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第一話

 私は高篠(たかしの)美奈(みな)。私立高校に通う二年生。今は二学期に入り、二週間ほど経った。

 そして私は現在、職員室の前に居る。何分も前から。

 決して誰かを待っている訳ではない。入ろうとするのだが、扉を開けようとするのだが、体が動かない。それを無理やり動かそうとすると、動悸、息苦しさに襲われる。その所為でさっきから、入ろうとしたり止めたりを繰り返している。

 それを何度繰り返しただろうか、意を決して扉を開けようと手を伸ばしたその瞬間――。

 ガラッという音がして扉が開いた。目の前には担任の先生が立っていた。

「高篠、遅いじゃないか! 早く来るように言っていただろう? 早く入りなさい」

 先生はそう言うと、私に背を向け自分の机のところへ向かって歩いていった。

「し、失礼します……」

 私はそう言いながらおずおずと職員室に入っていった。すると、何人かの人が私の方を向いていた。多分、先生が大きめの声を出していたからだろう。

 すごく怖くて、気持ち悪くなってくる。

 それでも、先生の後をついて行って、先生の机の近くまで来た。すると、先生は口を開いた。

「どうして呼び出されたかは分かっているだろう?」

 私はそれに対し、小さく「はい」と言った。

「最近どうしたんだ? 急激に成績が下がっているが……。学習姿勢とか普段の態度は特に問題ないのに、こうも成績が下がると受験に関わるぞ。確か、第一志望は国立だっただろう? 今のままじゃ無理だぞ。今のうちにどうにかして成績を上げないと……」

 そう、分かっている。最近勉強に集中出来ずに成績が下がっている事くらいは。分かっている事を言われるのはかなり辛い。

 元々、高校に入った時も努力しないと到底、第一志望は通らない事くらい分かっていた。

 だからこそ努力した。なのに、最近はどれだけ頑張っても集中は出来ないし、どんどん理解出来なくなってきた。

 先生の言っている事くらい『解かる』。

 でも、これ以上どうしたらいいのか分からなくて、頭の中がぐらぐらして、先生の言葉がすごく遠くに聞こえた。少し周りが騒がしくなったと思うと同時に私の意識は遠退いた。


 ふっと目を覚ました時、私は薬の臭いがする部屋の中に居た。

「あっ、目覚めた?」

 聞いた事のない、少年のような青年のような中間的な高さの声が響いた。

「……ここは?」

 私は少し痛む頭を押さえながらゆっくり起き上がって尋ねた。

「保健室だよ」

 さっき話し掛けてきた人が姿を現して、優しい声で簡潔に答えてくれた。

 その人は少し背が高くて、声によく似あう優しい顔をしていた。そして、この学校の制服を着ていた。

 私は保健室に来た記憶がなく、どうしてここに居るのかが分からなかった。

 そんな私を見てか、その人は少し首を傾げて聞いていた。

「覚えてない? 職員室で倒れたんだよ」

 そう言われてなんとなく思い出した。

「それで俺が運んだんだよ」

「あ、ありがとうございます」

 私はお礼を言ってから頭を下げた。

「君って理系組の高篠美奈さんだよね? 確か二年の……」

「何で知って……」

 私は大きく目を見開いた。すると、彼はふっと柔らかい顔をして微笑んだ。

「だって、(とき)(さか)先生と話してたからね。常坂先生は理系組の二年の担任だしね。

 あっ、因みに俺は文系組の二年で、宮野(みやの)圭介(けいすけ)っていうんだ。よろしくね」

 宮野君はそう言うと右手を出してきた。私は同じように右手を出して握手をした。

「よろしく……」

 私は何となく釈然としなかった。

「あの、宮野君はどうして職員室に居たの?」

「圭介でいいよ。俺が職員室に居た理由は、まあちょっと呼び出されてね」

「……そう」

 何となく違うような気がしたけれど、私は納得したふりをした。

「それより、美奈ちゃんは……って行き成り馴れ馴れしいかな? 名前にちゃん付って……」

「別に構わないけど、圭介君の好きに呼んでくれていいよ」

 私がそう言うと、圭介君はニカっと人懐っこい笑顔を向けてきた。

「それでさ、美奈ちゃんはもしかして扉開けるのが怖い?」

 そう言われた瞬間、心臓を捕まれたような感覚がした。

「な、んで……?」

 きっと、私は真っ青な顔をしていたと思う。

 今まで、扉を開けるのを躊躇っていても『苦手』とか『嫌い』と周りは思っていたけれど、圭介君は『怖い』と言った。それは私が今まで自分で無理やり「気付くな」と鍵をかけて、心の奥底に閉じ込めて誤魔化していた感情だった。

 私が扉を開けられないのは『怖い』のではなく、ただ単に強い苦手意識だと思うようにし、苦手はどうにか解決していかないといけないと思い続けていた。

 なのに、彼は簡単に『怖い』という事を見抜いてしまった。

「どうして『怖い』と思っているのを気付いたのかって? まあ、なんとなく、かな?」

 私は意味が分からなかった。ただ混乱し続けた。

 圭介君はそんな私の肩に手を置いて、優しい口調で話し始めた。

「別に『怖い』という感情が悪い訳じゃないんだよ? ただ、生活に支障が出てしまうと困るだろうから、少しずつでも改善していこう?」

「そんなの、どうやって」

 私の声は少し震えていたのだろう。圭介君は落ち着いてと言って私の頭を軽く撫でた。

「具体的なのは直ぐには決められないけど、取り敢えず、明日の放課後カウンセリング室に来て? 待ってるから」

 圭介君は優しく微笑んでから、今日は取り敢えず帰った方がいいと言った。圭介君はまだ用事があるらしく、私は一人で保健室を出て、その日は真っ直ぐ家に帰った。


 私は帰る時にどうして圭介君が文系組の二年生だという事に釈然としなかったのかに気付いた。

 私の通っている学校は校則が厳しく、女子ではスカートの長さや、髪を括るゴムの色、靴下の色などが、男子では髪の長さ、ベルトの色と装飾品の有無などが事細かに決められている。そして、校章は絶対に付けなければいけない。校章は学年によって色が決められていて、一年生が赤、二年生が青、三年生が藤色である。

 制服は着崩す事や校章を付けない事などは校則違反となり、先生が注意をしても直さない場合、反省文を書かされる。

私の友達も首元が苦しいからといって、リボンを外していた事があって反省文を書かされた事がある。

それだけ厳しい所なのに、圭介君は校章を付けていなかった。その上、第一ボタンを開けていた。

 もしかしたら、それで呼び出しを受けたのかもしれないけれど、校則違反をした場合の呼び出しは生徒指導室だ。なのに、職員室に居たというのはかなり引っ掛かる。

 取り敢えず私はその事を明日聞く事にした。

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