40:閑話 驚きの新事実!
お母さんと二人、寄り道することも無くアメリカ領事館から真っすぐ帰って来ました。
行く前から緊張していた為か、時間としては1時間くらいの面談だったのにぐったりと疲れてしまって何処かに寄り道するだけの気力なんて欠片も残りませんでした。
「疲れた。本当に疲れた。でも、お母さん。今日の話ってどう思う?」
前世の事を色々と聞かれた事は良いのです。ある程度は覚悟していました。ただ、最後の最後に言われた言葉が重く圧し掛かってきます。
「そうね、お金があるって知られたら、狙われるでしょうね。言われたように今まで狙われなかったのが不思議なくらいかもしれないわね」
要所要所ではお金を使っていますし、子供二人を私大医学部に入れている状況で、贅沢はしていないにしても節約もしていません。不審に思う人はいるのかも。
「周りから目立たない様にしてるつもりだったけど、過剰に節約もしたくなかったもんね」
「そうね。別に贅沢をしている気はなくても、必要以上に我慢はしたくないわよね」
お母さんと視線を合わせ、二人して溜息を吐きます。
「考えてみると、証券会社の人、銀行の人、税務署、そういった所から話が広まっても可笑しくはないわね。それが良い人ばかりなら問題ないのでしょうけど、世の中ってどうしてもよね」
「証券会社とかだと普通に話題にしてそう」
実際には判りませんが、思いっきり株で大当たりしていますからね。話題にしやすいと言えばしやすいでしょうし、前にも株の売り時とかの判断がとか言ってましたから、鈴木さんの所が売りの判断をとか言ってそう。
「う~~~、どうしよう! 何が正解何だろう!」
身代金目当てに有名人の家族が誘拐された話を聞いたことがあります。その話では、残念ながら良い結果に終わらなかったとも聞いています。まだ私達が小さかったから、お母さんも其処は気にして住民票を動かしたりと色々と攪乱しようとしてましたよね。
「アメリカ領事館の人が態々口にするっていう事は、身の回りに気を付けてっていう事じゃないかしら。日和は恩人だって言って貰えてるから、少なくとも忠告は信用してもいいと思うの。日和を領事館の関係者とするのは、何かあった時に介入してくれるんだと思うわ。勿論、牽制の意味もあるんでしょうけど、アメリカの牽制が必要な相手って想像もしたくないわね」
ですよね。お母さんの言うとおりだと思う。アメリカの名前で牽制する必要があるっていう事は、それなりの権力者って事ですよね? お金の力か、政治の力かは知りませんけど。
「とにかくお姉ちゃんも呼ばないとだよね。あと、流石に此処まで来るとお父さんにも話さないと。うわあ、何か大事になって来た」
「日向を呼ぶのは良いけど、何処まで話す積りなの? あの子は日和が逆行してきた事なんて知らないのよ?」
「それもあったかあ」
そうなんです。お母さんが言う通り、お姉ちゃんには今までずっと内緒にしてきたんです。ただ、私が何でアメリカ領事館と繋がりがあるのかとか、内緒にしていたら説明が出来ないですよね。今更な事ではあるんですが、お姉ちゃんの反応が怖い。もっとも、全然信じてもらえなくて頭の異常を心配される可能性もありますけど。
「話さないと駄目かなあ? アメリカさんの所だけ内緒にするとか」
「態々今になって忠告をくれるっていう事は、それなりの事だと思うの。だから話しておいた方が何かあった時に助かる可能性が増えないかしら? そんな時が来て欲しくはないけど」
「そうだよね。あとで言っておけばって後悔しても遅いよね」
後悔先に立たずです。変に抽象的な説明だったら危機感が薄れる可能性もあります。お姉ちゃんが何処まで真剣に考えてくれるか、そう思うと話さないという事は考えられないです。
まずはお姉ちゃんを呼んで話し合いをする事にしました。お父さんへの説明はその後です。ある意味、お姉ちゃん以上に難しいのがお父さんの様な気がします。
そして、なんと翌日にはお姉ちゃんが帰ってきました。
「お姉ちゃんお帰りなさい。仕事は大丈夫だった?」
「急ぎ帰って来て欲しいって言われたら急いで帰って来るわよ! 内容を聞いても電話では話せないって怖いんだけど! 仕事に手が付かないから、何とか時間作って帰って来たわ!」
お姉ちゃんの表情には欠片も余裕がない。
「日向も忙しいのに無理を言ってごめんなさいね」
お母さんが苦笑を浮かべて出迎えます。
これまでお姉ちゃんを呼ぶ時って株の絡みが多かったから、そちゃあ色々と心配になりますよね。
「で? 今度はどうしたの? また株でも買ってたの?」
「そうなるわよね。でも、今回は違うの」
そしてお母さんが説明しますが、アメリカ領事館の辺りから訝しげな表情になり、身の安全云々から思いっきり頭を抱えました。ちなみに、この段階では私の逆行転生については話をしていません。
「ごめん、ちょっとまって。なんでアメリカ領事館が絡んでくるのか解らないんだけど。まさかお母さんってアメリカのスパイでもやってたの?」
「は?」
思いもしない問いかけに、思わず変な声が漏れちゃいました。スパイ容疑を掛けられたお母さんも目をパチクリさせています。
「アメリカのスパイ。何となくロマンを感じるわね?」
何か変な事を言い出したお母さんを無視して、ここで私が話の矢面に立ちます。
「おねえちゃん、あのね。実は私って未来の世界から逆行転生してるの。未来知識を使って株の投資をお願いして、それで大儲けしたの。信じられないと思うけど、私って一度死んで、過去に戻って生まれ変わってるの」
「え?」
どういう反応が返って来るか判りません。その為、じっとお姉ちゃんを見詰めます。
お姉ちゃんは私に言われた意味が解らないのか、キョトンとした表情で私を見ました。
「逆行転生って、え? 何をって、え? お母さんも?」
「私は違うわ。逆行転生したのは日和よ。私は日和から教えてもらって株を購入しただけ。此処までお金持ちになるとは思わなくて吃驚したわ。でも、こんな話、日向はしんじるの? それこそ、御伽噺よ?」
「え? 日和が? でも、え? これって真面目な話? 冗談じゃなく?」
予想通りにお姉ちゃんは混乱しているみたいです。その為、私とお母さんは私がカミングアウトしてからの経緯を説明することにしました。
「そっかあ。そういう事だったんだ。宝くじに当たったって言うのも嘘だったんだ。変だなとは思ったんだよね」
「そうだよね。そうそう宝くじなんか当たらないよね」
私が頷くと、お姉ちゃんは何とも言えない表情を浮かべて私を見た。
「日和は何時逆行転生をしたの? 切っ掛けって何かある?」
私の話を一笑に付す事無くお姉ちゃんは話を聞いてくれる。そこで、私はお父さんが倒れたという電話があった事、そして、恐らくだけど私が車に轢かれて死んだと思う事を話す。
「え? 車に轢かれたの? え? それ知らない!」
「そりゃ知らないよ。だってまだ発生していない事故だもん」
俗に言うトラック転生ですよね? ただ、そのお陰で人生のやり直しが出来ているのだから感謝しないと? もっとも、それも此れからの人生が幸せに過ごせるかが重要なんだけど。お金があっても其のせいで殺されたら意味が無いのです。
「あ~~~、うん。何でアメリカ領事館が出て来るかは判らないけど、とりあえず此の侭だと危険という事?」
「うん、相手は不明だけど既に目を着けられてるみたい。だからこんな肩書を貰った」
机の上にそっと真新しい名刺が入った箱を差し出す。お姉ちゃんは私の名刺を1枚取り出す。
「アメリカ領事館付き特別顧問かあ。裏は英語ね。はあ、態々こんな偽物の名刺作る意味は無いだろうし、信じるわ。でも、そっかあ。狙われてるかあ」
「うん、偽物じゃないけど、お姉ちゃん信じてくれるの?」
「そうよ? こんな漫画みたいな話信じられるの?」
先程から私達の会話に入らず聞き手に回っていたお母さんが、ここぞとばかりに口を出して来た。でも、お姉ちゃんはそんな私達を見て、どこか疲れたような表情を浮かべた。
「ごめん、黙ってたけど、私も逆行転生しているんだよね」
「え?」
「は?」
お姉ちゃんから思いもしない発言が飛び出すのでした。
 




