第五話 初めての実戦
新しい旅の仲間ができた後、町で必要な物を買い足す。
次に目指す町は、この町から一か月はかかる。それに、その町に着くまでに町や村はほとんどないため、基本的に野宿だ。
サーシャとミラが大きめのテントを持っていたからテントを買う必要はなかったが、テント以外にも野宿に必要な物は多かった。サーシャとミラもお金を出してくれたが、俺たちの手持ちの金はけっこう減ってしまった。
買い物をしていたら、あっという間に夕方になる。夜の移動は危険だから、この町にもう一泊することにする。昨日と同じ宿を取り、サーシャとミラのおすすめのレストランで四人で食事をする。少し高い店だが、これからは野宿になるから少し贅沢をした。
豪華な夕食を終えて宿に戻り、明日に備えて早めに休む。明日から本格的に旅が始まる。
翌日の朝、予定通り七時に起き、宿で朝食をとり、荷物をまとめて宿をあとにする。サーシャとミラとの待ち合わせ場所の町の中央の広場に行くと、二人はもう来ていた。二人と合流して町を出る。
次の目的地は、ンヴルヴだ。
俺たちは身体強化魔法と風属性の魔法を使った高速移動で、サーシャとミラは羽を出して風属性の魔法を使い、飛んで移動する。
昼になり、休憩にする。川で水を補給し、町で買っていた弁当を食べる。弁当を見ると片側に偏っていた。移動の際に寄ってしまったのだろう。味が混ざっていたが、まずくなってはなく、普通においしかった。
昼休憩を終え再び移動し始める。昼からは、夜野宿するのに適した場所を探しながら移動する。サーシャ曰はく、外敵に狙われにくい洞窟のような場所や敵が来たらすぐわかるような広い場所がいいらしい。そういう場所を探しつつ、モンスターや食べられる植物も探す。これからは、食料も自分たちで確保しなければならないからだ。
昼の休憩を終えてから三時間が経った頃、俺たちの前に二匹のモンスターが現れる。
前と後ろ両方に顔があり、体長三メートルは確実にある四足歩行のモンスターだ。敵はいきなり攻撃してきた。物凄いスピードで伸びてくる舌をサーシャとミラが弾く。
「二人ともぼーっとしてないで。エスフィーは私と、ハクはミラと組んでお互いに一体ずつ倒す。こいつらは今日の晩飯なんだから、確実に仕留めるわよ。」
「ハク、私についてきて。ここから一体引き離すから。」
「あっ、・・わかった。」
ミラは敵の一体の側面にまわり魔法をくらわせる。すると、敵はミラの方を向き、その場から離れていくミラと俺を追いかけてきた。もう一体から離れながらミラが俺に戦闘の指示をしてくる。
「私が近距離で敵の気を引くから、その隙に魔法で敵の動きを止めて。そしたら私が止めを刺すから。ハクは私の援護に徹して。いい?」
「わかった。」
俺が返答すると同時にミラが敵に攻撃を開始する。羽を出して敵の周りを縦横無尽に飛び回り、次々に魔法を浴びせていく。俺はミラが敵を引き付けていてくれるから、威力の高い魔法を唱えことができる。
「無数の矢が動きを止める。眼前の敵を痺れさせよ、ライトニングアロー」
「ミラ離れて。」
「わかってる。」
ミラが離れてすぐに無数の雷の矢が敵に降り注ぐ。
全て命中した。仕留められてなくても、痺れさせて動きを止めることはできたはずだ。そう思っていると、敵はふつうに起き上がった。予想外の出来事に驚き、その場に立ち尽くしていた俺に敵の攻撃が当たる。俺はガードが間に合わず、その場からぶっ飛ばされ後ろにあった木に激突する。
ぐはっ。俺はそのまま地面に落ちる。敵の尾の攻撃をくらった時に折れた肋骨の痛みと木に激突した時の背中の痛みで、俺は立ち上がることが出来なかった。それに、体の激痛からか、木に激突した際に頭を強く打ったからかはわからないが、俺は意識が遠のいていく。なんとか意識を保とうと、唇を強く噛んだりと試行錯誤するが、俺は意識を失ってしまった。
何度も大声でハクを呼んでも返事がない。たぶんハクは意識を失っている。今ハクに攻撃されたらまずい。なんとか敵の意識を私の方に引き付けて、私一人で倒さないと。大変だが不可能ではない。今回の敵はすばやく、攻撃力も高くて、はっきり言って強い。けど、足を切って動きを止めさえすれば勝てる。
敵の攻撃をかいくぐり、前足を剣で攻撃する。だが、剣では斬れなかった。一度距離をとり、再度敵の攻撃をかいくぐり前足に攻撃する。今度は魔法で足を切りにいく。
「名刀のように敵を斬りさく刃となれ。ウィンドブレイド」
放たれた風の刃は見事に敵の左前足を斬り、敵が体勢を崩す。その隙を逃さず敵を仕留めにいく。前足を斬ることができたから首も斬り落とせるはずだ。
「再び敵を斬りさく刃となれ。ウィンドブレイド」
敵の頭上から魔法をくらわせる。今度も見事に敵の首を斬り落とした。
敵が動かなくなったのを確認してからハクのもとに急行する。
倒れているハクを仰向けにさせて容体を診る。肋骨が三本折れている。それ以外にもひどいけががないかしっかり確認してから急いで回復魔法を唱える。
「彼の骨をつなぎ、彼の体を癒せ。ヒール」
ヒールは治すものによって使われる魔力が変わる。今残っている魔力の半分以上が使われた。ハクは重症だったみたいだ。とりあえず応急措置を終えて一息ついた時、サーシャとエスフィーがこっちに来た。サーシャに素材を集めてもらい、この後のことについて三人で話す。ハクは意識を失っているし、私も魔力がほとんど残ってないから今日はこの近くで野宿をすることになった。
目を覚ましたら俺は、テントの中で寝かされていた。起き上がろうとすると体中が痛いことに気づく。ゆっくりと起き上がりテントを出る。すると、外はもう夜になっていて、三人が晩御飯を作っているところだった。俺がテントから出てきたことに一番最初に気づいたエスフィーが駆け寄ってくる。そして、すごく心配そうな顔で俺に話しかけてくる。
「ハク痛いところはない?もう大丈夫なの?」
と言って俺の体をすごい勢いで揺すってくる。
立ったり、歩いたりしても大丈夫だったから、たぶん肋骨が折れたのは治してもらったのだろうが、まだ体中が痛いから揺すらるのもけっこうしんどい。だけど、エスフィーには心配はかけたくない。たぶん、敵にあっさりやられてぼろぼろになったところは見られただろう。けど、好きな人にかっこ悪いところを見られるだけでなく、心配までされたら男として情けなさすぎる。だから、俺はエスフィーが心配しないようにふるまわなければなるまい。
「うん、治療してもらってるし、寝てしっかり休めたからもう大丈夫。何の問題もないよ。心配させちゃってごめんねエスフィー。もうこんなことはないようにするから。」
「ほんとう?嘘ついてない?」
「あー、ほんとうだ。嘘ついてない。」
「わかった。けど、もう無茶したりするのはダメだからね。約束だよ。」
ん?と疑問に思ったが、エスフィーが心配してくれているから早く返答しないと。
「そうだな、約束するよ。もう無茶したりしない。だから、エスフィーも無茶しないって約束してくれ。」
「うん。二人の約束ね。」
ちょうど約束し終わったところでサーシャとミラが俺たちのところに来た。
「おー、起きたか。もうすぐ晩御飯できるからもう少し待ってて。」
「わかった。」
「サーシャ、エスフィー、晩御飯は二人に任せてもいい?一応ハクのこと診ておくから。」
「うん、よろしくねミラ。」
ミラが頷くとサーシャとエスフィーは晩御飯の続きを作りにいった。二人が料理を再開したのを見てからミラが俺に肩を貸してくれた。ミラは俺が痛みを我慢していたのに気づいていたみたいだ。俺はミラに連れられてテントの中に戻る。ミラが俺を診てくれている間に、俺は疑問を尋ねた。
「なんで俺が無茶してやられたことになっているんだ。なぜ本当のことを言わなかったんだミラ。」
「だって、ハクはエスフィーのことが好きなんでしょ。ただ何もできずにやられたなんて言えば、エスフィーに幻滅されるかもしれない。だから、エスフィーとサーシャには嘘をついた。」
「じゃあ、ミラは俺のために嘘をついたっていうのか?」
「うん。」
「なんでだよ。気をつかってくれたのは嬉しいけど、これからまた今日出たモンスターみたいなのが出て、全員で戦闘になったら確実に俺の実力はバレる。自分でこんなこと言いたくはないが、俺が足手まといだとみんな感じるだろう。どうせバレるのになぜ嘘をつく必要があった。」
ミラは少し間を置いてから真剣な顔で答えた。
「今日出たモンスターは強かった。だから、自分のことをそんなに卑下することはない。それに、たとえ今嘘だったとしても、これから本当にしていけばいい。私がハクを強くする。ハクが強くなるように特訓に付き合う。」
ミラの言葉はとても力強く、自分の言葉を曲げるつもりはないという強い思いが伝わってきた。たぶん、俺がこれ以上何を言っても無駄だろう。それに、俺自身が強くなれるチャンスなんだ。ミラが手伝ってくれるんだ。絶対に強くなる。もう足手まといにはなりたくない。
「今日は足を引っ張ってすまなかった。ミラ、これからよろしく頼む。俺を強くしてくれ。」
「うん、絶対に強くしてみせるよ。二人でがんばろうね!」
「あー。」
「けど、まずは早くけがを治さないとね。」
「そうだな。あっ、回復魔法かけて肋骨つなげてくれたのミラでしょ。ありがとう。」
「どういたしまして。さっ、ご飯食べに行こっ。」
焚火をしているところに行くと、エスフィーとサーシャが盛り付けも終えて待っていた。四人揃って晩御飯を食べる。今日の晩御飯は、昼間に倒したモンスターの肉の丸焼きに近くにある川で獲った魚を使ったあら汁、そして道中に採ったキノコの炒め物だ。肉は塩と胡椒だけのシンプルな味付け。だが、シンプルイズベストという言葉があるように、シンプルだがとてもおいしい。味の濃い肉を口に入れた後は、白身魚のあら汁を口に流し込む。優しい味が口の中に広がっていく。そして、また肉を食べる。今度は肉の後にキノコをバターで炒めたものを食べる。キノコにバターがしみ込んでいて、噛むたびに口の中にほんのりバターが溢れ出る。口の中にバターが残っている状態で肉を食べるとまた違った味がして、うまい。
町のレストランで食べた料理もおいしかったが、素材集めから自分たちで行った料理もおいしい。作ったのがかわいい女の子で、その子たちに囲まれて食べているからというのもあるかもしれないが。
晩御飯を終えてまったりとした時間が流れる。もう三人は水浴びを済ませているらしく、俺も三人が起きているうちに行くことにする。夜だからかミラがついてくることになった。少し離れたところにある川で体を洗う。水は少し冷たかったが、外が温かいから気持ちよかった。
戻るとエスフィーはもうテントで寝ていて、サーシャだけが待っていた。野宿をするときは、交代で見張りをするらしい。三人で話し合った結果、俺はさっきまで寝ていて全然眠くないから、今日は朝まで俺が見張りをすることになった。
三人ともテントで寝て、静かな時間が訪れる。
俺は、覚えている範囲で今日の戦闘を思い出してみた。俺は終始何も出来なかった。ミラと敵のバトルスピードについていけなかった。実戦での課題はまず、ミラの戦闘スピードについていくことだろう。でなければ、また何も出来ずにやられたり終わったりしてしまう。次に魔法を発動するスピードと威力の向上。もっと詠唱を工夫し、魔力を増やす。それから、蒼炎の魔法を完成させることだろう。ミラに鍛えてもらう以外にも課題が山積みだ。
でも、俺は天才でも優秀でもないから、一つずつ確実にこなしていかなければならない。時間はかかるだろうがやり遂げる。もうエスフィーに心配をかけないために、エスフィーに並ぶために。