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39 閑話:思いもよらぬ出来事が

 怪しい日本語のお相手は、何とアメリカ領事館からでした。

 10年以上前にお母さんと訪問して、911テロ事件の報告をお手紙でしたあの領事館です。


 今生では、前世にアメリカで発生したテロ事件は発生していません。ウーマンショックも起こりませんでしたし、昨年起きた東北沖の大地震による原発事故も防がれました。

 ここら辺も手紙では触れてあって、恐らくですがアメリカさんから日本政府に何かしらの根回しがあったんだと思います。残念ながら震災自体を止める事は出来ませんでしたけど、少しは亡くなった人の数が減っていたら嬉しい。勇気を出した価値があったと思います。


 で、そういう意味では御恩があるアメリカ領事館の人からのお願いという事で、無下にする事も出来ずお母さんと二人で再度訪問しています。そして、私の座っている椅子の向かい側には、見覚えのある人が座っていました。


「ミスヒヨリ、オヒサシブリデス」


 うん、思いっきり外人さんが話していますと言った日本語で、以前にお会いした事のある領事さんが話しかけてきました。応接室へ領事さんが入って来た時に、以前と同じ人で吃驚! 思わず2度見した私は悪くないですよね?


「えっと、ご無沙汰しています。同じ領事さんで吃驚しました」


 素直な感想を告げると、横の通訳さんの言葉を聞いて領事さんは笑い出しました。


「コンカイデ、2ドメノフニンデスネ。ニホンハダイスキナノデ、ヒジョウニウレシイデス」


 その後は通訳さんを交えての会話となりますが、領事さんの任期は通常2年なのだそうです。そして、一度本国であるアメリカへ戻っていたそうですが、今年になって再度赴任して来たそうです。


「ところで、今回はどういったお話でしょうか?」


 私から今回のお呼び出しの意味を尋ねます。

 小学生の頃とは違い、お母さんはあくまでも付き添いに徹する予定です。


「既に貴女の知っている未来と変化しているのは理解しています。それでも、ぜひ貴女の知っている未来についてお聞きしたいのです」


 領事さんの横に座っている秘書ですと挨拶してくれた人が話を進めるようです。ただ、何となく秘書さんというには違和感があります。


 でも、私は突然の問いに何と答えれば良いのか一瞬悩みました。今、アメリカで何が問題になっているのか、それを私が聞いても良いのか、色々な事を考えながら慎重に慎重に話題を振ります。


「昨年の大地震でお世話になったと思うので、可能な限りご協力したいと思うのですが、私が知っている未来はあくまでも日本の事だけです。前にお知らせした同時多発テロは日本でも騒がれたのです。テレビで見ただけの中途半端な知識でしたが、それでもお知らせしたいと思っただけで」


 そもそもアメリカで起きた事件や事故を気にしている日本人は限られていると思います。ニュースで流されても、記憶に残るような事はありません。山林火災で大きな被害が出た事件を覚えていますが、それが何時何処で起きたかと言われると答えられません。


 私の表情を見詰める知事達は、質問したい内容を既に決めていたのでしょう。一枚の紙を取り出して私に見せました。そこには私が手紙で伝えた出来事が時系列で並べられています。


「我々は、常にアメリカの未来を良くしたいと望んでいます。強いアメリカ、偉大なるアメリカ。そんなアメリカを誇りに思っていますし、愛しています。それ故に、アメリカの行く末を常に良い方向へ導けるよう努力しています。その為にも、貴女の持つ未来の姿をぜひ教えて頂きたい。これから訪れる日本とアメリカのより良い未来の為に」


「私の知っている未来。日本とアメリカのより良い未来の為に、ですか」


 何とも漠然とした内容です。そもそも、同時多発テロもウーマンショックも経験していない世界です。その中で私が知っている未来を語る意味はあるのでしょうか?


「我々は世界の大きな流れ、例えば科学の発展などは変わらないのではと考えています。鈴木さん達がテロ以降も株の投資を続け、多額の利益を出されている。この事からも早々間違いでは無いかと。将来に向けて我が国が何をしないといけないのか。そのヒントが、指針が少しでも欲しいのです」


 今までの様な何処か軽い雰囲気は欠片も無く真剣な眼差しが注がれて、思わず喉を鳴らしてしまいます。


「ミライガヘンカシタノハ、リカイシテマス。アメリカハ、テロトノタタカイヲ、ツヅケテイマス。シカシ、ソノタタカイハ、セイギョデキテイマス」


「領事が言う様に制御は出来ています。しかし、そこには膨大な費用が費やされ負担となっている。今ここでアメリカ経済の衰退は死活問題となるのです。我が国が世界の警察として機能するためには、アメリカのみならず同盟国の力が必要なのです」


 その後の話の中で、アメリカが近未来に置いて極度に何かを警戒している事が伺える。


「私が話せる事は日本が中心になります。前の世界では日本はバブル崩壊から30年が過ぎても依然として景気回復が厳しい状況でした。株の投資などは前世ではやった事も、やろうと思った事も無かったです。今成功しているのは前世で、もし20年前に此処の株を買っていたらなど騒がれたのを記憶していたからです」


 領事さんは通訳さんから話を聞き、小さく頷いています。ただ、コロナの話を始めると黙り込んだまま真剣に聞き始めました。


「元々は中国から広まったって言われてます。本当かどうかは判りません。ただ、現実として世界中で数十万人という人が亡くなったみたいです」


「コロナですか」


「はい、ウイルスが太陽のコロナみたいな形をしているから名前が付いたはず? そのウイルスが世界に広まって、世界中で人に行き来に制限が掛かって。世界規模で経済も麻痺したと思います」


 恐らくこの会話は録音されているんだろうなと思いながら、ノートに何やらせっせと記入している秘書さんを見る。


「コロナ禍が収束しても景気は回復しなくて、でも物価は上がり続けて、それ以上に貧富の差が一気に拡大した気がします。株価が過去最高を記録したのもコロナ禍以降です。でも、日本もアメリカも景気は良くなかったと思います。あとは何かあったかな?」


 私が判る範囲で色々と説明をします。ただ、私の説明に皆さんが首を傾げました。


「株価が過去最高なのに景気は悪かったのですか?」


「一般人の感覚ですが、良くなかったと思います。あと、日本の若い人達は誰もが未来に希望を持っていなかったと思います」


 私の説明に納得したような様子はなく、領事さんも秘書さんも表情は何処か思案顔でした。


「ふむ、それは何年ごろの事ですか?」


「私が此方に来る直前までそんな感じでしたから、2026年くらいでしょうか?」


 まだ10年以上先の話です。しかも、こちらの世界では其処まで景気は悪化していません。

 それでも、何となく世の中の雰囲気は前世を踏襲している気がするのは、私が悪くとらえすぎているからでしょうか?


「中国との関税戦争、ロシアの軍事侵攻。確かにあり得る未来ですね。そして、疫病ですか。未来は多難ですね」


 通訳さんが溜息を吐きます。


「日本もこれから10年でどんどん悪くなります。だから今を大事にして、将来に備えないと」


 今日、この領事館で前世の話をして、前世を知っているからこそ常に不安を抱えているっ事に気が付きました。


「そっかあ、私の不安の根底って前世の記憶だったんだ」


 思わず零れてしまった言葉に、想像以上に領事館の人達が反応しました。


「不安ですか? それは日本に対してですか? 理由をお聞きしても?」


「えっと、既に分かっている事ですが日本は少子高齢化が進んでいます」


 これは既にテレビでも言われている事。その為、誰もが頷くだけで話を先へと促していく。


「予想より早く少子高齢化は進み、2050年には人口が8000万人になるらしいです。人手不足や労働者不足がどうこうってテレビでは騒がれていました。でも、この事って改めて考えるとすっごく怖い事ですよね? 日本の人口が3分の2になるんですよ? それが底じゃなくって更に進んでいくんです」


「なるほど、確かに怖い事ですね」


 そう口に出して同意してくれますが、やはり私の心配している内容を理解していない気がしました。その為、私はより細かく説明することにします。


「あの、子供って大人以上に色々なものを消費するんです。服なんかが良い例ですが、子供は成長する過程でどんどん服を買い替えます。サイズが合わなくなったり、汚したり破ったり、買わないと何ともならないんです。でも、大人は、特に高齢者なんかは服を10年とか買わなかったりしますよね?」


 私の説明にお母さんを含め、皆さんが頷きます。勝手なイメージですが、特に男性何かに当てはまりそうですからね。


「あと、子供に必要なものって服以外にもいっぱいあるんです。物以外にも学費や塾代なんかもそうですよね? それに、その子供も20年後とかには社会人になって、お金を稼いでくれます。一人暮らしで色々買ってくれます。でも、子供が居なければ何もありません」


「確かに日本の特殊出生率は年々下がっていますね」


 秘書さんの言葉に私は頷きます。


「アメリカも出生率は年々下がってたと思います。それでも日本と違って出生率は1.8くらい? 日本以上に低い国もありますけど、低い所と比較しても意味無いですよね? でも、こうなるのって仕方がないのかなって最近は思います。だって、子供を産み育てる事が幸せだって思わない人が増えてきてますから」


 私は此処でチラリとお母さんを見ます。領事館の人達と会話を始めてから、お母さんは最初の挨拶以降はずっと黙って聞き役に徹してます。


「子供を産み、育てる事は素晴らしい事です。それを否定する人は極一部だと思いますが」


「はい。でも、未来に夢も希望も無い人が子供を欲しがるでしょうか? そんな世界で愛する子供が生きて行かなければならないのに? それって無責任なんじゃないでしょうか? そんな風に考える人達も居ると思います。

 あと、日々生きるのに精一杯で、余裕がないのに子供なんてっていう人もいるだろうし、一人なら何とか育てられるけど、二人目は厳しい。そういう人の方が多いかも? これが今の出生率に現れているんだと思います」


 もっとも、こんな事をアメリカの人に訴えても意味は無いと思う。だって、彼らにとって日本は自分の国じゃないのだから。アメリカでも出生率は低下して行ってると思うけど、日本ほどではない。


「経済を立て直したいなら子供を増やすべきだという事でしょうか?」


「私は別に経済の専門家ではありません。だから何をどうすれば良いか何て判りません。子供だけ多くても貧しい国だってありますよね? でも、未来に夢も希望も無いって子供達に言われる国って健全じゃないですよね? 大人って、何でそこに思い至らないのでしょうか?」


 質問に質問を返すのって失礼だと分かっています。でも、そもそも私が何かアドバイス何て出来るはずが無いのです。前世を含めればそれなりの年数を生きていますけど、ただの一市民でしかないのですから。


「成程、確かにそうですね。健全ではない」


 その後、領事さん達は何か会話をした後大きく頷きました。


「ありがとうございます。実に参考になりました」


 最初訪問した時の様に笑顔を浮かべています。ただ、何となく目が笑っていません。そして、思いもよらない提案をされます。


「これは領事とも話し合ったのですが、宜しければ領事館付き顧問をお引き受けいただけませんか? 今後、貴女達ご家族の安全を確保する為にも悪い話ではないと思うのですが」


「え?」

「は?」


 私のみならず、お母さんもすっとんきょな声を出します。

 でも、仕方がないですよね? 何でそんな提案をと思っていると、領事さんは実に人好きのしそうな笑顔を、そして秘書さんはすっごく悪い笑顔を浮かべました。


「日本は本当に治安の良い素晴らしい国です。家族の総資産が500億に届こうかと言う家族が、普通に生活が出来ているのですから。ただ、貴女達はもう少し世の中を知った方が良い。既に隠れて過ごす時期は過ぎています」


「えっと、それはどういった意味なのでしょうか?」


 ここでお母さんが初めて質問をしました。


「各方面から注目され始めています。狙われていると言っても良い。我が国アメリカは、貴女に多大な恩を感じています。ですから、早急に貴女方は身を守る手段を構築するべきです。我々はその手助けをさせてください」


 え? 狙われている? どこから? 


 私は、ただ茫然と前に座る人達を眺めていました。

ちなみに、逆行転生という言葉がまだ生まれていない時代です。

その為、小学生の頃に書いた手紙も、タイムトラベラーとして書かれていました。

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― 新着の感想 ―
コロナ禍の死者数の桁間違えて覚えてるね。 WHOの2023年の数値で約691万人。 関連死の推計は1,500〜2,000万人なので、おそらく相手に与える印象も弱いよ。インフルくらいにしか思われないんじ…
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