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61 日和が過ごすお正月のひと時

 クリスマスも無事に終わり、お正月も気が付けばあっという間に過ぎ去っていきました。

 1月2日には金鯱高校時代の友人達と熱田神宮に初詣に行きました。三上さんも地元に帰って来ていたので、せっかくだからと松田さんと斎藤さんも交えて連れ立って出かけたんです。ちなみに、中村さんも同じく遊びに出かけて行きました。


「来年は初詣に行く余裕あるかなあ。国試に向けてカリカリしてそう」


「高3のあの悲劇よもう一度?」


「皐月ちゃんは公募推薦で早抜けしたよね!」


「うん、あれは助かった。でも、今度は逃げれない」


 私達3人のやり取りを後ろから付いてきているみどりちゃんが笑っています。

 結局のところ、医学部も獣医学部も、そして薬学部だって同じ6年制。最後の最後に国家試験が待ち構えていて、それに受からなければ国試浪人です。4人共に来年の今頃は最後の追い込みで地獄の真っただ中?


「でも、合格祈願に初詣くらい一緒に行きたいですね」


 みどりちゃんの言葉にみんなが頷きます。


 私達は人の波に揉まれながらも何とかお参りをして、社務所で健康祈願と学業成就のお守りを買います。家のお札は家族でお参りに来た時に買うので、今日は購入を見送りました。


「この後どうする? ひつまぶし行く?」


 熱田神宮と言えばひつまぶしですよね? ただ、年末年始は予約出来ないのでかなり待つ事になると思います。


「別にひつまぶしじゃ無くても良いよ? どっか適当な所で」


「なら栄行こっか。どのみち待ちはありそうだけど」


「うん、お昼にはまだ早いし、良いんじゃない?」


 デパートも2日から始まっているので、食べる所は色々とありそうです。この後は、恐らくカラオケにでも行く事になるので栄で問題は無いですね。


 地下鉄で移動して栄に行くと、まだ2日だと言うのに中々の賑わいです。すれ違う人の何割かが福袋と書かれた大きな紙袋を持っているので何となく納得?


「福袋目当てでデパートが始まるのを待ってた人かな」


「うん、熱意が凄いね。私は福袋って買った事無い」


「うん、私も無いかな」


「失敗が怖いから私も無い」


 意外な事に私達全員が福袋を買った事がありませんでした。


「あれって、どういう人が買うんだろ?」


「デパートは12月31日とかも買い出しで凄い人だよ。うちも花びら餅買う為に朝から並ぶもん」


「前テレビで福袋の中身を交換してるとことかやってたの見た。あれ見て私には無理だなって」


 まあ、全部がそのような福袋では無いと思いますよ? 洋服なんかだとサイズごとに分かれているらしいですし、そうでないと買ったけど着られる服が入ってないって事になりますからね。


 そんな事を話しながら、一先ずお目当てのお店が入っているビルへと移動しました。ここは、7階と8階に食べ物の専門店が入っているんです。和洋折衷いろんなお店が入っています。


「何食べたい?」


「あ、辛いのは勘弁してね!」


「残念、ぜひ佳奈に食べて欲しかった」


「絶対に嫌!」


 意外な事に松田さんは辛い物が苦手です。カレーライスの有名チェーン店でも甘口を頼みます。他のメンバーは辛い物は結構好きでなぜか3辛を頼むんですが。


 キャイキャイと言い合っている二人を他所に、真面目にお店選びをします。ただ、中々に難しいのです。


「ゴメン、私牡蠣駄目だから」


「私はトロロが駄目。ネバネバ系が苦手」


 こんな感じで中々に決まらない。まあ、こうやって集まってワイワイしているのも楽しいものです。


「で、結局決まったのが親子丼かあ」


「女子の選ぶものでは無いわね」


「でも、親子丼で1800円ってどんだけって思わない? 名古屋コーチンとはいえ、卵何個使ってるんだろ」


「うん、楽しみ」


 親子丼のイメージと言えば、真っ先に出るのは安いじゃないでしょうか? そのイメージに対し真っ向から逆らっているのがこのお店です。うん、値段を見た時に思わず二度見しましたよ。


 そして運ばれる名古屋コーチンの卵を使った親子丼!


「うわ! 凄い存在感! 親子丼じゃないよ!」


「俺をそこらの親子丼と侮るなよ?」


「っていうか、皐月ちゃん食べきれる? 結構ボリュームあるよ?」


「大丈夫、大学入ってから食事量増えた。獣医は体力勝負」


 皐月ちゃんがそう言って力瘤を作るんですが、えっと、どこに力瘤ありますか? 相変わらず腕が細いですね。


「うん、ぜんぜん変わったように見えないね」


「が~~~ん!」


 まあ、こんな馬鹿話をしながらも、親子丼の攻略を開始しました。


「うわ! ふわとろ! 出汁も効いてて凄く美味しい」


「うんうん、卵も何か濃厚に感じる。やっぱり名古屋コーチンだからかな?」


 みんな賑やかに食べ進めて行きます。ただ、余裕が有れば手羽先と唐揚げも頼んでみようかって話していたのですが、これは絶対に無理そうですね。


 食べ進める私達は、次第に口数が少なくなっていきます。皐月ちゃんは早々に完食を諦めお茶を飲んでいますが、チラチラ松田さんを見ているのは余力がありそうなら押し付けるつもりでしょうか? ただ、流石の松田さんでも無理そうだと思いますよ。


「皐月、私は無理だからね! そんな如何にもな感じでこっちをチラチラ見ても駄目だからね!」


「佳奈ならいける! ガンバ!」


「行けないから! 私を何だと思ってるの!」


「う? フードファイター?」


「なってないから! ぜんぜん食べる量は普通だからね!」


 高校時代の光景が思い出されますね。皐月ちゃんも懐かしくて、ついつい松田さんに絡んじゃうんだと思います。言わないですが、やはり一人だけ離れて暮らしているのは寂しいですよね。


 その後、ご飯を食べ終わって長居をするのも問題が有るので、早々に近くのカラオケ屋へ雪崩れ込みます。フリードリンクなので各自好みの飲み物を持って、いざカラオケ? のはずが歌そっちのけで近況報告という雑談に。


「皐月、ちゃんと一人暮らし出来てる? 部屋をゴミ屋敷にしてない?」


 このメンバーの中で、唯一ひとり暮らしをしている皐月ちゃん。ただ、中々にお嬢様育ちの為、家事が出来ないんですよね。


「大丈夫、慣れた!」


「それ、慣れちゃ駄目な奴!」


 うん、松田さんと皐月ちゃんは相変わらず仲が良い。松田さんは長女という事もあって、面倒見が良いですからね。そんな二人を置いといて、私はみどりちゃんに話しかけます。 


「みどりと佳奈は学部は違うけど同じ大学でしょ? 最近も良く会うの?」


 医学部と薬学部の違いはありますが、同じ医療系学部だし学ぶ校舎は同じだと言ってました。1年生の頃はお昼とかも一緒にしてたと聞きます。ただ、学年が進むにつれて別々になる事が増えたとも言ってました。


「同じ大学だから、それなりには顔を合わせているかな。それでも回数は減ったわね」


「そっか、実習や研究室が出て来るから、色々と予定が狂うし仕方がないよね」


 講義の無い空き時間は研究室にいる事も多くなります。その為、食堂に居ても会わなかったりするんだと思います。スマホのコネクトが今後普及して行けば、もう少し変わるのかもしれませんが。


 私がそう納得してそんなもんだよねって会話を続けていると、突然松田さんから爆弾を放り投げられました。


「あ、日和、それ違うから! みどりに彼氏が出来て誘い辛くなっただけ!」


「え?」

「なぬ?」

「ちょっと! 言わないでって言ったでしょ!」


 一斉に声が上がりました。そして、みどりちゃんは顔を真っ赤にして松田さんを睨みつけましたが、私達の視線は一斉にみどりちゃんに注がれます。


「うわあ、そっかあ。やっぱりみどりが一番に彼氏作ったかあ」


「日和? それはどういう意味かな?」


 照れるみどりちゃんを見て思わずそう呟いたら、何故か松田さんにヘッドロックされました。


「え? え? 何でヘッドロック? だってそこはほら、でしょ?」


「意味が解らん!」


 おかしいです。ヘッドロックの力が強くなっただけで解かれません。


「佳奈ちゃん、力が何か強くなったんだけど?」


「うん、強くしたからね」


「それは真理」


 私達のそんな訳の分からないやり取りを経て、漸くみどりちゃんへの追及が始まりました。


「うん、まあ驚きは無いとは言わないけど、同じ学部の人? どこで知り合ったの?」


 やはり気になるものは気になるんです。松田さんはニヤニヤ笑って後ろで腕を組んで見守っています。まあ、同じ大学だし付き合い始めた頃とか色々と知っているんでしょう。


「うん。ほら、医学部って出会いが少ないでしょ? だいたい同じメンバーで行動しているし、だから段々と仲が良くなってって感じ?」


 まあ、国立大学医学部となると私大医学部と違って定員の数がすっごく少ない。その為、一緒に行動するメンバーがほぼ固定されるのは何となく想像が出来ます。まあ、みどりちゃんは医学部でも珍しいほんわか系ですから、狙う人は多かったんじゃないかな?


「医学部は男子の方が多いから、薬学部何て女子高か! って思うくらい女子率が高いよ。男の方が引く手あまたでやってられない」


 何か松田さんがやさぐれています。


「日和は? 彼氏できた?」


「皐月ちゃん、出来ると思う?」


「ん、残念」


「酷い!」


 まあ定番のやり取りです。


 実際の所、このメンバーで結婚出来無さそうなのは私と皐月ちゃんじゃないだろうか? 松田さんは、やっぱり面倒見の良さでコロリと彼氏を作りそう。上手くアピール出来たらあっという間かなって思う。皐月ちゃんは、まあ、うん、ね?


「日和が、何か失礼な事、考えてる」


「え? そんな事無いよ! 皐月ちゃん、ずっともだよ!」


「何か嫌!」


 酷い言われような気はするけど、その後は楽しくカラオケをして解散です。3人とも夜は用事があるという事で、素直に解散となりました。


「皐月、ちゃんと掃除するんだよ~」


「頑張る」


「来年の年末は何かと慌しそうだし、お盆に会おうね」


「うん、皐月、頑張って帰って来るんだよ!」


「頑張る」


 まあ、皐月ちゃん以外の3人は集まろうと思えば集まれるんです。でも皐月ちゃんは帰省しないと会えないので、そこは皐月ちゃんの頑張り次第。何と言っても追試になればお盆の帰省すら出来なくなる?


 久しぶりに高校時代の友人達に会って、楽しかったなあって実感しながら帰宅しました。大学とは違い、受験戦争を共に協力して戦ってきた戦友でもあります。そういう意味でも生涯に渡って交流を続けたい仲間達です。


「ただいま~」


 何となくわくわく感を維持したまま家に帰ると、ソファーでぐったりとしたお姉ちゃんと美穂さんが居ました。


「えっと、お帰りなさい?」


 二人は美穂さんの実家へと顔を出して来たはずです。大晦日と元旦は二人で初詣に行って、2日の今日は朝から我が家にお雑煮を食べに来ていました。そして、午後から美穂さんの実家へ顔出してくると言って出かけたんですが、思いっきり疲れていますね。


「日和、お帰り。ねえ、来年は日和も美穂の実家行かない?」


「いっや!」


 うん、返事は此れしか無いですよね。

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― 新着の感想 ―
地元民なので読んでて楽しいです。 栄だと…ラシックだろうか? パルコは親子丼食べれそうな店が無いし…
出会いが少なく、医学部でだんだん仲良くなって…か。 日和も出会いがなさそうだしそんな感じなんですかね。旦那の一人称は僕だから…。 セレブなんだけどセレブじゃない家庭を築ける旦那とのお付き合い、見れるな…
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