修練する者達
私が笛の音がする場所に駆けつけると5人の村の男性が3人の盗賊と対峙していた。
村人は木を削った即席の槍を恐々と構え、盗賊はそれを見てニヤニヤと笑みを浮かべている。
まだ私に気付いていない!それなら!
私は身を低くすると、身体強化に使っている魔力を脚に集中させた。
以前は体全体への強化しかできなかったけど、ミレイ様に訓練を付けてもらううちに細かい魔力の扱いができるようになった。
これによって更に速度を増した私は、村の建物の陰から、放たれた矢のように村人に対峙する盗賊達へと迫った。
狙いは弓持ちの盗賊の首!
エリー様に買い与えられた短剣を逆手に構えて残りの数メートルを跳躍する。
しかし、そこで盗賊も私の接近に気が付き、目を見開いた。
普通の野盗なら何もできずに喉を掻き斬られていたと思う。
だがこの盗賊はエリー様の予想通りなら戦闘の訓練を受けた元兵士だ。
故に盗賊は反射的に弓を上げ、私の短剣を受け止めたのだ。
「くっ!」
空中で身体を捻った私は、盗賊に背を見せないように片手を突いて地を滑る。
「なんだ!」
「獣人のガキだぜ」
盗賊達が態勢を立て直す前に、と思い飛び掛かる。
「ふぅう!!」
短剣を突き出すが、盗賊は冷静に身を屈めて拳を振るう。
「がはっ!」
「へへ、威勢の良いガキじゃねぇか」
込み上げてくる吐き気を堪えてゆっくりと立ち上がる。
「ふ〜ん、ちと貧相だが器量は悪くねぇな」
「なんだよお前、あんなガキが好みなのか?」
「悪いかよ?久しぶりに楽しみたいからな。コイツは俺が貰って良いよな?」
「好きにしろよ、変態」
「「「はっはっは」」」
フラつく足元が頼りなく、近づいてくる盗賊に恐怖が込み上げてくる。
慌てちゃ駄目だ……冷静に……落ち着け……思い出せ……。
『いいですか、ミーシャ。
獣人の方々の多くは魔法が苦手です。
しかし、魔力を扱えないわけではありません。
ミーシャも魔力で身体強化を使えるでしょう?」
『はい。ですが私自身もどうやって身体強化を使っているのか分からないんです』
『そうですね。そもそも私やエリー様の使う身体強化と、ミーシャが使う身体強化は厳密に言えば別の物なのです』
『え⁉︎』
『私やエリー様の身体強化は魔法ですが、獣人の方々が本能的に使う身体強化は【スキル】なんです』
『魔法と【スキル】は違うのですか?』
『ええ、魔法とは魔法式とイメージによって理論的に組み立てられるものです。
対して【スキル】とは魔力を使う事は同じですが、魔法式を介さず直接魔力を感覚的に操作する技術です』
『つまり魔法式が苦手な獣人でも【スキル】なら使えるってことですか?』
『そうです。1つお見せしましょうか』
ミレイ様は私に石を手渡し、少し離れた場所へ移動した。
『その石を私に当ててください』
『は、はい!』
私は一瞬戸惑った後、腕を振りかぶりミレイ様に石を投げつけた。
『え⁉︎』
ミレイ様に向かって飛来した礫だったが、石はミレイ様に当たることなく、その身体を透過して背後に落ちた。
するとミレイの姿が溶けるように消えて、すぐ側から滲み出るように姿を現した。
『これは【ミラージュ・ステップ】という【スキル】です』
『凄いです!私にもその【スキル】が使えるのですか?』
『そうですね……【ミラージュ・ステップ】を習得するには光属性の魔法適性が必要です。ミーシャの適性を調べてみましょう』
するとミレイ様は小さな水晶を取り出した。
『これで確認できます。触れて魔力を流してください。マジックアイテムの明かりを灯すのと同じ感覚です』
『はい』
私は水晶を受け取り魔力を込める。
すると水晶は僅かに茶色く光った。
『ミーシャの魔力適性は土属性ですね』
『では【ミラージュ・ステップ】は使えないのですか……』
ミレイ様は少し気落ちする私の頭を撫でてくれる。
『そう気を落とさない。土属性にも強力な【スキル】はありますし、どの属性でも使える【スキル】もありますよ。
まずは手始めに【ミラージュ・ステップ】に似た【スキル】を教えてあげましょう』
「へへへ、おいガキ。大人しくこっちに来な」
盗賊が私の腕を掴もうと手を伸ばし……その手が空を切る。
「あれ?」
盗賊が掴もうとしたのは私の腕の側。
盗賊は再び私を捕らえようとするが、私の体に触れることはできないでいる。
フラフラと動く私は魔力を纏っていて、不規則な動きと感覚を狂わせる魔力により盗賊の目算をズラしている。
ミレイ様から教わった【フェイク・ステップ】だ。
さっきまでとは違う。
今は冷静に盗賊の動きに集中する。
此処からが反撃だ!
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