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敬虔な商会

 太陽が中天を過ぎた頃、私はミレイを伴って子爵領の中央広場を歩いていた。

 広場には大きな噴水があり、街の人々の憩いの場となっている。


 中央広場から少し高くなっている場所には質素だが掃除の行き届いた大きな建物がある。


 この大陸で広く信仰されているイブリス教の神殿だ。


 私とミレイは大きく開かれた神殿の扉をくぐり礼拝堂へと入った。

 礼拝堂には数人の街人が正面に祀られた女神像へと祈りを捧げていた。


「こんにちは」


 修道服を着たシスターが優しげに声を掛けて来た。

 私とミレイも軽く頭を下げる。


「こんにちは、私はエリーと申します。こちらはミレイ。

 最近、この街に移って来て商会を立ち上げたので、商売の成功と安全を女神様に願おうと思いまして。

 少し祈らせて貰ってもよろしいかしら?」

「はい、勿論です」


 シスターに一言断り、礼拝堂の長椅子に座った私達は女神像に祈りを捧げる。


 どれ程の時間が経っただろうか。


 祈りを終えた私達は席を立って出入り口へと向かう。

 出入り口の辺りでは先程のシスターと聖職者の服装をした男性が話し込んでいた。

 男性の首から提げられた聖印から、彼はこの神殿をまとめる司教様だと思われる。


「あら、お帰りですか?」


 私達に気付いたシスターと司教様は会話を切り上げ微笑む。


「はい、ありがとうございました」

「いえいえ、貴女方の今後に女神様の祝福があります様に」


 司教様も私達の為に祈ってくれた。


 その時、神殿の外から子供達のはしゃぐ声が聞こえて来る。


「あら、子供の声かしら?」

「ああ、神殿の隣には孤児院があるんですよ。午前中は街の雑用や衛兵の兵舎の草引きなどをしておりまして、今帰って来た所の様ですね」

「そうなのですか」

「はい、領主様は色々と支援して下さっているのですが、孤児院は此処だけではありませんから。

 私達が不甲斐ないばかりに子供達に苦労を掛けてしまって、情け無い限りです。」

「いいえ、司教様方の気持ちはきっと子供達に伝わっていますわ」

「ふふ、ありがとうございます」


 私は布袋から硬貨を数枚取り出して司教様に差し出した。


「では……こちらを寄付させて頂けますか?」

「どうもありがとうござい……え⁉︎」


 司教様は驚き固まった。

 私が差し出したのは金貨10枚。

 かなりの大金だ。

 間違っても一般人がポンと寄付する様な金額では無い。


「さ、流石にこんな大金を受け取る訳には……」

「良いのですよ。

 私達、商人にとって顧客となる人々は何にも代えられない物です。

 そして子供達は未来の顧客となる財産。

 その子供達を育む孤児院の方々を支援するのは商人として当然の事ですわ」


 私の言葉に司教様は目頭を拭いながら感謝の言葉を述べた。


 司教様とシスターに見送られながら私とミレイは神殿を後にする。



 日が傾きかけた街中を歩きながらミレイと話す。


「では粗方の用意は整ったと言う事ね?」

「はい、昨日の男爵家のメイドで接触を予定していた人物は全てです」

「そう、石鹸の反響の方はどうかしら?」

「既に何件かの問い合わせを受けております」


 トレートル商会で扱う石鹸は、既にミレイの手によって何人かの貴族や有力者など、影響力の高い人々の目に触れる様にさり気なくばら撒かれている。

 その結果、美容に敏感な女性達からいくつもの連絡を受けていた。


「予定通り、明日から販売を開始するわ。

 値段は既存の石鹸より少し高く、販売数を抑えて、売る相手は慎重に選んで頂戴」

「はい。しかし、よろしいのですか?

 あの石鹸ならもっと高額にしても売れるでしょうし、私達2人でももう少し数を増やせますが?」

「良いのよ。先ずは販売相手や個数を限定する事でトレートル商会のブランド化を狙うわ」


 石鹸と言えばトレートル商会、と言う認識を人々に植え付ける事で、今後の商会の展開を有利に進める為の布石となる。


「さぁ、儲けると致しましょうか」

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(・ω・)ノシ

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[気になる点] いやーさすがに借金した中での寄付とか気持ち悪い
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