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迷宮と亡霊②

 レイスの群れを引き連れてダンジョン内を疾走する私達は、前方に現れるアンデッドを蹴散らしながら、なんとか距離を保てていた。


 しかし角を曲がった所で状況は一変する。


「不味い!行き止まりだ!」

「後ろ!レイス来てますよ!」

「戦うしかないわね……」

「くっ!仕方ないッス!皆さん、30秒稼いでほしいッス!」


 そう言って退がったティーダを庇うように私達は前に出る。

 30秒で何をするのかは分からないが、今は任せるしかない。


 私は細剣に魔力を纏わせてレイスを斬り払う。

 魔力を帯びた武器でならば、レイスにも多少の効果はある。

 しかし、数が違い過ぎる。

 ユウやエルザも同じく魔力を使ってレイスに対抗しているが、あまりの数に押され気味だ。


 ティーダはと言うと、懐から取り出した聖水を振り撒きながら鉄杖で地面にガリガリと魔法陣を描いている。


「邪悪を退け我らを御守りください【聖域(サンクチュアリ)】」


 ティーダが魔法陣を描き上げて詠唱を完成させると、光の輪が広がりレイスの侵入を退けた。


「これは……結界か?」

「助かりました」

「なんとか一息つけるわね」


 私達は息を整えつつ結界の中心に集まった。


 ティーダが張った結界は魔法陣を中心に半径5メートルほどの物だ。

 どうやら範囲内へのアンデッドの侵入を防ぐ効果があるみたいね。


「これ……どうするッスか?」


 ティーダは結界の外に群がる大量のレイスやスケルトンなどを見やり溜息混じりに吐き出した。


「どうしたものかしらね。ティーダ、この結界ってどれくらい持つの?」

「普通なら30分くらいッスね。でも今現在進行形でガリガリ削られてるッスから15分ってとこッス」

「エルザさん、15階層への階段は何処ですか?」

「ちょっと待ってくれ」


 エルザは地図を取り出すと14階層から降りてきた階段から道をなぞり出した。


「此処が現在地だ。15階層への階段はこのルートを通って……こっちの広間を抜けた先……此処だ」

「割と近いですね」

「この距離ならアンデッドを殲滅するより強引に突破して階段を目指す方が良いわ」

「そうッスね。時間を掛ければそれなりに強力な魔法でこの辺りに集まった奴らは消し飛ばせるッス。その隙に走り抜けるッスよ」


 作戦が決まり、アンデッドに取り囲まれながら、落ち着かないまま簡単に携行食を水で流し込んだ私達は、武器の手入れをして備える。

 その間、ティーダは結界の中心で膝立ちになり、胸の前で手を組んで一心に祈っていた。


「む、結界に罅が入ったぞ」

「女神様の慈悲により……」

「そろそろですね」

「……迷える魂を御導きください」

「結界が砕けるわ!」

「この非情なる世界に幸いあれ、悲しみに暮れる者に幸いあれ、女神様の使徒に幸いあれ、光あれ……【浄滅(バニッシュ)】」


 結界が砕けると同時にティーダを中心に閃光が走る。

 目を焼くような眩い輝きだが、不思議と目が眩むことはなく、周囲が暖かく静謐な空気で満たされる。

 その光が消えた時、その場に居たアンデッドは一切の痕跡も残さず消え去っていた。


「よっしゃあ!成功ッス!流石は私ッス!『さすわた』ッス!」

「走るぞ!」


 大技の成功にテンションが上がったティーダを引きずるように走り出す。


 すると直ぐに何処からともなくレイスが現れる。


「また来たッス!」

「構うな、もうすぐ階段だ!」

「広間が見えたわ」


 私達は勢いもそのままに広間に飛び込む。

 そこは今までの狭い通路とは全く別で、所々に天井まで続く柱がある広い空間だった。

 しかし、此処にも大量のアンデッドが私達を待ち構えていた。

 中には首無しの馬に騎乗するデュラハンも居る。


「不味い、追いつかれるぞ!」

「仕方ないッスね!」


 突然ティーダが立ち止まり、私達を追うアンデッドの群れに立ちはだかった。


「ティーダ⁉︎」

「皆さん、此処は私に任せて先に行くッス!」

「わかったわ」

「ありがとうございます」

「任せたぞ」

「え、あれ?此処は『お前にだけ格好いい真似はさせられない』とか言ってみんなで戦うパターンじゃないんッスか⁉︎」


 大量のアンデッドの群れをティーダに任せた私達は『薄情者〜』と言うティーダの叫びに背中を押されながら階段に続く通路を走り抜ける。


「任せた、とは言ったがティーダは大丈夫か?」


 途中、迫り来るリビングデッドを斬り払いながらエルザが口にする。


「大丈夫でしょう。ティーダさんはまだ余力を残していたみたいですし」

「いや、そうじゃなく……」

「わかっているわよ。ティーダだって気付いている。その上で任せろって言ったんだから大丈夫でしょ」

「……そうだな。ティーダの力を信じよう。

 む、階段だ!」


 階段を飛び降りるように駆け降りた私達は15階層へ到達した。


「「「っ⁉︎」」」


 15階層に飛び込んだ途端、背筋にザワリとした感覚が走った。


「神器【終結の戦斧(ピリオド)】」

「神器【暴食の魔導書(グリモア・ベルゼブブ)】」

「神器【不屈の(レントゥス・)大剣(グラディウス)】」


 3人同時に神器を発動させる。


 次の瞬間、暗がりから飛び掛かってきた魔物をユウが手にした神器で受け止める。


 ユウの神器は、黒地に金、銀、赤の線が走る柄、全ての光を吸い込むような漆黒の刃の戦斧。

 その戦斧の柄で受け止めているのは青みがかった光沢を持つ大きな鎌、体長2メートルを超える昆虫型の魔物、グレートマンティスだった。


「コイツはたかが30階層しかない浅いダンジョンに出るような魔物じゃないぞ!」


 そもそも、ギルドで得た情報ではこの階層も出現する魔物はアンデッドのみだったはずだ。

 こんな魔物が現れるはずがない。


 更に、15階層に居たのはグレートマンティスだけではなかった。


 ジャイアントワーム、サンドバージャー、デススコルピオ、などなど。

 どれも強力な魔物だ。


「ふっ!」


 ユウが【終結の戦斧(ピリオド)】を振ると、グレートマンティスは薄い翅を羽ばたかせで間合いを空けた。


「後からティーダも追ってくるんだ、このままってわけにはいかないな」

「ええ、やりましょう」

「わたしはレイスなんかよりもこういう分かりやすい敵の方が好みですね」


 私達は両手の鎌を振り上げて威嚇するグレートマンティスと、その背後の魔物の群れを殲滅するべく武器を構えるのだった。

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(・ω・)ノシ

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