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純情レストラン洗濯船  作者: 田子作
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第13話 人生の大目標

ようやく田子作の誕生秘話をお伝えする時が来ました。

「とりあえずそっくりな世界から連れて来たからほとんどの記憶と人間関係はそのままで、私との出会いはこの人が向こうの世界でもやってる経営学習会の場ってことにしといてっと。」

初期設定のパラメーターを弄り『修正人』にインストールしてゆくエーコ。


「完全に監視しとかないと上手く誘導できない可能性があるから隣の部屋に住まわせよう。偶然お隣さんだったということで。あ、そうだ、スムーズな関係を作るために過去10年分の私との活動も入れとこう。そうなると私の年齢は33歳ということになるな。少しだけ老けメークにしなきゃな。

待てよ?この人結婚してるのかな?なんだ独身か。え?誰、この人。なんとぉ!10年くらい前から行動を共にする弟子が居るんじゃん!ちょうど良かった。この人の記憶に私を上書きしようっと。えっと他の設定はっと。名前?そっか自分の名前を知ったらあちこちで勝手な契約されたら困るから念のために姓の無いただの『田子作』にしとこう。」

更に忙しくキーボードを叩く。

かくして『田子作』はこちらの次元世界へ産み落とされたのであった。


「年齢差も20歳な訳だし、きっと『誠の心』のなんたるかくらい知ってそう。学習会の主催もしてるくらいだからね。」




近所のファミレスに今日も朝から陣取る二人。

何の違和感もなく朝食を食べながら話し合う二人だが、『田子作』にとってはこちらの次元世界初日である。


「師匠ぉ」


「その呼び方止めろ。田子作さんで良いから。」

すっかり設定されてしまった『田子作』である。


「人生における大目標って何ですか?」


「今更何を言ってるんだ?ここ10年以上そのために活動してきたんじゃないか。」


「でも何か腑に落ちないんですよね。特に『誠の心』って誰にとっての誠なのかとか。」


「天上界から見て人としてあるべき姿を追い求める心だろが。」


「でもそれだと女好きな男が毎晩女性を求めてナンパするのも『人としてのあるべき姿』とも言えませんか?」


「そいつにとってそれが人間らしくても使い捨てされる女性から見れば『人でなし』な行為だ。誰から見ても納得がいく行為こそが誠の心の実践じゃないのか?」


『来たー!いきなり答え発見!!さすが年の甲!!』

内心小躍りするエーコだが平静を装う。


「だから大目標が『誠の心を理解し実践する人を増やし世のため人のために各人が平和的に活躍できる世界を構築する』なのですね!?やっと腑に落ちました!!」


「遅っ!え?この10年一体何を考えて活動してきたんだ??」


「とりあえず田子作さんの美味しいご飯を食べ続けることですかね?」


「食欲だけかよ!?」


「だって心は行動に現れるっていつも言ってるじゃないですか。だから料理に現れた田子作さんの『誠の心』を食べれば私も誠の心の実践者に成れるじゃないですか。」


「まあ屁理屈にしか聞こえんがまんざら間違いでもないな。」


「と言うことはですよ。今のお店の売り上げが上がればそれだけ『誠の心』の実践者を増やせるじゃないですか!!」


「まあ売り上げとはお客様の同意の積算だしな。そうとも言えるな。」


「じゃあ人生の大目標=お金持ちになるってことですね?!」


「それは違うな。金なんてのは情熱を飲み干した後の残渣でしかない。大事なことは情熱を注ぎ続ける様だ。それこそが『誠の心』の実践だ。とはいえ売り上げが悪けりゃどんな活動も続けられんか。」

こちらの世界の『横池 徹』と入れ替わって店を切り盛りしていると言う自覚は『田子作』には勿論ない。


「とりあえず目に見える目標が大事ですよぉ。」


「そうだな飲食店経営も今年で6年目だし、そろそろ売り上げ目標も設定するか。」

飲食店開店以来、ほぼ毎日同じ客に支えられてきた『レストラン洗濯船』。

はじまりはネットショップの在庫処理のためだったはずが気づけば『各種アレルギー対応なのに絶品料理の店』との噂が広がってしまい、損得抜きで『世のため人のため』の経営にならざるを得ず売り上げ目標など一度も考えてこなかったのである。




金ぴかドームに戻ったエーコはまたもキーボードを駆使して何やら調べている。


「誠の心の実践者が半年以内に何人になったら世界は元通りになるんだろう?」

コントローラーは高速で試算を繰り返し答えをモニターに映し出した。


「げっ!!1万人も!?今のお店がフル稼働しても1万人に料理を提供するのは無理だぁ!!どうしよう?!」

慌てるエーコ。

この時間は仕事を終えて入浴を済ませた田子作の飲酒タイムのはず。

何かおつまみでも持参してもう少し考えさせなければと目論むエーコであった。


コンコン


田子作がビールを飲み干し焼酎のお湯割りの準備をしているところへ誰かがドアを叩く。


「はい、どなたさんですか?」

少し上気した田子作は何の警戒感も無く扉を開けた。


「お、エーコ。どうしたこんな夜中に。」


「あ、美味しいおつまみ貰ったのでお裾分けです。」

そう言うと手に持っているレジ袋を差し出す。

中には大分産だいぶんさんのきびなごの一夜干しとイワシの丸干しが入っている。


「おー!旨そうだな。そういや今夜は早く店閉めたから晩飯まだなんだろ?食ってくか?」


「はい!!」

結局一緒に食べることになる二人。


「このイワシの丸干しは背骨が歯先でプツンと切れて味も濃い!まるでアルデンテな背骨だな。うん旨い!!」

田子作はモシャモシャとイワシを頭から丸かじりする。


「こっちのきびなごの天ぷらは柔らかい上に味が濃厚でとても美味しいですぅ!!」

エーコもここへ来た目的をすっかり忘れて舌鼓を打っている。


「で誰に貰ったんだコレ?」


「佐伯の観光物産所の社長令嬢さんと最近交流があって、今日こっちに来る用事があったとかで昼休みに外で会ったんです。そしたらお土産っていって貰いましたぁ。」

全くの出鱈目である。業者からサンプルで貰った物をこっそり自分用に持ち帰っていただけである。


「そうか、大事にしろよ。こんな旨い物くれる人は特にな。がはは。」

かなりアルコールが回り始めた田子作はますます上機嫌になる。


「それはそうと、質問があるのですが。」

エーコはようやく目的を思い出した。


「ん?なんだ改まって。」


「大目標の達成には一生かかるかもしれませんが中目標とか小目標とかは半年とかで達成できるんじゃないですか?」


「そうだな。確かに。で、お前はどんな目標にすればよいと考えてるんだ?」

3本目のイワシに手を伸ばしながら聞き返す田子作。


「そうですね。とりあえず小目標として半年でどれくらい達成できるかを見て中目標を定めると言うのはどうでしょう?」


「ほう。現実路線か。いーんじゃないか?」

米焼酎のお湯割りをグビッと呷る。


「そこで半年で1万人に料理を食べてもらおうと思うんです!」


ぶっ!!

田子作は酒を噴き出した。


「ぎゃっ!汚いじゃないですか!もぅ~!」

ポケットからハンカチを取り出して慌てて服にかかった唾液交じりのアルコールを拭き取る。



「いきなり現実離れしてるじゃねぇか!」


「いいえ、決して出来なくはありません。死ぬ気で、いえ、世界が滅びるのを食い止める気で考えれば何とかなるはずです!!」

エーコは身を乗り出して田子作をじっと見つめる。

エーコが本気なのを悟った田子作は少しの間黙考する。


「確かに本気で考えれば何とかなるかもしれん。少し時間をくれ。」

田子作は酔いが覚めるのを感じながら本気で思考を巡らすのだった。


一体どんな策を練るのでしょうか?お楽しみに。

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