迷宮と大鎌②
物心付いた時には、とある国の貧民街で残飯を漁っていた。
金も名前も、生きる目的すら持っていなかった。
今日生きるために生きる日々を過ごしていた。
少しでも歯車が狂えば呆気なく死ぬ。
そんな生活が10年ほど続いたある日のことだ。
その女は娼婦や踊り子のような扇情的な服装なのに顔は黒いベールで隠した怪しい女だった。
「貴女、自分の運命を変えたいと思う?」
それが『烏』と呼ばれる女との出会いだった。
「ぐっ!」
狂気的な笑みを浮かべたシスターが振るう純白の大鎌をギリギリのところで避ける。
烏から受けた今回の任務は帝国で活動している女商人へ揺さぶりを掛けるというものだった。
烏の作ったプラン通り、帝都へキングポイズンスライムの変異種を送り込み、商人の身内を害することでダンジョンへ誘い込むことに成功した。
そこで解毒に必要なエマヤ鉱石が採取できる16階層に向かうであろう女商人を待ち伏せていたのだが、そこでこの厄介なシスターと戦うハメになってしまったのだ。
アンデッド対策に急遽メンバーに入れた神官だと思っていた。
それがどうだ。
高位の光魔法を連発し、更には神器まで発動したのだ。
ただのシスターなんかではないことは明らかだ。
「そろそろ終わりにしてほしいッスね」
「舐めないでよ!【召喚】」
私の周囲に魔法陣が煌めき、私が集めた『人形達』が現れる。
「行きなさい!」
召喚したのはホブゴブリンの部隊だ。
魔法付与すら切り裂ける高価な魔法武器を装備させ、長年かけて訓練を施した魔物達だ。
そのホブゴブリン達の刃を受け、血を流すシスターだったが、その傷は瞬く間に治癒して跡形もなく消え去る。
「無駄ッスよ。私の【神の恵みを刈り取る刃】は斬り殺した相手の魔力を吸収するッス。
殺せば殺すほど、傷は治癒し、より速く、より硬く、より強くなるッス。
数に頼る魔物使いでは私に勝てるはずが無いんッスよ」
「化け物め!!」
「こんなにぷりちぃなティーダちゃんに向かって化け物なんて酷いッスよ〜」
そんな戯言を述べながらもシスターの大鎌は私の首を狙い振るわれる。
すでにホブゴブリン達は返り討ちにされ、その魔力を吸収したのか、シスターのスピードは更に上がっている。
「くそ!!【召喚】」
コレは使いたくはなかった。
こんなところで使い捨てにするには勿体ない人形だ。
しかし、他に手が無い以上、使うしか無い。
「そいつを殺しなさい!アースドレイク!」
「ぬわっ!竜種ッスか⁉︎」
私の切り札、それは土属性の竜種、アースドレイクだ。
強靭で硬く、力強い、強力な魔物だ。
卵から孵化させて命懸けで育て上げた手持ちで最も強力な人形。
それでもこのシスター相手では時間稼ぎにしかならないだろう。
私はシスターにアースドレイクをけしかけながら、撤退用に用意していた【転移】のスクロールを取り出した。
◇◆☆◆◇
蠍と名乗った女が新たに召喚したのはアースドレイクだった。
その姿を確認したティーダはスピードに回していた魔力を攻撃に振る。
神器【神の恵みを刈り取る刃】は、ティーダが口にしたように斬り殺した相手の魔力を吸収できる神器だ。
より正確に言えば、吸収した魔力を神器に蓄積し、治癒や身体強化、武器強化へ振り分けることができるという能力である。
アースドレイクは強靭な鱗による高い防御力を持つ竜種だ。
並の剣ではまともにダメージを与えることなど不可能だ。
そのため、ホブゴブリンから奪った魔力を全て威力の上昇に集中させる。
「グルォオ!!!」
頭上から迫る鋭い爪を刃を地に向けて柄で受け流す。
そしてそのまま掬い上げるように一閃。
一拍の間の後、アースドレイクの首に赤い線が走り、更に一拍、巨大な首が地に落ちる。
竜種という強大な力を持つ魔物の命を刈り取った事で、【神の恵みを刈り取る刃】に新たな魔力が宿る。
それを感じた瞬間、アースドレイクから吸収した全魔力を身体能力の上昇に変える。
足下が爆発するような衝撃と共にティーダは蠍に迫る。
蠍はその時には懐からスクロールを取り出していた。
「逃がさないッスよ!」
「ちっ!【転移】」
光に包まれた蠍をティーダの大鎌が捉える。
しかし、僅かに蠍の転移の方が速く、その姿が掻き消えてしまった。
「逃げられたッスか……手応えはあったんッスけどね?」
純白の大鎌を肩に担ぎ、ティーダは蠍が消えた場所に残る少なくない血溜まりを一瞥するのだった。
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(・ω・)ノシ