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46 お引っ越し準備と相談事

 日々、大きな騒動も無く大学の授業に必死に齧りついています。周りの人達が余裕で授業についていっているのを見ると、やっぱり私は凡人だなあと思わされます。


「いや、僕達だってそこまで余裕じゃないからね!」


「うん、先輩達から前の年の試験内容とか教えて貰って、教授の傾向とか対策しているだけだから」


 今私は大学の自習室で中村さんと藤巻君の3人で定期試験対策の勉強をしています。

 グループが同じお陰で、中村さんと藤巻君とは何かと行動を共にする事が増えました。


「やっぱり先輩からの情報って必要だよね?」


 私は大学のサークルなどには不参加でした。そもそも、そちらに割く時間が取れないと言うか、日々の全てにおいて余裕が無いんですよね。あと、お姉ちゃんや美穂さんが居るお陰で情報が入って来るのもあるかな? ただ、皆を見ていると効率がちがいそうです。


「私は茶道部に入ってる。昔から茶道を習ってたっていうのもあるけど、やっぱり試験問題とか単位が獲りやすい教授の情報とか、はっきり言って情報収集が狙いで入った。もう気が付けば最上級生だけどね」


「うん、流石?」


「え? 何が?」


 茶道部ですか。成程、習い事でお茶というとお嬢様なイメージがありますよね。確か中村さんも実家は開業医と言っていたし、やっぱりお嬢様なのかな?

 私と中村さんが訳の分からないやり取りをしていると、藤巻君がぼそりと呟きました。


「僕はどこにも入ってないよ」


 うん、藤巻君は何となく苦学生という印象が強いですね。実家の話は聞いたことがありませんが、学習塾のアルバイトを今も続けています。ただ、塾の講師というのを楽しんでいるみたいで、何と教えている生徒と良くメールのやり取りをしています。


「私も中高含めて部活って入った事無い。思い返せば勉強勉強で灰色な学生時代だったなあ」


 青春時代とはとても呼べない日々でしたよね。ただ、前世からの年齢を考えれば、今更という気持ちがどうしても強い。まあ、前世でも部活は入ってなかったですけどね。


「それはうちの医学部の人殆どがそうじゃない? 本当に天才って言える様な人達は国公立行ってるだろうし、其処まで余裕はないと思う」


「そうだよなあ」


 実際の所、留年しない様に大学側でも色々と対策をしてくれている。

 補修、補講などはざらにあるし、試験だって本試験、追試験、追追試験まで用意されている。もっとも、ギリギリで大学を卒業できても国家試験に受からなければなので、殆どの人は真面目に授業を受けているし、追追試験などは滅多に聞かないけど。


 そんな会話を交えながら、自習室で勉強を進めています。集中力の維持が課題の私としては、他の人達が頑張って勉強しているお陰で、長い時間集中して勉強する事が出来ている。


「あ、ごめん。僕そろそろ行くね」


「うん、お疲れ様」


「頑張ってね~」


 そんな中、アルバイトに向かう為に藤巻君が此処で離脱しました。私と中村さんは自習室が閉まる10時まで引き続き勉強を続けます。


「ねえ、これ聞いていいのか解らないけど、鈴木さんは許嫁とかいるの?」


「へっ!」


 もうそろそろ区切りをつけて帰り支度を始めないとという頃、中村さんから吃驚する発言が飛び出して、思わず変な声が漏れちゃいました。慌てて周りを見ると、案の定周りからも奇異な目で見られていました。


「あ、ごめんね。突然変な事聞いて」


 中村さんも慌てて謝罪してくれますが、なぜそんな質問が出たのかが判りません。


「許嫁とか居ないけど、突然何で?」


 周りを気にして小さな声で尋ねると、中村さんは何とも言えないような表情を浮かべていました。


「えっとね、鈴木さんには年上の許嫁が居て、卒業後すぐに結婚するって噂がながれてるの。でも、一緒にいるとそんな様子が無いから気になって」


「え? 何その噂。っていうか許嫁が何処から出て来た?」


 あまり学科内で交流がある訳では無い私ですから、噂が流れていても気が付かないのは理解できます。

 今流れている実はお金持ちなどの噂は、まあここ最近の行動を考えれば判りますが、どっから出て来た許嫁!


「今流れてる噂話の中で変に話が膨らんだって言うのは想像できるけど、それにしても許嫁かあ。う~ん、そっかあ。まあ煩わしい事になるよりは放置した方が得かな」


 思わず自己完結しますが、良く考えると私にとって悪い噂という訳ではなさそうです。お金持ちという事が広まって、やたらに声を掛けて来た人達の事を考えると利点しか思い浮かばないですね。


「あ~~~、うん。その反応で何となく理解した。でも、そっかあ。やっぱり許嫁とかデマなんだね」


「うん、うちの両親はサラリーマンだし、小説やドラマで良くあるような旧家でもないから。だいたい今どき許嫁は無いって、いつの時代って感じだよね?」


 私がそう返事をすると、中村さんが微妙な表情を浮かべる。


 あれ? うん、若しかしてやっちゃった?


 中村さんは、恐らく私の表情が変わったのに気が付いたのだろう。バツの悪そうな表情で答える。


「気が付いちゃったっぽいですけど、思いっきり許嫁がいます」


「あ~~~、何と言うか、ごめんね」


 咄嗟に謝罪します。許嫁がいる生活と言うのが想像できないですが、当事者では無く周りが良い悪いと判断するのは可笑しいですからね。


「お仲間かと思ったんだけどなあ。まあ、ちゃんと納得はしているので良いのですが、それでも誰かと愚痴を言いたくなる時がありますよね?」


「判るとは言えないけど、愚痴ならいつでも言ってくれれば聞くよ? 上手いアドバイスが出来るかは別だけど」


「それだけでも助かるかな。他の人と違って鈴木さんって変に噂話とかしないでしょ? そういう所が安心出来るから」


 まあ、ボッチに近いですからね。噂話をする相手が居ませんし、自分がされて嫌な事はしないに越した事はないです。


 その後、何となく私は中村さんと試験終了後にお泊り会を開くことが決まっちゃいました。中村さん的にも、何か相談したい様子でしたから。まあ、その時は中村さんの鬱憤を聞いてあげましょう。


 その後、帰り支度をして自習室を後にします。

 それにしても許嫁ですか。美穂さんも中々に厄介な親族が居ましたし、代々医者の家系というのも大変そうですね。




「で、私にも何やら盛りに盛られた噂話が広まっているみたい。それこそ許嫁まで盛られてる」


「まあ、邪魔にならないなら良いんじゃない?」


「隠れ蓑にもなるし、丁度良い篩になるでしょ?」


 まあ、予め予想は出来ていましたが、この二人の反応はこんな物でしょう。ただですね、そんなにあっさりと言われると反発したくなるのが人情ですよね?


「でも、これ放置してたら私に春が訪れないよ?」


「それは困るわね。日和は独身をつづけたのよね? 色々と余裕は有るのだし、せっかくなら孫は見たいわ」


 お母さんがさっそく反応します。ただ、お姉ちゃんは懐疑的な視線を私に向けてきました。


「日和はめんどくさがり屋だから。そこは今も変わってないよね? 休みでもまず出かけないし」


「え? そ、それは用事がないだけで」


「用事は作るもの! それこそ高校時代の友達とか、大学の友達とかと遊びに行くとか出来るでしょ? でも、絶対に面倒がって何かにかこつけて断ろうとする」


 う、思いっきり図星を突かれると言いますか、休みの日とか出かけるのが面倒になります。ただ、私は家だと今一つ勉強に集中できないので、家の傍の喫茶店を良く利用しています。


「休みの日も勉強する為にヨネダには行くよ? 日によっては大学の自習室で勉強することもあるし」


「うん。そこは良いけど、友達とは一緒じゃないよね? そもそも恋愛に対しては昔から臆病だよね」


 前世も知っているお姉ちゃんだけに、中々に厳しい所を突いてきます。ただですね、恋愛とか今更感があるのです。何となく自分には向いてない気がするんですよね。


 その後、何とか話題を本来の引っ越しの話へと軌道修正しました。まだ先の話ではあるんですが、そろそろ引っ越しの段取りなどを確認しないとです。

 今建設しているマンションの完成予定は、年末の12月末なんですよね。年内で何とか完成させて、4月の年度変わりで移動する人をターゲットにしたいんです。


「美穂には全て話したから、気兼ねなく引っ越しが出来る状況にはなった。色々と言われたけどね」


 お姉ちゃんが苦笑して話してくれましたが、そこはお姉ちゃんと美穂さんの信頼関係が強いです。お金って人間関係を簡単に壊しかねないですからね。


「場合によっては美穂も巻き込まれるかもでしょ? だから全部話したよ。今後の危険とかも含めて」


 先日、話を打ち明けられた美穂さんは、それこそ淡々としていたそうです。今までお姉ちゃんがしていた身の上話も半分くらいは誤魔化してるなと感じていたみたい。まあ、そこは長年お姉ちゃんと一緒にいる美穂さんですから、何となく察していたみたいです。


「まあ、日向が持っているお金が5億だったとしても、50億だったとしても今までと変わんないでしょ? 日向のお金に頼らないと駄目な生活して無いし」


 まあ、そこは昔からプライドの高い美穂さんですからね。その話を聞いて納得しちゃいました。


 そして、平日暇にしているお母さんが窓口になってホーム屋さんやマンション管理の会社、警備会社の人などと話を進めてはいるんですが、所々判断に困る事が出てきます。それを週末に集まって打ち合わせしているんです。で、打ち合わせも一応ひと段落かな?


「あ、そうそう、マンションコンシュルジュの募集も始めるみたい。管理会社での雇用だから関係ないけど、一応24時間体制を取るみたいよ」


「コンシュルジュかあ。何かイメージが沸かないんだけどなあ。警備員は何となくわかるけど、コンシュルジュって一日居て何するんだろう?」


「そこは管理会社に任せてるんだから良いんじゃない? ゴミ出し当番とかも無しでいけるんだし」


 マンション住まいで何が面倒かと言えば、やっぱり当番制のお仕事ですね。今住んで居る所だと、マンションの自治会とかも面倒だなあって感じます。それが無しになるなら助かるかな?


 まあ、マンション管理会社との打ち合わせで、警備員は我が家負担にしました。どちらもとなると想定される管理費が中々な金額になる為、そこはオーナー負担にしたんです。


「大体、こんな物かしら? あとは完成日が確定して、募集開始してからね」


「うん、お母さんありがとう」


 ここから先、またお母さんはハウスメーカーさん等と打ち合わせが始まります。一応、オーナーは私なんですが、平日の時間のやりくりが全然出来ないのでお任せです。


「よし! そしたら帰るね。あと、日和はもう少し人間関係に注意した方が良いよ」


「判ってるんだけど、何か面倒になるんだよね。中村さんみたいに聞いてくれれば、直ぐに訂正するのに」


「噂なんてそんな物でしょ? 誰かが悪意を持って流しているのかもしれないけど、今聞いた範囲なら可愛い物じゃない。女子高何てハッキリ言ってもっと陰湿だからね」


 何と言っても前世女子高育ちなお姉ちゃんですからね。女子高と聞くだけで何かすっごくドロドロしたものを想像してしまいます。


「でも、日和が大学で孤立していないみたいで良かった。一緒に勉強する相手が居るっていうのは助かるね。一人だけだとモチベーションが維持できないでしょ?」


「うん、今回はすんなり単位が取れて欲しい。追試だと夏休みの半分が潰れるし、お盆とかも心から楽しめない」


「あと2年半なんだから頑張れ! 相談には何時でも乗るから」


「うん、頑張る」


 お姉ちゃんは笑いながら帰っていきましたけど、私の返事が今一つ元気が無いのは許して欲しい。

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― 新着の感想 ―
藤巻君、優秀な苦学生。庶民な感覚がある程度通じそうだし、正確も落ち着いてそうだし、いいなぁ…。
姉ちゃんと違って基本的にインドア陰キャなんやな。
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