが大きいかなあ」


「良子ちゃんは、借金返済の目途は立ちそうなのね」


「予想通りに行けばだけどね。でも、今の感じからすると大丈夫だと思う。問題は売り時かな? そっちは予測が付かない。一人で頑張ってる中村さんが、少しでも楽になって欲しいから。出来れば何とかしてあげたい」


 うん、やっぱり借金は無いに越したことは無いですから。

 環境問題は世界的に騒がれ始めているし、電気自動車が注目され始めているのは確かです。此処から先、大きく変化したとしても今の株価から下がる事は無いと思います。


「そうね。良子ちゃんは頑張ってるから、幸せになって欲しいわね」


「うん。ほら、前に言ったけど2020年頃からコロナが広まるから。あれも世界経済に大きな影響を与えるけど、同じように広まるかは不明でしょ? アメリカ領事さんには伝えてあるけど、それでどうにかなるのかは不明だし」


 前世で日本や世界に大きな影響を与えた出来事は、初めて訪問した時にお手紙で伝えてあります。同時多発テロや東北の原発事故が防げている事からも、ある程度は私の話に信憑性を与えたと願っています。その為、他力本願ではありますが、アメリカがコロナ対策は行って世界的な拡散が防がれることを願っています。


「そうね。美穂さんもだけど、やっぱり心配なのは良子ちゃんよね」


「うん。でも、未来を考えれば今投資しておくのは間違いじゃないと思う。勿論、博打要素はあるけど、貯金していてもインフレが進んでお金の価値が次第に下がっていったの。だから今が最後のチャンスかも? 日本経済ってだんだんおかしくなっていくから」


 若い人を中心に閉塞感がどんどんと高まっていった。


 転換期はやはりコロナなんだろうか? コロナが終わって、あれだけ悪く言われていたデフレスパイラルも終了した? そこから世の中は次第にインフレに変わっていったと思う。それは良い事のはずだったのに、私達の生活は何故かどんどんと苦しくなっていったように思う。


「年金だけでゆとりある老後は幻想だったんだよね。テレビとかで2050年には日本の人口が8000万人になるって言われても、私達にどういった影響が有るか何てまともに考えなかった。少子高齢化や出生率の事とか真剣に考えないと駄目だったんだけどね」


 前世の自分を思い出すと、本当に苦しかったと思う。お給料で贅沢さえしなければ十分に生活は出来ていたけど、将来の事を考えると不安しかなかった。


「日和は、どうなって欲しかったの?」


 お母さんから唐突に問いかけられた言葉に、私は思わず黙り込んでしまった。


 前世の私は、夢も希望も無くしていたと思う。ただ、毎日が過ぎ去るがままに生きていた。楽しみと言う楽しみなんか無く、思いつく楽しみと言えば本を読むことくらいだった。


 結婚なんか最初から考えていなかったし、自分の将来とか、老後の事なんか欠片も想像しなかった。


「努力すれば、努力しただけ報われる。頑張れば、頑張っただけ夢が広がる。そんな世界が良かった。そう思いながら、ぜんぜん努力しなかったんだけどね」


 そう言いながら、私はちゃんと笑えているだろうか? 目から溢れる涙が、私の思いを物語っている。

 今更ながらに、私の根底にある傷に気が付いてしまった。


「幸せになりたかった。今みたいにお金が、大金が欲しかった訳じゃないの。ただ、幸せになりたかったの。でもね、その幸せの形がね、思い浮かばなかったんだ」


 流れ続ける涙に遮られて、お母さんの表情が見えない。でも、私は必死に笑顔を浮かべようとする。


「ごめんなさいね。お母さんは、日和に、幸せがどういう物か、伝えてあげられなかったのね」


 気が付けば私はお母さんに抱きしめられていた。私はお母さんに抱きしめられながら、二人で暫く泣き続けたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
只の学資ローンを奨学金と称する金融機関には怒りを感じる。 しかも利息が非常に高い。奨学金と称するならせめて利息無し位にはならないものか? 安易に借りる学生も問題だが、審査も甘く学生を喰い物にしてる金融…
優秀なら給付型で支給するよって民間でやってるところもあるそうですし、何ならひよひよ基金を作って試験して優秀な子には支給するとか?
日和が将来基金か何かを作って、生活に余裕のない若い人に給付型の奨学金を配分できるようになれば、彼女が気にしていることの解決にも繋がるんじゃないかな? と思ったり……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ