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第三話

 私はカウンセリング室に通い続けてもう数か月も経ち、常連になっていた。

「失礼します」

 最初は開けられなかった扉も、今はここなら開けられるようになっていた。開けられない間はいつも、圭介君が開けてくれていた。

 でも、何故私が来たらいっつも扉を開けてくれたのか疑問に思った事があって聞いた事があった。

「どうして、私が来たら扉開けてくれたの?」

「どうしてって、美奈ちゃんが来たのが分かったから開けたんだよ?」

 圭介君は何を当たり前の事を言ってるんだろうというように首を傾けた。

「じゃあ、なんで私が来たって分かったの? それも一回だけとかじゃなくっていつもだし……」

「う~ん、強いて言うなら足音かな?」

「足音?」

 私が首を傾けて聞くと、柔らかな笑顔を向けて話し始めた。

「ここに来る人って少ないし、常連の事が多いから足音を覚えてるんだよ、俺は。それに、美奈ちゃんの場合、ここまで歩いて来たら扉の前でピタッと止まるしね。最初もそうだったから、最初は美奈ちゃんが来たのかな? って思って扉を開けたら予想通りだったってわけ。で、その時から美奈ちゃんの足音も覚えているってこと」

「そうなんだ~。よく覚えられるね」

「まあ、特技みたいなものだしね」

 そう言いながら圭介君はカラカラと笑った。

 あの時は本当にすごいと思ったけど、他にも圭介君は色んな特技があって本当にすごいと思った。例えば、私の他にもカウンセリング室に来ている人は何人かいて、その人たちに警戒心を殆ど抱かせずに仲良くしたり、笑わない事で有名な人を笑わせたりもする。

他にも、手先が器用で折り紙で花を作ったり、それを使ってマジックをしたり、偶に刺繍とかまでやってる。

その刺繍は他の人の家庭科の課題だったらしいけど、色々あってやり直しになったらしく、そのやり直しの原因が圭介君だそうで、自分から責任取ると言ってやっていたそうだ。

 そして、今現在はなぜかトランプでタワーを作り終え、達成感を味わっているような顔をしている。

「あの、圭介君?」

 私が名前を呼ぶとニコッと笑って「いらっしゃい」と言ってくれた。

「何で、トランプでタワーを作ってたの?」

「暇だったから」

 きっぱりと言われてしまった私は「そう……」と言って談話スペースの椅子に座った。

 ここ数か月、カウンセリング室に通い続けて分かった事がいくつかある。

 私は基本、放課後にしか来ないが昼休みもここは開いているらしく、圭介君はここに入り浸っているそうだ。

そして、圭介君はここの先生たちとすごく仲がいい。まあ、私も仲が良くなってきたけれど……。

 これは私の予測だけれど、圭介君はここの生徒ではなく、多分ここに居る先生たちと同業者だと思う。

 ここの先生たちも圭介君と長い付き合いらしいし、それに先生同士で話している中に居ても全く違和感がない。そうなると、制服姿の方が違和感があるし、これで趣味で着てるとか言われたらそれこそどう反応していいのか分からないから詮索は止めておこうと思う。

 結局のところ、圭介君に関して分からない事が沢山ある。

 そして、私の圭介君の見解は優しいけど変な人で、嘘を吐くのはあくまでも隠す必要のある事に対してであり、嘘自体は吐くのが苦手な人である。

 この事をカウンセリング室に居る先生の、()(すみ)先生と早瀬(はやせ)先生に話した事がある。もちろん、圭介君の居ない時に。

「確かに圭君は変だけどね」

 三住先生と早瀬先生は女性で、二人とも圭介君の事を圭君と呼んでいる。

「まあ、嘘吐くのも下手ね。でも、笑って誤魔化そうとするし」

「あ~、確かに何回か笑って誤魔化されたことあります。あの笑顔はダメだと思うんですけどね」

 私がそう言うと三住先生は「そんな事言うんだ~」というような顔をした。

「でも、圭君の最大の武器って笑顔だし、それ取ると何が残るって感じじゃない?」

「早瀬先生、それは酷いんじゃ……」

 早瀬先生はえ~っと言いながらも笑っていた。

「じゃあ、美奈ちゃんは圭君の笑顔以外でいいと思う所ってあるの?」

 尋ねてきたのは三住先生だった。二人して言い方が酷い気がした。

「……優しい所とか?」

 他にもあるだろうけど、真っ先に思い付いたのを私は言った。すると、先生たちは二人してにやにやと私を見てきた。

「何なんですか、その顔」

 私が少し機嫌の悪そうな声で返すと二人とも見事に声を合わせて「別に~」と言った。そう言われて剥れていると圭介君がカウンセリング室に入ってきた。

「遅くなってごめ~ん」

 圭介君はへらへら笑いながら、そう言ってから入ってきた。

「あれ、なんで美奈ちゃんそんなに剥れてるの?」

 私を見た圭介君の第一声はそれだった。

「別に剥れてないもん」

 私がつっけんどんに返すと、頬っぺたを突かれた。

「そっか~、こんなに頬を膨らましてるのが普通か~」

 そう言いながらも、ずっと私の頬をぷにぷにと突き続けた。その手を私が振り払ってやっと止めてくれたけど。

「何の話してたのかな~?」

 圭介君は私の顔を覗きながら聞いてきた。すると、早瀬先生がそれに答えた。

「ガールズトークしてたのよ。だから、男のあんたが聞いちゃダメよ」

「ガールズって、女の子一人だけじゃないですか。あとはいい年こいたおばさん……」

 圭介君がそう言った瞬間二人の拳が圭介君を捕えた。

「誰がおばさんよ! お姉さんとお呼び!」

 早瀬先生と三住先生が同時にそう言うと圭介君は「自分でお姉さんって言うか?」と小声で言った。その様子を見て私は思わず笑ってしまった。

「美奈ちゃ~ん、笑わないでよ~」

 圭介君は半分笑いながらそう言ってきた。

「まあ、いいじゃない。笑わないよりは笑った方が」

 三住先生がそう言うと、「それもそうだけど」と圭介君が言った。

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