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第二話 魔法

 今日が楽しみすぎて、夜寝るのが少し遅くなってしまった。

 修学旅行が楽しみで寝付けなかった小学校時代を思い出す。

 ちなみに、中学校ではぼっちだったから、全く楽しみじゃなかったし、実際全然楽しくなかった。

 

 五歳の体でも、寝るのが遅くても早起きできたことに少し驚く。

 目をこすりながら居間に行くと、母さんが朝ごはんを作っているところだった。


「今日は起きるの早いね。やっぱり、魔法を教えてもらう日だから?」

「うん。楽しみで早く目が覚めちゃった。」

「ハク、朝ごはんができるまでもう少しかかるから、お父さん起こしてきてくれる?」

「わかった。」


 居間を出て父さんと母さんの寝室に行くと、父さんはベットの上でいびきをかいて気持ちよさそうに寝ていた。

 何度も体を揺すり呼びかけても全く起きる気配がない。


 しかたない。


 俺は父さんのち〇こをありったけの力で握りしめる。

 うあっ。

 と大きな声を上げた後、体を縮こませてこちらを睨んでくる。


「ハク。ちょっとこっちおいで。」


 父さんが仕返しをしようとしていることは容易にわかった。

 だから、その誘いを無視して寝室を出る。

 部屋を出るときに一言、いや二言。


「父さんがすぐに起きないのがわるいんだよ。それに五歳の握力なんだから、そんなに痛くはないでしょ、オーバーリアクションすぎ。」

「こらハク。痛いものは痛いんだぞ。」


 俺は母さんに頼まれたことを終えたから、父さんの話を無視して部屋を出る。

 居間に戻ると、朝ごはんがほとんど完成していた。

 この国では、魔法を使って料理をするため、普通にするよりも格段に早く料理できる。

 魔法は本当に便利だ。改めて、早く習得したいと思う。

 父さんが居間に来て家族そろって朝ごはんを食べる。


「今日魔法習うんだろ?まあ、俺と母さんの子供だから魔法を扱う才能はあると思うけど、コツを掴むまでは、なかなか上手くいかないだろう。困ったら俺や母さんを頼れよ。」

「そうね。家でも少しずつ魔法を教えてあげるわ。」

「ありがとう、父さん母さん。」


 朝食を終えて、着替えを済ませて玄関に行くと両親がいた。


「無理はしないようにね。」

「頑張れよ。」


 俺は前の世界では、両親に見送ってもらうことなんてほとんどなかったから、少しだけ嬉しい。嬉しかったからか、俺は玄関の扉を開けて振り返り笑顔でこう言っていた。


「うん、いってきます。」


 俺は、家を出ると走ってエスフィーの家へと向かう。

 エスフィーの家に着くと、エスフィーはすでに玄関の前で俺のことを待っていた。まさか、まあまあ早起きした俺よりも早く準備を済ませているとは。


「おはようエスフィー。早いね。」

「うん。今日が楽しみで早く目が覚めちゃって。でも、ハクもそうだったんでしょ?」

「まあ、そうだね。エスフィーは魔法を誰が教えてくれるか聞いてる?」

「うん。お父さんの友達で、魔法を研究してる人だって。名前はえーっと、ごめん忘れちゃった。」


 エスフィーと話をしながら魔法を教えてくれる先生を待つ。

 予定時間より少し早くその人は来た。空を自由に飛び俺たちの前まで来る。

 少しもじゃっとした頭で、眼鏡をかけ、いかにも研究者という見た目をした人だった。

 そして、優しい声で話しかけてくる。


「やあ、君たちが今日から僕が魔法を教えるエスフィー君とハク君だね。僕はエスフィー君のお父さんともハク君のお父さんとも友達のサジェスだ。これからは僕のことはサジェス先生と呼ぶように。」

「はい。」


 俺たちが二人そろって返事をすると、サジェス先生はすぐに魔法の授業に入った。

 魔法を使うにはまず、自分自身の持つ魔力を感じられなければならない。先生曰く、自力だと掴みにくい感覚らしい。

 だからまず、魔力というものを感じるのがいいそうだ。

 先生が俺とエスフィーの手を取り自分の魔力を流してくる。すると、体に急に変なものが流れ込んでくる感覚が襲ってくる。どうやらそれが先生の魔力らしい。

 先生の魔力を感じた後、自分自身に意識を集中し、先ほど感じた魔力をイメージする。そのまま少し時間が経つと自分の魔力を感じることが出来始めた。エスフィーの方を見ると、エスフィーも自分の魔力を感じられたみたいだった。

 次に簡単な魔法を使ってみる。まずは先生のお手本だ。先生は右手を前に突き出し魔法の詠唱を行う。


「我が魔力を糧に、大いなる水の力をここに。ウォーターアロー。」


 詠唱が終わると同時に、先生の右手の前に魔法陣が浮かび上がり水の矢が放たれた。

 魔法の詠唱にはいくつかルールがあるらしい。簡単な魔法ならまず、我が魔力を糧にと唱え、次に、使いたい魔法の属性に関する言葉を唱え、最後に、使いたい魔法の名前を唱えるだけだ。

 しかし、威力が高くなったりすると使う魔力が多くなるだけでなく、詠唱も難しくルールが増えるらしい。


 俺たちは一人ずつ魔法を使ってみることになり、まずエスフィーが魔法を使う。

 先生のお手本と同じようにしていく。エスフィーが詠唱を終えると、エスフィーの手の前にも魔法陣が浮かび上がり魔法が放たれる。なんと、エスフィーは一発で完璧に魔法を使って見せた。

 俺もエスフィーに続こうとしたが、俺はうまく矢の形を作れず、ただ水が出現しただけだった。何回かやってみてもダメだったからか、先生に矢の形じゃなくて、球にしてみたらどうかと言われた。

 おそらく、球の方が簡単なんだろうが、それでもうまくできなかった。

 俺が苦戦してる間にもエスフィーは水でいろいろな形を作っていて、もう水の簡単な魔法を使いこなしていた。


 授業が終わると、今日はこれ以上魔法を使ってはいけないと言われた。魔力を使いすぎると回復に時間がかかるし、魔力切れを起こすと非常に危険な状態になるからだそうだ。エスフィーにかなり遅れを取っているのに、家で魔法の練習ができないというのは俺にとってはショックだった。

 俺はこの世界でも優秀ではなかったみたいだから、一人の時に努力してエスフィーに追いつき、エスフィーと一緒に魔法の勉強をしていきたいと思っていたのに、その思いをいきなり砕かれた。

 

 それからも毎日魔法の授業を受けたが、俺は魔法をあまりうまく使えなかった。

 魔法の授業を受け始めてから一か月が経つ頃になってやっと、俺は使用難易度初級レベルの魔法を使えるようになった。そんな俺に対し、エスフィーは使用難易度中級レベルの魔法まで使えるようになっていた。

 先生も言っていたから、エスフィーは魔法の天才で間違いない。だから、エスフィーが異常なのであって俺は普通だと思いたかった。けれど、先生の顔を見ていれば嫌でもわかってしまう。俺は凡人未満の才能しかないのだと。

 それでも俺はエスフィーの隣にいることを諦めるつもりはない。俺たちがこの国を出て旅に出るまでまだ七年あるのだから。

 

 決意を新たにし、俺は毎日努力を続けた。先生が測ったところ、俺の魔力量はエスフィーよりそこそこ多かったため、エスフィーよりも早くから家でも魔法の特訓ができた。

 三年間俺は毎日魔法の特訓を怠ることはなく、努力し続けてなんとかエスフィーの足を引っ張らないレベルにまでなることが出来た。そのころからエスフィーと魔法を競うようになった。それから三年俺はエスフィーに全くかなわなかった。

 魔法を使い始めて七年目になってようやく百回に一回は勝てるようになった。俺は、エスフィーに勝てるようになってやっとエスフィーに追いついてきたと実感できた。

 


 そして、魔法を磨く日々を送っていた俺たちもついに十二歳となり、国を出て旅に出る時がやって来る。

 



 

 

 

 

 




 


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