プロローグ
毎日楽しくもない学校に通い、誰と話すこともなく、ただ授業を受けて家に帰る。
兄弟はおらず、両親は仕事で海外、家でも学校でも常に一人。
学校を休んだことは今まで一度もない。
けれど、授業を聞いているだけで理解はしていないから、成績はほぼ最下位。
親からすれば手のかからない、学校からすれば真面目だけど頭はよくない生徒。周りの同級生からは、勉強、運動、その他ほとんど何もできない俺は、陰で「無能」と呼ばれていた。
そんな俺の唯一の楽しみは、ラノベやマンガ、アニメを見たり、ゲームをすること。
他人が見ると、ぼっちの可哀そうなオタク、そんな生活を何年も続けてきた。
俺は中三にして、俺という存在を誰も必要としていないことに気づき、俺はこの世界で生きているという実感があまり感じられなくなっていた。
俺は、この退屈でつまらなく、それでいて理不尽が多く蔓延る世界から、ラノベでよくある異世界に行きたいと思っていた。
異世界があることは証明されてないし、ないとは言い切れないけれど、俺は異世界があると信じているから、本気で異世界に行きたいと思っていた。
そう思うようになって、二年が過ぎたころだっただろうか。
高校二年の五月、ゴールデンウィーク明けの学校で奇跡が起こった。
それも、俺のいたクラスでだ。
チャイムが鳴り、朝のホームルームが始まろうとしていたその時、教室の床一面が光り輝きだす。
天井に映った光の形から魔法陣だということが俺にはわかる。
ドアも窓も開かず、壊せず、パニックに陥る生徒たち、それを落ち着かせようとする担任教師と副担任。
その様子に目もくれることなく、魔法陣を見ていた。いや、魔法陣から目が離せなかった。
俺は生まれてきてから今までに感じたことのない興奮を自分の中で何とか抑え、これからのことを考える。
おそらく、異世界に召喚されるパターンだ。教室全体に現れた魔法陣からして、クラスにいる全員が異世界に召喚され、世界の危機を救うとか、人間を滅ぼそうとする敵と戦いその世界の人間を救うとかだろう。
そして、そのためにクラス全員が何かしらの能力や恩恵を受けているだろう。
もし元の世界のステータスが関係していると、俺はたいしたことのない能力や恩恵しか受けられないだろう。
けれど、やっぱり異世界に行けるのなら、ラノベ主人公のようなチート能力が欲しい。
でも、チートな能力は欲しいけど、それをあんまり知られたくない。クラスの代表とかにされるのは嫌だからな。
それに、クラスのやつなんてそもそも名前も知らないし、今更関わりたいとも思わない。チート能力のせいでからまれたりするのが嫌だ。
チート能力がバレず、現地のかわいい同い年くらいの女の子と一緒に冒険者とかしたい。(ラノベでよくあるような異世界なら。)
そして、仲良くなってデートしたり、ゆくゆくは結婚とかして、異世界で幸せに暮らしたい。
今いるこの世界では、俺の居場所はない。そしてこの世界では、無能な俺は、俺の望む幸せを手に入れることは一生できない。
だから、この異世界召喚で行った先の世界で、俺は今度こそ幸せになる。この世界でなれなかった分、最高の幸せを手に入れる。
もし、この世界にも神様がいるのなら、これまでつまらなくても真面目に生きてきた俺に運を、この世界での人生で初めての幸運を俺にくれ。
これから行く異世界でして欲しいことがあるというのなら、一つは必ず叶えて見せる。だから、今俺にありったけの運をくれないか。頼む。
俺がそう願うと同時に魔法陣がさらに光を増していき、そのあまりの眩しさに目を閉じてしまった。
「これが異世界召喚。」
この一度しかない奇跡をかみしめるようにして俺は異世界に召喚される。
そして、目を開けるとそこに、クラスのやつらと共に異世界召喚された俺がいるはずだった。
読んでくださりありがとうございます。