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60 みんなでクリスマス

 クリスマスはお姉ちゃん、美穂さん、勿論中村さんも参加して賑やかに過ごせました。中村さんはこうやって家族みんなでワイワイ騒いで過ごすクリスマスを経験した事が無かったそうで、凄く喜んでくれました。


「やっぱり鈴木家はいいなあ。私も鈴木家に生まれて来たかった」


 お菓子の入った長靴をプレゼントされた中村さんは、その長靴を抱きしめながらそう言いました。毎年行っている家族間のプレゼント交換をどうしようか悩んだのですが、流石に中村さんの前でするのも何なので、お菓子の長靴を私とお姉ちゃん、そして中村さんが貰って終わりにする事にしたんです。


「結構うちも大変だよ? 小さい頃からお姉ちゃんにスパルタで勉強させられてた」


「あら? 日和はそんな事を言うの? ふ~~~ん、そっかあ」


「でも、なんかその様子が目に浮かぶわね。日和ちゃん、元気に生きてね!」


「み~~ほ~~~?」


 うん、結構マジなトーンで言うお姉ちゃんに慌てて私は謝ります。お姉ちゃんは私よりも美穂さんと力比べを始めました。そんな私達を見て中村さんは笑い声を上げますし、お母さんとお父さんは呆れたような表情を浮かべ、せっせとローストチキンを切り分けて行きます。


「そういえばターキーじゃないんですね。理由があるんですか?」


 まあ、クリスマスでローストチキンと言えばやっぱりターキーを思い浮かべますよね。ただ、それには幾つかの問題が有るんです。


「一度ターキーでした事が有るんだけど、ターキーってちょっとパサパサで大味なの。それと、大きくて電子レンジに入らなくて大変だった」


 うん、あの時の事はしっかりと覚えています。電子レンジの中に押し込んだんですが、料理前に両足を切り落とす羽目になりました。


「でも、去年も思いましたけど贅沢ですよね。やっぱりお母さんの手作りという所が凄く羨ましいです。我が家も家族でお祝いしましたけど毎年外食でした」


 美穂さんも料理を食べながらそう言ってくれます。ただ、家族はみんな顔を見合わせて苦笑します。


「そう言ってくれると嬉しいわ。でも、この子達が小さい時は此処まで豪華じゃなかったのよ? それこそ、チューリップがメインだったわね」


 まあ、時々我が家の煮込みハンバーグやビーフシチューが追加されましたけどね。ただ、外食自体が滅多にない家だったので、今思えば貧しかったのかな? でも、あの頃のサラリーマン家庭なんて何処もそんなものだと思ってました。


「うんうん、あとローストビーフは何でか大晦日に作ってたよね? 元旦はうちはローストビーフっていうイメージがあった」


「そうね。お節料理も無かったし、伊達巻は流石にスーパーで買ってたけど、数の子と田作り、なますと黒豆。あと何を作ってたっけ?」


「お正月料理も基本的に家で作ってたわねえ、お店に頼むなんて考えもしていなかったわ」


 我が家の年末年始の話から始まって、美穂さんや中村さんの家の話になります。すると年末年始は中々に地獄の様です。


「なんせ親戚が集まるから。料理とかは基本仕出しを頼むけど、のんびりとお節を食べるなんて無いわね。毎年戦場よ戦場! 女性陣はもう男どもや子供の世話で走り回って三が日過ぎればクタクタ。正月鬱になるお嫁さんだっているわよ」


 美穂さんのそんな話から始まって、それ以上に壮絶なのは中村さんの家でした。


「うちは、12月28日ぐらいから檀家が集まってお寺の掃除、お餅をついて配るんだよね。流石にお餅つきは男性がするけどそっから始まって伸し餅も作ってと大変なの。で、大みそかは甘酒作って参拝客に配ったりして、元旦は分家の人達が集まって大騒ぎ」


 うん、何か聞いているだけで嫌になってきます。それこそ、生まれた時からそういう物だと思って暮らしてきてないと厳しいかな。二人から愚痴が出るわ出るわで我が一族は全員が苦笑を浮かべていました。


「今年は家から解放されるんだあ。凄く嬉しい!」


 中村さんは満面の笑みですが、美穂さんは思いっきり暗い表情を浮かべていました。まあ、美穂さんは逃れられないんでしょう。


「ねえ、日向。あなた手伝いに来ない?」


「いっや!」


 うん、お姉ちゃんの気持ちは分かるだけに、私は何も言いません。せっせと料理を食べる事に集中しました。でも、お金持ちはお金持ちで苦労があるんだなって少し同情します。


 その後、プレゼントで貰った長靴を開けて中に入っているお菓子で盛り上がりました。


「子供の頃、欲しかったけど買って貰えなかったんですよね」


 中村さんも嬉しそうに中身を確認しています。


「美穂のも有るから履けるわね。美穂、履いてみる?」


「え! 紙だしすぐ壊れちゃわない?」


「でも、履いてみたくない?」


 何やらお姉ちゃん達は怪しげな話をしていますが、確かに子供の頃憧れていました。大きくなった今でもちょっとわくわくします。


「楽しんでくれてよかったわ」


 私達の様子を眺めてお母さんもニコニコです。


「毎年、何をプレゼントするか悩むんだよね。ほら、どうせなら楽しめる物って言うか、笑える物っていうか、色々と考えちゃう」


「日和は毎年変なものを選ぶわよね」


 お姉ちゃんにそう言われますが、高い物をプレゼントするって言うのは違う気がするじゃないですか。その為、毎年どういった物をプレゼントするかで悩んでいます。


「そういえば、日和ちゃんから去年貰ったパーカーは笑ったわね。働きたくないのでござるでしたっけ?  流石に外には着ていけないけど家では愛用しているわよ」


 美穂さんが笑っています。私が昨年お姉ちゃん達にプレゼントしたのは、働きたくないのでござる、って書かれたパーカーです。うん、疲れていたんです。


「あれには日和のセンスに絶望したわね」


 うん、お姉ちゃんの突っ込みが痛い。あの時も美穂さんは笑ってくれたけど、お姉ちゃんは無表情になりましたからね。


「日向はスノードームだったけど、あれは捻りが無かったわ。今年は私も選ぶのに参加したから期待してね」


 美穂さんはそう言ってウインクしてくれますが、逆に何を選んだのかが怖くなります。


「そうね。悪くは無い選択をしたと思うわよ?」


 何やら悪い予感という物は続くもので、お姉ちゃんの表情を見て今年のプレゼントに不安しかありません。そんな会話を羨ましそうに聞いているのは中村さんでした。


「いいなあ。クリスマスプレゼントって買ってほしい物をお願いするだけだったから、楽しみとか無かった気がする」


「あら。でも欲しい物を買ってあげるのも愛情よ? そもそもクリスマスはしないって言う家だってあると思うわ」


「はい。でも、やっぱり鈴木家が羨ましいです」


 お母さんが言う様に、小学生の頃にクリスマスを祝った事が無いっていう子がやっぱり居ました。一時、小学校で誕生日会を開いて友達を呼ぶ事が流行りましたが、父兄の苦情が学校に入って直ぐに無くなりました。色々な家庭が有るし、色々な事情もあります。世の中って難しいですよね。


「まあ、そのなんだ。此れからだよ此れから」


 空気になっていたお父さんが、中村さんに微笑みながらそう言います。お父さんも以前は家庭の事なんか振り返る事なく、酷い時はクリスマスイブに家に居ないで午前様なんて事もありましたからね。まあ、せっかく中村さんが憧れてくれるんですから、其処は言わないでおきましょう。


 クリスマス会も終わり、お姉ちゃんと美穂さんはタクシーで帰っていきました。

 流石に今日はお願いしている運転手さん達も頼みません。出来れば家族で過ごして欲しいですからね。実際はどうか判りませんが、我が家のせいでお仕事っていうのは嫌なのでタクシーをお願いして帰っていきました。


「もうじき一年が終わるね。何かドタバタした一年だったなあ。こんな一年になるなんて去年は思いもしなかった」


「そうだね。後半特に慌しかったからね」


 私は中村さんと二人でパジャマに着替えて話し込んでいました。もうじき中村さんは独り暮らしが始まります。その前に憧れのパジャマパーティーです。


 テーブルの上には、それこそ長靴に入っていたお菓子が広げられています。パーティーで飲んだシャンパンで程よく酔いが回って、何となく此の侭眠ってしまうのが勿体なく思ったんですよね。


「幸せって何なんだろうなあ。ついこの前まで幸せだと思ってたんだけど」


 そう言って中村さんは黙り込みました。


「それはそれで幸せだったんじゃないかな。幸せの定義って難しいから、ほら、隣の芝は青く見えるって言うじゃない。中村さんは褒めてくれるけど、うちだって色々あるよ? たとえば、お父さんの方の実家には絶対に行きたくない! あそこに行って楽しかった事なんて一度も無かったから」


「そうだよね。鈴木さんのとこだって色々あるよね」


「うん。それに、お客さんに嫌な所とか、恥ずかしい所とか見せたくないでしょ? 特にお父さんなんて中村さんが来てからは家の中でもちゃんとした格好してくれてるから! 前まではすっごくだらしなかったよ!」


 それこそ、以前は平気でステテコ姿で家の中をウロウロしていましたからね! 今は家の中でもちゃんと服を着てくれています。


「え? おじさんが? すっごく意外かも。家の中でも何時もお洒落だから」


「そりゃあ娘の友達が居たら気を遣うって」


 本来なら此処まで親しくなる事なんて無かったかもしれない友達。前世ではその存在すら認識していなかったし、どんな人生を歩んだのでしょうか? この出会いが少しでも幸せな未来に繋がっていると良いな。そんな事を思いながら、中村さんと色んなことを話すのでした。

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― 新着の感想 ―
気になって調べてみたら 働きたくないでござる パーカーは実在してますね。 元ネタはSAKON?or剣心?
ほのぼのいいですね。 父は離婚がいいかなって思ってたけど、本人たちが笑ってて、父も大人しくなってるなら、これも自然でいいのかも。 幸せそうで良き
働きたくないのでござるパーカー・・・微妙に欲しい。
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