38 閑話 噂はあっさり駆逐されました
お姉ちゃん達に愚痴を言った。そうしたら、あっさりと噂は無くなってしまった。
そして、新たに私は大病院を経営している親戚がバックに居る事になった。
うん、何を言っているのか解らないけど、そういう事になったみたい。
「大病院を経営している親戚って、美穂さんの家だよね? なんでそうなったの?」
今日も今日で姉の処に遊びに来て尋ねると、美穂さんが大爆笑する。
その横では、お姉ちゃんが思いっきり顔を顰めていた。
「こないだ教授の処へ行った時に、美穂が将来的に私が親戚になる嬉しいって小芝居かましてくれたからね!」
「無い話じゃないでしょ? うちの両親も親戚連中も手ぐすね引いて待っているって」
引き続き爆笑している美穂さんだけど、うん、確かに無い話では無いかも。お姉ちゃんも美穂さんの処で働く事は了承しているみたいだし、そうなると周りからの圧力も増していくと思う。
「はあ。まあ、そのお陰で研究室にいる連中経由で話が広がったんでしょうね。将来的な事を考えて喧嘩を売って良い相手じゃないって思ったんでしょ」
同じ県内とすると、医師の世界は何かと狭いらしい。様々な会合やら何やらで顔を合わす機会もあって、その際に相手のバックボーンが影響して来るのは普通に考えれば判る。
「馬鹿だよね~。そもそも、姉も医者で、その姉の交友関係含めて敵に回す可能性があるんだから。姉妹の仲が悪いのなら兎も角、学食でも一緒に食事していたくらい仲が良かったのだから普通は喧嘩売らないって」
美穂さんの発言には至極ごもっとも。後々の事を考えれば判る事ですね。
「お姉ちゃん、美穂さん、ありがとう。助かりました」
改めて二人に頭を下げると、何でも無い事だよと笑って流してくれる。
「で、その噂を流してた子が今度は孤立してるんだっけ?」
「孤立までは行ってないと思う。ただ、両親が医師だったりした人達が避け始めたみたい」
「あ~~~」
「なるほど」
お姉ちゃん達が顔を見合わせて頷いている。その様子から、何か心当たりがあるっぽい。
「私が一応うちの両親にも話したから、多分動いたかな? 多分だけど」
「おじさんって日和の事がお気に入りだから。そりゃ動くね」
「私らと違って、日和ちゃんは可愛いからね。おっさん連中の話もちゃんと聞いてくれるから、日向には悪いけど人気は日和ちゃんの方が上だね」
確かに美穂さんの実家へ遊びに行った時とか、ご両親には色々と可愛がってもらっている。それでも、ここ最近は私もお姉ちゃんや美穂さんも忙しいので、中々時間が作れず遊びに行けてない。
「今度、お礼に行った方が良い?」
「行けば喜ぶと思うけど、お礼とかは要らないよ? どうせチラッと囁いたとかそんな感じだと思うし」
美穂さんの横でうんうんとお姉ちゃんが頷いているけど、何もしない訳も行かないから日時を合わせてお邪魔させてもらう事にした。
そして翌週、美穂さんの実家にお邪魔すると何故か美穂さんの親族まで集まっていた。
「いやあ、久しぶりに日向ちゃんと日和ちゃんが揃って遊びに来るって電話で自慢したら、何故かみんな集まって来てね。騒々しくて申し訳ない」
おじさんはそう謝ってくれるけど、これって明らかに計画的ですよね? おじさん達の表情はニッコニコです。思わず私達の目がジト目になるのも仕方がないと思います。
「ほらもう、日和ちゃんが思いっきり引いているじゃない」
「ほら、こっちに座りなさい。おじさん達は放っておいて良いから」
おばさん達が苦笑を浮かべながら案内をしてくれました。
「はははは、まあ、深い意図は無くは無いが、せっかく来てくれたんだ。ゆっくりして行きなさい」
おじさんの言葉に私達は溜息を吐いた。
美穂さんの従兄弟達も苦笑いを隠さないけど、何人かは見るからにお姉ちゃん狙いかな。私はまだ学生というのもあってか、ちょっと年齢が離れている関係もあってか、お菓子をモグモグしながらオジサン達のお相手をします。
まあ、今の段階では国家試験は通っていませんし、医者になれるかは最後の最後まで判りませんからね。まず狙うなら医師免許を取得しているお姉ちゃんでしょう。容姿だって妹の私が言うのも何ですが、私と違って綺麗系の美人さんですから。うん、現実は何かと世知辛いですね。
「あの、この度はご迷惑をお掛けしました。ありがとうございました」
おじさんとおばさんにお礼を言います。周りで聞いていた親戚の人達が何事かとワイワイと会話に入ってきました。
「人間関係は色々あるからなあ。うちの病院でも看護士達の間で色々ある。3人集まれば派閥が出来ると良く言うが、病院を経営していて一番気を遣うのが人間関係だからなあ」
大きな病院を経営していれば、おのずと問題は発生するそうです。その中で少なくないのが看護士間の対立や虐めなのだそうです。
「うちで働いている者は全員が笛を持っているからな。何か問題が発生したり、目撃した場合には笛を吹く様に指導している。もっとも、此れは棚田医大病院の真似をしたんだが」
「大声を出したりって言うのは意外と出来ないものだ。笛なら思いっきり吹けばいいからね。病院関係者だけでなく、患者にだって厄介なのはいるからね」
おじさん達の話では、入院している患者から暴力を振るわれるといった事も稀に発生するらしい。特に高齢者などは平気で叩く、抓るなどといった行為をする事があるそうだ。
「大変なんですね」
そう相槌を打つと、問題は出来るだけ早く把握して対処する事が肝心だと言われました。放置すればエスカレートする事は有っても無くなることは無いと言われ、今回の事ももっと早く相談する様にと怒られました。
「人の感情って難しいわよ? 頭では理解できても、感情で納得できないっていう例は本当に多いの。だから日和ちゃんも気を付けてね」
「はい、気を付けます」
私はおばさんの言葉を素直に受け取って、改めて感謝の言葉を紡ぎました。
無事に美穂さんの実家へお礼のご挨拶をさせて頂いた後、私は家に帰って事の経緯をお母さんに説明しました。そして、此れからの事を相談します。
「人間関係って難しいわね。マウントの取り合いって何処でも起こるから」
「それは解っているんだけどね。前の人生でもそういうのはあったし。でも学生時代の交友関係って社会に出ると殆ど無くなるでしょ? だから余り気にしないようにしてた。元々、あまり社交的でも無いし」
私自身も年賀状でのやり取りしかしていない友人ばかりだった。卒業後に1度も会ったことがない友人の方が圧倒的に多い。
「日向はなんやかんや交友関係は広いのに、姉妹でも全然違うわね」
「お姉ちゃんは陽キャ、私は陰キャだから」
本当にこの一言に言い表されている気がする。それでも、前世に比べて高校時代の友人数は多いし、未だに繋がりがあるのは小さな自慢だったり? 私だって別になりたくてボッチをしている訳じゃ無いのだ。
その後も、大学で特に親しい友人が出来る事も無く日常が過ぎて行ったある日、私の携帯に見た事のない番号から着信が入りました。
「う~んと、誰からだろう?」
相手の電話番号は固定電話。市外局番が033から始まる事で、東京から掛かってきている電話だと判断できる。
「東京、東京かあ。誰か東京に進学した子いたっけ?」
高校時代の同級生の中には東京へ進学した子もいた気がする。それでも、態々電話してくる程親しい友人はいない。この頃はまだ携帯電話に掛かって来るような詐欺は流行ってないだろうし、そんな思いで通話ボタンを押す。すると、電話から聞こえて来たのは初めて聞く声だった。
「鈴木日和さんのお電話で間違いはないですか?」
「はい、鈴木ですが?」
何処かたどたどしい日本語で、私の警戒心が一気に高まるのでした。
閑話ってなんでしょう?(ぇ




