忠告と再会
「マスター!ギルドマスター!」
執務室のドアをドンドンと叩くと、ギルドマスターのブレンさんが迷惑そうな顔で扉を開いた。
もう少しで初老に差し掛かる歳だが、体は筋肉に包まれており、老いを感じさせない覇気を感じさせる。
「うるさいぞ、ティナ!」
「た、大変なんですよ!こ、これ…….」
私が手紙を差し出すとブレンさんが眉根を寄せる。
「少し落ち着け!それでこいつは…………誰が持ってきた?」
「Aランク冒険者の《漆黒》ユウカ氏と《不屈》エルザ氏です。あ、それとやたらと強い女商人さんも一緒でした」
「商人?」
ブレンさんが首を捻りながら手紙を開き、中を読む。
すると、みるみるうちに険しい顔に変わった。
「その3人は何処だ?」
「応接室に通しています」
「わかった。俺が行くからお前は受付に戻れ。あと、馬鹿共が奴らにちょっかいを掛けないように釘を刺しておけ」
「は、はい!」
どうやら余程重大なことが書かれていたようだ。
基本的にギルドは冒険者同士の揉め事に干渉しない。
勿論、国の法に触れる様な場合は別だが、喧嘩や因縁くらいなら介入はしない。
先程、騒動を止めようとしたのも、彼女達が冒険者だと確証が持てなかったからだ。
「厄介事よね……コレ……」
私はなるべく巻き込まれたくないな、と思いながら受付に戻る。
此処は気合を入れて乗り越えなければ、皇族が関係している何事かで問題が起こればギルドの責任問題になるかも知れない。
「皆さん!!」
私は受付のカウンターを『ダン!』と叩きながら、ギルドホールや酒場に居る全ての冒険者に聞こえるように声を張る。
両掌がヒリヒリと痛い。
全ての冒険者の視線が私に集まったのを確認して、限界までドスを利かせた(つもり)の声で告げる。
「先程の騒動を見ていましたね!彼女達は特別な依頼でこの地を訪れたAランク冒険者です!今後、彼女達の行動を妨害することは許しません!
問題が起きた場合、冒険者ギルドは一切擁護しません!良いですね!!」
私がそう宣言すると、冒険者達はザワザワと騒ぎ始めた。
「Aランク?嘘だろ?」
「でもBランクがやられたんだぞ」
「あいつらが酔ってただけだろ」
「いや待て…………そうだ!あの赤髪の女!何処かで見た顔だと思っていたが、あいつ不屈のエルザだ!」
「な⁉︎マジかよ!」
「じゃあ。一緒に居たのも……」
「銀髪の方は知らねぇけど、黒髪黒目のAランク冒険者って言ったら《漆黒》じゃねぇか?」
「銀髪の方はさっき商人だと言っていたぞ?」
私はもう1度机を叩き、精一杯怖い(つもりの)声で冒険者達に言い付ける。
「と・に・か・く!彼女達には手を出さない!数日は大人しく!お行儀よく!分かりましたね!!」
「「「わ、わかった……」」」
◇◆☆◆◇
ギルドマスターのブレンから情報を聞き出した私達は、今日のところは宿に泊まり、体を休めることになった。
本音を言えば今すぐダンジョンに向かいたいところだが、目的のエマヤ鉱石の鉱床があるのはダンジョンの16階層の奥らしい。
途中の探索などを行わず、真っ直ぐ最短ルートを進んだとしても数日は掛かる道程だ。
疲れたまま無理をするよりは万全の体調で向かうべきだと言うユウとエルザに同意するしか無い。
仲間が倒れているエルザは私と同じ立場であるはずだが、冒険者として培った経験から、そして仲間に対する信頼から、努めて冷静な判断をしようとしていた。
この辺りは見習わなければいけないわね。
「大通りの『黄金色の小麦亭』に行くと良い。俺の名前を出せば常時ギルドで確保している部屋を空けてくれるはずだ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「助かるわ」
私達は口々にギルドマスターにお礼を言って冒険者ギルドを後にした。
黄金色の小麦亭は冒険者ギルドのすぐ近くにあった。
既に辺りは暗くなり、町の所々に篝火が掲げられている時間だが、黄金色の小麦亭では酒や夕食を食べに来た客や泊り客の声で賑やかだった。
「なかなか良さそうな宿だな」
「そうですね。美味しそうな匂いがしますし」
「そうね。ギルドマスターには感謝しなきゃ」
カラン
「いらっしゃい」
私達が扉を開けて宿の中に入ると、受付に居た恰幅の良い中年女性が朗らかに声を上げた。
「冒険者ギルド、ギルドマスターのブレンから紹介を受けたのだが……」
「ああ、聞いているよ。さっき使いの人が来たからね。夕食はどうする?」
「頂きますわ」
「あいよ。奥の食堂に旦那が居るから好きなもの注文しておくれ」
女将さんに促され、私達は賑やかな声の聞こえる食堂へ足を踏み入れた。
食堂では冒険者風の若者や仕事終わりの男達が思い思いに食事と酒を楽しんでいた。
カウンターの席に座ろうとすると、食堂の一角から男達の野太い歓声が上がった。
「何の騒ぎかしら?」
「飲み比べだろ、よくあることだ」
「でもやけに盛り上がってますね」
私達は騒がしい一角に視線を向ける。
「すげーぞ!4人抜きだ!」
「おい、誰か挑戦しろよ」
「無理だって、勝てねーよ」
どうやらかなりのウワバミがいるようね。
「あっはっはっは!だらしない奴らッスね!
私はまだまだ行けるッスよ!」
何処かで聞いたことのある声ね。
そう思った瞬間、人垣の間から肩口で切り揃えられた金糸のような髪を持つ少女と目が合った。
「あれ?エリーさんじゃないッスか!
お久しぶりッスね。仕事ッスか?」
修道服を着た少女が破顔して此方に手を振った後、酒瓶を片手に機嫌良さそうにスキップで駆け寄ってきた。
「………………久しぶりね、シスター・ティーダ」
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(・ω・)ノシ