語り合う商人達
帝都の屋敷に戻ってきた私達は、食堂に集まり夕食を食べていた。
この場に居るのは4人。
私とミレイ、ルノアとミーシャだ。
「レキ帝国と言うと南大陸の半分以上を支配している大帝国ですよね?」
「ええ、この国とはかなり違う文化を持っているわね。私も行ったことはないけど」
「そんなに凄いことなんですか?
その病気の予防法を発見したのは北大陸の研究者なんですよね?」
「それがそうでもないのよ」
ミーシャが疑問を口にする。
確かにレキ帝国に居ると言う少女は単に研究者が発見した事柄を伝えただけにも思える。
しかし、事はそんな単純なことではない。
「その研究者の論文って私も読んだのよ」
グェンの話に何処か引っかかっていた私は、かつて
【傲慢の魔導書】に件の論文を記録してあったことを思い出し、帰りの馬車の中で目を通したのだ。
「確かにその研究者は船乗り病の原因について食生活に問題があると考えていたわ。
でも、その論文では詳しい原因や解決法にまでは言及されていなかったのよ」
「では、その少女が自ら発見したということですか?」
ミレイが驚きを隠せずに聞く。
「そこまでは分からないわ。ただグェン船長の話だと、その少女は研究者の類ではなさそうだから、他の研究者の論文などを読み合わせて導き出した物じゃないかしら?」
「ふぁ凄いですね!」
その後、私達は4人で、まだ見ぬ南の知恵者について予想を述べ合い、やがて話題はグェンから聞いた話から、今回仕入れた商材の話に移る。
「では次の目的地はサージャス王国……サージャス地方ですか?」
「そうよ。あの生産拠点を置いた村、確かガナ村だったわね。あの村からサージャス地方に入った所の湖の側に小さな村があるわ。
そこに向かうわよ」
「では明日、出発しますか?」
「ええ、こちらの仕事もあるからミレイとルノアは留守番をお願いね」
「はい!」
「お任せください」
翌日、早朝から私とミーシャは木箱を積んだ馬車を操り帝都を出た。
午前中は私が御者を務める。
踏み固められた道を、積み荷に配慮してゆっくり進んだ。
「エリー様、この木箱は何故エリー様の神器で収納して運ばないのですか?」
「私の【強欲の魔導書】には生物を入れることはできないからね」
「え⁉︎コレ、生き物が入っているのですか⁉︎」
「卵だけどね。それはアクアクローラーの卵なのよ」
「アクアクローラー?」
「西大陸に生息する水棲の芋虫みたいな魔物よ」
「い、芋虫……ですか……」
ミーシャが木箱からそっと離れ、私はその様子に苦笑を浮かべた。
「西大陸では湖で栽培されている薬草を食べ尽くす害虫として扱われているわ。
でも、特定の条件を満たすことでアクアクローラーは上質な糸を作るのよ。
その糸で織った布はアクアシルクと呼ばれているわ」
「アクアシルクですか⁉︎
あれは生産方法が不明な幻の布のはずです!
ごく稀にダンジョンで手に入る物だとお父さんが言っていました!」
「そのアクアシルクよ。
アクアクローラーが糸を吐く条件が難しいのよ。私は古い文献からその条件を解読したの」
「ほ、本当ですか⁉︎」
コレはハルドリア王国の地下書庫に収められていた文献に書かれていた物だ。
王国に居た時に、次の商売として目をつけて研究していたのだ。
私はアクアシルクを生産する条件について説明しながら、視界の先に最初の目的地である村を見つけるのだった。
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(・ω・)ノシ