迷宮と亡霊①
天井から滲み出た水が滴となり小さな音を立てて落ちる。
私達はジメジメとした湿度の高い石造りの通路を歩いていた。
このダンジョンは洞窟から森林、地底湖、草原と変化してきた。そして地下13階層からは様相がガラリと変わり、石造りの通路が続いている。
ダンジョンに入ってから既に4日目となる。
深層に進むにつれて魔物の襲撃頻度はどんどん増えていった。
どう考えても異常な事態だが、私達4人は問題無く予定通りの行程でダンジョンを攻略していた。
「ん?」
ふと、前方から足音が響いてくることに気が付いた。
私達は視線を交わし合い、お互いに動けるように距離を離して様子を窺った。
すると、奥の暗がりから冒険者らしき男達が現れ、声をかけてきた。
「ん、同業者か……お前達下に向かうのか?」
「ああ、16階層を目指している」
「そうか、だが今日は戻った方が良い。
この下の階層からはアンデッドが出現するんだが、滅多に出ないはずのレイスやデュラハンみたいな高位アンデッドが何体も出たんだ。
俺たちも探索を中断して撤退しているところだ。
お前達も今日は諦めた方が良い」
「そうか、だが我々も急がなくてはならない理由があるんだ」
「急ぎ?16階層にか?そりゃあいったい…………あ、いや、すまん。詮索するつもりはないんだ。忘れてくれ」
「気にするな。忠告には感謝する」
軽く手をあげてすれ違った冒険者達を見送り、再び歩き始める。
「次の階層からはとうとうアンデッドが出るんッスか」
「らしいわね。リビングデッドやスケルトンなんかは私達が対処するけど、レイスやゴーストは頼んだわよ」
「任せてくださいッス!この私は女神様の御加護がバリバリッスから、悪霊の類いならチョチョイのちょいッスよ。
私の魔法を前に必死で赦しを乞うレイスが目に浮かぶようッスね!」
そう言ってティーダはケラケラと笑った。
「ひゃぁああ!!、ゆ、ゆ、赦してほしいッス!!!」
涙目のティーダの叫びが薄暗い通路に木霊する。
「お、おい!ティーダ!浄化だ!【浄化】を使え!」
「わ、わ、わ!また増えてますよ!」
「急いでティーダ!追いつかれるわ!」
通路を走る私達の後を追う様にレイスの群れが怨嗟の声を響かせながら通路いっぱいに広がって迫っていた。
レイスとはこの世に怨みを残して死んだ魂が魔力によって魔物化した存在だ。
霊体であるが故に物理攻撃は効果が無く、此方の体に触れられるだけで生命力を吸収される厄介な魔物だ。
対抗策は魔法、特に光属性魔法が効果が高い。
更にティーダが使える【浄化】はアンデッドの中でもレイスなどの肉体を持たない霊体系と呼ばれる魔物を一撃で消滅させられる高等魔法だ。
「め、め、女神様!この世に縛られし哀しき魂に御慈悲をお与えくださいッス!【浄化】!」
ティーダが放った光を浴びたレイスは溶けるように霧散し消える。
しかし、直ぐに別のレイスがその穴を埋めるように追ってくる。
「ど、どうなっているんでしょうか?いくらなんでも数が多すぎませんか?」
「いくら私達でも、あの数のレイスとまともに戦うのは流石に不味いわ」
「とにかく走れ!ティーダは【浄化】だ!」
「前!デュラハンです!」
「止まるな!進むぞ」
首の無い馬に乗った首無し騎士に速度を落とさず攻撃を叩き込み、レイスに追いつかれないように必死に走るのだった。
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