第四話 旅の仲間
村を出ると俺たちは、身体強化魔法と風属性の魔法を使う。
始めにどの国の方に行くかあらかじめエスフィーと話して決めていて、俺たちは今隣国の竜人の国<ドラシオン>を目指している。
俺たちの住むフューリットは大陸の真ん中に位置しており、セルディア王国、ボルフェス、ガルド、ドラシオンの四国に囲まれている。
今人間の国<セルディア王国>と魔族の国<ボルフェス>がいつ戦争を始めてもおかしくない緊張状態にある。そして、獣人の国<ガルド>はセルディア王国と同盟を結んでいる。
戦争が起きた時巻き込まれないようにするためにドラシオンを目指すことになった。
俺とエスフィーの家がある場所から一番近かったからというのもあるが。
ただ、少し気になることもある。
もともとは敵対関係だったが、ここ何十年も落ち着いていた関係を保っていた人間と魔族が、急に戦争になりそうになっている理由についてだ。
その理由が、セルディア王国が異世界人の召喚を行い、それに成功したかららしい。たしかに、この世界で異世界人は、皆信じられないような強い力を持っているみたいだが、異世界人の召喚は滅多に成功することはないらしく、失敗すれば術を行った者は呪いにかかる。しかも、魔力が多く優秀な魔法使いでないと術を行うこともできない。
ただ、もし成功していればセルディア王国は元の戦力より大きな戦力を持ったことになり、戦争が起こるのは間違いないだろう。
けど、俺が気になっているのは戦争のことではなく、異世界召喚された異世界人のことだ。セルディア王国が召喚したのが俺のクラスの可能性がある。俺がこの世界で生まれる何十年も前から今まで、異世界人が召喚されたという記録はない。だから、可能性は高いと思う。
それに、もし俺のクラスだったら、なぜ俺は一緒に異世界召喚されていないのか、なぜ俺だけ何年も前に異世界に着いたのかとかの謎を解く手がかりを持っているかもしれない。クラスのやつらはどうでもいいが、俺自身の謎については知っておいた方がいい気がしてならない。
俺は、ドラシオンを目指し高速移動をしている間に、あらかじめ手に入れていた情報を頭の中で整理しておく。
陽が沈み始めたころに俺たちは、フューリットとの国境近くにあるドラシオンの町に辿り着いた。山の上にあるその町から見渡す景色は、辺り一面の森や山の緑に、オレンジ色に輝く夕日が相まってすごく綺麗な景色だった。
俺たちは景色を堪能してから町で宿を探す。商店街で聞いたところ、どの宿でもあまり変わらないみたいだったから、聞いたときにいた場所から一番近くにあった宿に泊まることにする。節約のために一部屋に二人で泊まる。移動疲れもあったから、町のレストランで食べずに宿で夕食を済ます。水浴び場で体の汚れと汗を流して部屋に戻ると、エスフィーは先に部屋に戻ってきていて、ベットに腰を下ろして待っていた。
「どうしたのエスフィー。寝ないの?」
「だって、私が先に寝たたらハクはベット以外のところで寝るでしょ。私は、ハクにもちゃんとベットで休んでほしいの。」
エスフィーの言ったことに少し驚く。まさか、エスフィーが一つのベットで一緒に寝るのを許してくれるとは。年頃の男女だから一緒のベットで寝るのは避けられると思っていた。それに、一応用心のために入り口のドアにもたれかかって座って寝ようと思っていた。
けど、エスフィーが俺にも疲れが残らないようにしようとしてくれているのがわかるから、断るのをやめる。
それから俺たちは一緒にベットで寝る。俺は女子と一緒に寝たことなんてないからすごくどきどきしていた。隣に大好きなエスフィーが寝ている。エスフィーの寝顔を見たいという気持ちもあるが、恥ずかしさからエスフィーの方を見ることが出来なかった。
童貞の俺は性欲が暴走しないようにエスフィーに背を向けて寝る。疲れていたからか、性欲を抑えるためにエスフィーのことを考えないようにしたらすぐに眠ることが出来た。
「なんでそんなにすぐに寝られるのよ。ハクのばか。」
この日の夜は、俺はぐっすり眠れた。俺がそうだったんだから、たぶんエスフィーもそうだろう。
朝俺が目を開けると、目の前に、すーっ、すーっと小さな寝息を立てて眠っているエスフィーがいた。かなり距離が近かったからすぐに目が覚めた。ほんと、寝起きから心臓に悪い。けど、天使エスフィーの超絶かわいい寝顔を拝見させていただけた。
まだ六時だったからエスフィーを起こさないようにベットを出る。そして、大きな音を立てないようにして魔法の修行を始める。
一通り終えると、今試している魔法の練習を開始する。今俺が実戦で使えるようにしようと練習しているのは、ただの炎ではなく蒼い炎の魔法だ。蒼い炎は普通の炎よりも火力が高いため、より多くの物を効率的に燃やすことが出来るし、威力も高い。
けれど、魔法としての性能が上がるため発動が難しい。それに、もともと存在している魔法ではないため、一から自分で魔法を構築しなければならない。今はまだ蒼い炎として出現させることしかできない。今目指しているのは、出現させた蒼い炎を形を変えて攻撃に使えるようにすることだ。
何度も試すしかないため、俺は何度も詠唱を繰り返し、何度も魔法の完成形をイメージする。
「俺の魔力を使い、この世に新たな炎よ出現せよ。蒼炎の矢」
「我が魔力をもってすべてを焼き尽くせ。蒼炎の龍」
だが、蒼い炎が現れるだけで形を変化させるまでには至らない。
俺が蒼炎の魔法を試しているとエスフィーが目を覚ました。俺は急いで蒼炎を消す。
「おはようエスフィー。よく眠れた?」
「おはようハク。ぐっすり寝すぎて起きるの少し遅くなっちゃった。」
「時間はたっぷりあるんだしいいんじゃないの。」
「そう?でも、ハクに寝顔見られたのはちょっと恥ずかしい。」
少し照れながらそう言ったエスフィーは、とてもかわいかった。まじ天使だった。
俺たちは宿で朝ごはんを食べてから町を観て回ることにした。
町でまずドラシオンの地図を買う。その後も町を散策した。そして、町でも安くてうまいと評判の店に昼ご飯を食べに行く。
その店は大勢の客でにぎわっていた。店に入りメニューを見るとどれも安い。エスフィーはモンスターの骨でだしを取った、モンスターの肉が入ったスープを、俺はモンスターの肉の丸焼きを注文する。
料理が運ばれてきておいしくいただいていると、店に入ってきた竜人の少女二人が相席していいかと尋ねてきた。特に問題もないし了承する。
エルフ同様竜人も長生きで、見た目と年齢が合ってないことが多い。二人ともまだ俺たちくらい幼いように感じるが、顔が整っているから少し大人びて見える。一応年齢を聞いてみる。
「俺たちは十二歳だけど、君たちは何歳?」
すると、一人は、「えっ、一緒だ!」と驚き、もう一人は、「女の子に年を聞くのはダメだよキミ。」とからかうようなかんじで答えてきた。一人が一緒だと言っていたから同い年だとわかる。年が近い方が話しやすいから同い年でよかった。一緒だと言ってしまった女の子が文句を言われているところだったがかまわず尋ねる。
「二人はこの町に住んでるの?」
「違うよ。けど、そんな感じ。」
「それはどういうことなの?」
「私たちは冒険者なの。それで、この辺りはモンスターが多く出て仕事が多いから、ここを拠点に活動してるの。」
「えっ、本当に?」
エスフィーが驚く。それは俺も同じだ。まさか、同い年でもう冒険者をしている人と出会えるとは。俺たちは冒険者になって金を稼ごうと思っていたから、冒険者にこんなに早く会えるとはついてる。さっそく、俺たちは冒険者について聞く。
「この辺りだとどこに行けば冒険者になれる?」
「うーーん。ここから少し国の中心の方にある大きい町まで行くと冒険者登録できるよ。」
「そうなのね、ありがとう。二人は両親と離ればなれで寂しくないの?」
「私たち二人とも両親はもういないの。」
「ごめんなさい。」
「別に気にしなくていいわよ。それより、二人はなんで冒険者になりたいの?」
「お金のためだな。」
「うわー、躊躇なく答えたわね。私たちもそうだけどさ。それで、二人はどういう関係なの?もしかして恋人。」
そう尋ねられたところで、二人が注文した料理がきた。
俺はちょうど食べ終わったが、まだ話たいことがあるし、エスフィーはまだ食べている途中だったから話を続ける。
「俺たちはただの幼馴染だよ。それと、旅立ちの試練の同じグループかな。」
「旅立ちの試練って何?」
「俺たちの住むフューリットでは、成人になる前に約三年旅に出ないといけないきまりがあるんだよ。まだ始まって二日目だけど。」
「へえー、じゃあもしかして、これから世界のいろいろなところを旅するってこと?」
「まあそうなるかな。たぶん。」
俺がそう答えた後、これまであまり話さなかった子が急に話に食いついてきた。
「私たちもその旅について行ってもいいですか?」
「えっ、まあたぶんいいと思うけど、急にどうしたの?」
「実は私、お金が貯まったら世界を旅したいって思ってたんです。それに、今結構お金も貯まってるし、二人よりも四人の方が楽しいと思って。」
「そっか、俺はいいよ。エスフィーは?」
「私もかまわないよ。むしろ大歓迎。やっぱり、二人だと少し不安だったから。」
エスフィーは俺との旅のことそんなふうに思ってたのか。ちょっとショックだ。
俺が落ち込んいる間に話はどんどん進んでいた。
「それじゃあ、これからよろしくね、二人とも。」
「こちらこそよろしく。」
「そういえば、自己紹介してなかったね。私はエスフィア。エスフィーって呼んでね。それから、一緒に旅をしているハク。」
「エスフィーにハクね。私はサーシャ。こっちは親友、いや家族のミラ。」
「おしゃべりなサーシャとおしとやかなミラね。よし、覚えた。」
「なによ、おしゃべりって。ミラもさっきおしゃべりだったじゃない、もう。」
俺たちに笑いがこぼれる。
先輩冒険者である頼もしい仲間が出来た。年も同じだし、これからはより楽しく、にぎやかな旅になりそうだ。