63 引っ越しのお片付け
時間とは無情にも過ぎ去るもので、気が付けばあっという間に2月も終わりに近づいて来ました。
後期試験は無事に終わり、幸いにも単位を落とす事無く終わらせることが出来ました。ただ、試験勉強中は私達を気にかけて、お母さん達も引っ越し準備を控えてくれていました。その為、残り少ない時間の中で必死に荷造りしていましたが、お任せパックで依頼していなかったらと思うとゾッとします。
「募集していた部屋も全て埋まったそうだし、滑り出しとしては悪くないんじゃない?」
「結構お高い設定だったと思うけど、良く埋まったね」
場所的にも栄に近く、オートロックは勿論として常時1階に警備員さんが常駐しています。勿論、ロビーや出入口、エレベーター内、各階の廊下には防犯カメラも設置しています。中々にランニングコストも掛かる為、お家賃と共益費を合わせるとちょっと身構えちゃう金額になりました。
「昔は当たり前だと思ってた安全が、今では有料に変わったのよね。1階ロビーに面談ブースを作ったのも評価が高かったみたいよ? 家に招きたくない来客もあるもの」
そうなんですよね。今回、安全面も考えて1階には部屋を作りませんでした。
その代わり1階には大きめのロビー、来客などに対応出来る応接ブースを4か所、あと警備員室と自販機コーナー。自販機コーナーは悩んだのですが、1LDKに住む人は独身や単身者だろうし、あると便利だろうと設置しました。
「イメージはビジネスホテルのロビーだけどね。流石にみんなが利用できるトイレは止めたけどね」
まあ、最悪部屋まで持たず漏れそうなら警備員室のトイレを借りるだろう。ロビーのスペースにはまだ余裕が有るので、色々と活用の幅は広げられると思う。なんだったら受付嬢やコンシュルジュとかも考えたけど、恐らく暇を持て余すのではと止めました。
「私達以外の人達は殆どが3月からの入居だし、その点では余裕があるから助かるわ。3月の土日何て引っ越しラッシュで2基のエレベーターがフル稼働じゃないかしら」
今回建設したマンションは何と15階建てです。そこに、3LDKのファミリー層向けが1フロアに2部屋、それが11階から15階で10世帯。1LDKの単身向けが1フロアに4部屋。それが2階から10階で36世帯。合計なんと46世帯になるんです。エレベーターは2基しかないので奪い合いになりそう。一応、説明はしてあるんだけど上手く分散してくれる事を祈ります。
「日向達も今週引っ越しでしょ? まあ、あっちは美穂さんがしっかりしているから大丈夫でしょうけど何か聞いてる?」
「お休み取って平日に引っ越しを組んだって言ってた。でも、詳しくは聞いてないよ? 同じ引っ越し屋さんだよね?」
最上階の二部屋は、我が家とお姉ちゃんの部屋になります。セキュリティー面を考慮してお姉ちゃん達も引っ越しを決断しました。
「一緒に見積お願いしたからそうね。でも、あっちは引っ越し屋さんにお任せして、手荷物一つで引っ越しするそうよ? 時間をお金で買うとか言ってたわね」
なんと! 流石はお姉ちゃん? 小市民の私にはとても出来ない選択です。
「幾ら位高くなるんだろ?」
「さあ? あの子に聞いたら、野暮な事聞かないでって言われたから聞いてないわ」
うん、これが同じ血の繋がった姉妹だとは思えません。やはり育つ環境という物が、此処まで人に影響を与えるのでしょうか? ただ、今この段階になって私は後悔しています。
「うちもそうすれば良かったね。荷解きから設置まで全部お任せすれば良かった」
後悔先に立たずとはこの事でしょうか?
「今更な事を言ってないで手を動かしなさい。引っ越しが判っていたのだから、絶対使わない物とか早めに梱包しなさいって言ってたのにやらなかったのは自分でしょ? 良子ちゃんなんてもう自分の分は終わって手伝ってくれてるのよ!」
中村さんは、せっせと台所周りの物を新聞紙に包んで箱に仕舞ってくれています。うん、そりゃあ荷物の量が違いますよと言いたいのですが、善意で手伝ってくれている中村さんの手前、変な事は言えませんよね。悪口に聞こえたら嫌ですし、今苦労しているのは自業自得なのは確かです。
「う~~~、あっという間に時間が過ぎてくよ~~~」
リビングにどんどんと段ボールが積み上がっていきます。下着とか、洋服とか、あまり他人に見られたくない物を優先して段ボールへ詰めています。同年代の人と比べて洋服なんて持っていない方だと思ってたんですが、それでも段ボール箱5箱を超えそうです。
「こんなに服持ってたんだ。半分以上お姉ちゃんからの貰い物だけど」
お姉ちゃん的には洋服を売ると言う発想は無いそうです。自分が着た服を知らない人が着るというのに抵抗があるって言ってました。その為、流行やら、年齢的に着れなくなったデザインやら、色々な理由で服や鞄などが流れて来るんです。
「日和は日向と違って物を捨てられないから増える一方ね」
お母さんは笑って私の作業を見ますが、貰ったは良いけど一度も袖を通した事のない服なんかも結構あります。クリーニングから帰って来たまんまだから一目で分かりますね。
「あ、中村さん! うちのお姉ちゃんからの貰い物で良ければ欲しい服ある? ここら辺のカバーかかったままのは私は一度も袖通してないから、良ければ貰って」
普段着る服、比較的良く着る季節もの、そんな風に洋服を箱に詰めていたら、中村さんが顔を出したので声を掛けました。
「え? え? 今持ってる服が少ないし貰えるなら貰うけど、前に貰ったばかりだよ?」
中村さんが我が家に暮らすようになって、着ない服を幾つか中村さんに譲りました。中村さんは実家から私物を持ち出せていないので、手持ちが少なかったですからね。
「遠慮しないで良いよ? 前にも言ったけど、私って普段はウニシロ派でしょ? 同じ服を着まわすことが多いし。お姉ちゃんが要らないなら捨てるっていうのを勿体なくて貰ってたけど、見て! 吃驚、クローゼットから出るわ出るわ」
「うん、いつも同じ服着てるなあって思ってたけど、あれって変に目立たない様に周りを気にしてじゃなかったんだね」
はい、思いっきり不精です。今日はどの服を着て行こうかなどと考えるのが面倒で、極端な話曜日毎に着る服を決めて通学していました。流石に女性の目は誤魔化せていなかったみたい。
お姉ちゃんから貰った服なので、中にはブランド物もあったりします。中村さんとワイワイしながら洋服選びをしていたら、お母さんが呆れたような視線を向けて来ました。
「貴女達、片付けてるはずが、さっきより散らかっているわよ」
二人して顔を見合わせて肩を竦めます。
「でも、ブランド物も混じってるけど、本当に貰っちゃっても良いの? 鈴木さんは着ないの?」
「着ないかなあ。変にブランド物ってなったら汚しそうで怖いし、もし汚しちゃったら落ち込むよ絶対」
私の返事に中村さんは何とも言えない表情を浮かべ、お母さんは何やらこめかみを押さえていました。
「日和は何でそうなっちゃったのかしら? 日向は女の子らしいのに。こんな言い方をすると良くないのかもしれないけど、日和ってケチよね?」
「が~~~ん!」
思いっきり声に出して自分が受けた衝撃の強さをアピールします。でも、お母さんは真面目な顔で私に質問をしてきました。
「日和? ショック受けてるみたいだけど、もう少し自覚した方が良いわよ? あなた自分の物を買うのに1万円以上かけた記憶はある? あ、学校の教材とかは抜いてね。勿論合わせて一万円じゃなく、単品でよ単品」
「え? 勿論あるよ? えっと……」
ん? あれ? 一万円って、最近私が買った結構お高いものでも1万円しませんよね? ここ最近で1万円以上って何かあったかな?
「ドライヤーも、ヘアーアイロンも合計ならともかく1万円しないし、あ、化粧品はって、あれも単品なら駄目かあ1万円しないね」
色々と考えますが、中々思いつきません。ウニシロでも合計だと1万円を超すことはありますが、単品だと不可能です。
「あれ? ないかも?」
思わずそう呟いて視線を上げると、お母さんが呆れたような視線と、中村さんの又もや何とも言えない哀れみの籠ったような視線が注がれていました。
「鈴木さん、それなりのお値段がするものって、やっぱりそれだけの価値が有るんだよ? 今言った化粧品何か特に自分に合った物とかあるし、ドライヤーやヘアアイロンも良い物は髪を傷めないの」
「あ、美容院! 美容院は1万円超える!」
中村さんの説明を聞いて思いついたままに叫んだのですが、残念ながら注がれる視線の質は変わりませんでした。
頑張りました! 『今日の一冊』に掲載して頂いている期間、つまり10月21日(火)まで土日除いて連続投稿完了です! せっかく選んでいただけたので、何とか連投をと頑張りました!
そして、10月22日からは今まで通り毎週水曜日の投稿に戻ります。
っと、何が言いたいかというと、22日(水)まで連続投稿しますよ!
楽しんで頂けると嬉しいです。