立ち去る者達
盗賊団を壊滅させた後、私は数日掛けて村の周囲に魔法で防壁と見張り台を作った。
その後は湖の水がアクアクローラーの卵の育成条件に合うか調査し、村長を始めとした村の有力者と契約の確認をしたりと忙しく過ごした。
そして村に着いて数週間、諸々の用事を済ませた私とミーシャは馬車に乗り込み、帰路に就こうとしていた。
「村長殿、お世話になりましたわ」
「こちらこそですじゃ。
エリーさん達が来てくれなければ今頃は村は盗賊共に蹂躙されておったじゃろう」
「村の窮地に間に合って良かったですわ。
帝都に戻りましたら部下と防衛用の戦力を送りますのでよろしくお願いします。
また、お会いしましょう」
「はい、また」
私は村長と握手をした後、ミーシャに声を掛けて馬車を走らせ始めたのだった。
◇◆☆◆◇
「いい加減にせんか!!!」
ブラート王の怒声が執務室に響き、文官達が身をすくませて息を殺していた。
怒りを向けられたフリードは不貞腐れた様子を隠すことができていない。
「お前の案は政策とは言わん!ただの絵空事だ!」
「父上は文官共の言いなりではありませんか!私に任せてくだされば税収も上がります!」
「その結果、民心が離れると何故分からん!
もう良い!お前は部屋に戻れ!」
フリードはギリリと奥歯を噛み締めて執務室を出ていった。
その夜、ブラート王は自室で酒を呷りながら溜息を吐き出した。
対面には宰相であるジークが同じく盃を手にしている。
「全く、あやつは何故ああも傲慢なのだ」
「フリード殿下の案は確かに数字の上では有用に見えますが、下の者の感情を計算に入れておりません」
「先の紛争の罰として謹慎させていたが全く反省している様子もない。
早々にエリザベートを連れ戻したいが……」
「エリザベートの居場所についてはいくつか予想が立っています。しかし、今は人を送る余裕すらありませんからね」
ハルドリア王国は現在属国との関係の修復に加えて、戦帰りのロベルトが引き起こした事件による治安の悪化への対処で、非常に逼迫しておりエリザベートの捜索は後回しにされていた。
「陛下……フリード殿下のことなのですが…………」
「どうした、お前が言い淀むとは珍しい。
構わないから言ってみろ」
「…………いえ、コレは宰相として口にすることはできません。
なので……友の言葉として聞いてほしい」
「……わかった」
「では……ブラート、フリード殿下はこのままではダメだ。殿下にこの国を任せれば、そう遠くないうちに取り返しの付かないことをやらかすだろう」
「………………」
「お前が王家の雷の魔力を色濃く継いでいるフリードに期待しているのは知っている。
だがお前には王として、この国の為に正しい判断をする義務があるはずだ」
「………………そうか」
「ああ」
「決断せねばならない……か」
「…………ああ」
王城の一室で王と宰相である2人は、友人として盃を交わすのだった。
◇◆☆◆◇
立派な門を抜けるとザワザワと賑わう大通りが目に入った。
先日立ち寄った領都にも負けないほどの賑わいだ。
「やぁ、兄さん。冒険者かい?」
「ああ、公国に来たのは初めてなんだが随分と活気があるな」
「まぁな、でもこの街も昔は寂れた田舎の漁村だったらしいぜ」
「そうなのか?」
「今じゃあアクアシルクの一大生産地として有名だがな」
「アクアシルク?」
「おうよ。まるで水のような肌触りの高級生地さ。兄さんもどうだい、お土産に?
故郷の恋人にプレゼントすれば喜ぶぞ?」
「ほう?でも高いんだろ?」
「いやいや、このハンカチくらいなら平民でも手が届くさ」
こうして今日も商売熱心な店主はアクアシルク製のハンカチを熱心にアピールするのだった。
ハルドリア公国 サージャス地方
ミリスタの街の昼下がりの一コマ
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(・ω・)ノシ




