経済界の怪物達①
「帝国商業ギルド評議会ですか?」
「ええ、帝国の経済界を牛耳る7人の大商人が数年に一度集まり、様々な話し合いをする会合よ。今度開かれる評議会に呼ばれたの」
「それは……何故なのです?」
「この前のサージャス王国との紛争で、私は義勇軍を率いて参加したでしょう?
私が私の都合で参加した紛争だけど、国の許可を得て義勇軍を編成した以上、帝国は結果を残した私に報酬を出さないわけにはいかない。
でも王国からの亡命したばかりである私に爵位や勲章を渡すのは憚られる。
そこで、多分ルーカス様辺りが色々と苦慮してくれたのだと思うのだけれど、褒美として帝国から特別認可商人への推薦が貰えることになったのよ」
「特別認可商人ですか⁉︎」
ミレイが驚きの声を上げる。
特別認可商人とは、税金や土地の購入、所持制限品の制限緩和、帝国からの資金融資など、商売に関する様々な事柄で優遇を受けられる、帝国でも20人と居ない特別な存在だ。
特別認可商人になれば単純に利益が跳ね上がるだけでなく、上手くやれば3倍、4倍も夢ではない。
弱小貴族など目ではないほどの発言力を得られるのだ。
だが、特別認可商人は帝国からの許可だけでは得ることはできない。
帝国ができるのはあくまでも推薦。
特別認可商人になるには帝国商業ギルド評議会で審査を受け、評議員の過半数の支持を得なければならないのだ。
「それで評議会に……」
「ええ、戻ったら早速準備しましょうか」
「お久しぶりです、エリー会長」
そう言って柔らかな笑みを浮かべて手を差し出してきたのはセドリック・ルーインス。
《教育者》とあだ名される奴隷商人であり、帝国商業ギルド評議会の評議員の1人だ。
書状に書かれていた時間の少し前、商業ギルドを訪れた私は、商業ギルドの一室で待たされていた。
そして時間が来たのか、私を迎えに来たのがセドリックだったのだ。
「お久しぶりですわ、セドリック会長。
まさかセドリック会長自ら迎えに来てくださるとは夢にも思いませんでしたわ」
「はっはっは、私はエリー会長と面識がありましたからね。
貴女をエスコートする役目を勝ち取ることができたのですよ」
「ふふ、ではよろしくお願い致しますわ」
お互いに表面上はとても穏やかに再会を喜び合う。が、彼の目的は多分、私を直接観察することだろう。
私は商売での功績でこの場にいるわけではない。
紛争に参加した報酬という力業で特別認可商人の候補となったのだから警戒して当然か。
「エリー会長のご活躍は聞いていますよ。
義勇軍を率いて自らも剣を振るい戦ったとか」
「全ては帝国の平穏の為、そして私の商売の為ですわ」
「はは、確かエリー会長の商会の生産拠点が近くにあったのでしたね」
「ええ、幸い被害は軽微で済みましたわ」
「それはそれは」
「しかし今回の件で痛感しましたわ。
村人を雇うだけでなく、警備や管理などにはしっかりと教育を受けた人材を配置しなければいけませんわね。
そうしていれば被害を避けることもできたはずですわ」
「なるほど、幸運を喜ぶだけでなく、そこから更に教訓を得るとは、エリー会長は勤勉でいらっしゃる」
「そのようなことはありませんわ。
私のような若輩者では手の届かないことばかりです。
セドリック会長を始めとする先駆者の方々からは学ばせていただくことばかりですわ」
商業ギルドの廊下を歩きながらセドリックと会話を交わす。
向こうからの探りを躱しつつ、こちらからは敵意が無く利益を齎すことをアピールする。
そんな攻防はそう長くは続かなかった。
商業ギルドの奥、芸術的な装飾を施された扉の前に到着したのだ。
「おや、楽しいひと時とは矢のように過ぎ去るものですね。では、どうぞ」
セドリックが扉を開き私を室内へと招き入れてくれる。
部屋の中には円卓とそこに居並ぶ6人の人物。
セドリックも合わせたこの7人が帝国の経済界に君臨する怪物達だ。
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