辺境の顛末
サージャス王国の王都の正面門を目の前に見る位置に布陣してレブリック子爵領軍と私達義勇軍、そしてロベルトが率いるハルドリア王国の離反軍。
その中央に設営した大きな天幕で軍議を開いていた時だった。
その天幕に伝令兵が知らせを持ってきたのだ。
「ご報告します!サージャス王国の王城に白旗が揚がりました!
また、サージャス王国のグリント王子が和平交渉の使者として来られております!」
「わかった、丁重にご案内しろ」
「は!」
伝令兵はルーカス様の指示を受けグリントを案内するために戻っていった。
「思ったより早かったですわね」
「そうだな。後はどのような交渉になるかだが…………エリー殿はこのまま交渉に参加して良いのか?」
「ええ、私も義勇軍を率いる者として参加させていただきますわ」
「うむ、ロベルト殿はどうする?」
「自分も参加させていただきたい」
「わかった」
それからしばらくすると、ブロッケン砦で見かけたサージャス王国のグリント王子が護衛を1人伴って姿を現した。
護衛の男はサージャス王国に所属する唯一の神器使いである近衛騎士団長ね。
ハルドリア王国でのパーティで見覚えがあるわ。
グリント王子は私達の中にロベルトの姿を見つけて苦笑を浮かべ、ロベルトはばつが悪そうに視線を逸らした。
そしてその横に居る私を少し見つめて大きく目を見開いた。
「エリザベート殿……」
「お久しぶりですわ、グリント殿下」
「……なるほど、貴女が彼らが言っていた非常に腕の立つ女商人でしたか」
グリント王子が言う彼らとはあの傭兵達のことだろう。
ブロッケン砦で私はグリント王子を見かけたが、彼は私には気付いていなかったようね。
グリント王子は気を取り直したようにルーカス様に向き直った。
「我々サージャス王国はユーティア帝国に対して全面的に降伏する」
「…………ユーティア帝国には貴国の降伏を受け入れる用意があります。
しかし貴国との紛争により我が帝国の臣民に少なくない被害が出ている。
それに関してはどう考えているのでしょうか?」
「…………」
グリント王子は近衛騎士団長に目配せすると、近衛騎士団長は手にしていたはこを机の上に置いた。
ルーカス様の護衛が警戒するが、ルーカス様は片手でそれらを制した。
「それは?」
「今回の紛争で被害を受けた帝国臣民に対する我々サージャス王国の謝罪だ」
グリント王子が箱を開ける。
そこに入っていたのは壮年の男の生首だった。
「…………エリー殿」
「はい、サージャス王国国王、ザントラ陛下で間違いありませんわ」
私はルーカス様の問いに頷く。
「サージャス王国第9代国王ザントラは此度の戦の責任を取り自害した。
現在は私が第10代国王として戴冠している。
父王の首で足りぬのなら、私の首も差し出そう。
その代わり、どうか民に関してだけは帝国の慈悲を願いたい」
グリント王子……いや、グリント陛下はそう言ったルーカス様に深々と頭をさげる。
「ふむ、民に関しては了解した。
帝国としても罪なき者の虐殺は望んでいない。
グリント陛下の処遇に関しては私の領分を超える事柄故、帝国政府に預けることになるだろう。
帝国から人員を入れた後、我々と共に帝国へ来ていただきたい」
「承知した。ルーカス卿の配慮に感謝する」
細かい条件などはこれから時間をかけて調整することになるでしょうけど、取り敢えずコレで今回の紛争は終結した。
サージャス王国は今日でその歴史を終えて、帝国に併合されることになるでしょう。
「ああ、それと今回の紛争はハルドリア王国のフリード殿下の差し金なのでしょう?
その証拠があれば確保したいのだが?」
ルーカス様が問うと、グリント陛下も頷く。
「ああ、ハルドリア王国からは処分するように言われたが、確保して城に保管している。
全て帝国に引き渡そう」
グリント陛下の言葉にルーカス様も少し肩の力を抜いた。
この件を大々的に公表すればハルドリア王国の国際的な立場はかなり悪くなる。
私個人としては、今回の紛争は赤字だったが、王国に嫌がらせをできると考えると悪くない結果だ。
一旦城に戻るグリント陛下を見送るため、私達も天幕を出ようとすると、慌てた様子の兵士が天幕に飛び込んできた。
警戒する一同の前で跪いた兵士が報告する。
「ほ、報告致します!サージャス王国王城より爆発を確認!王城より黒煙が上がっております!」
「なんだと⁉︎」
私達が急いで天幕を出ると、目の前に見える王都の中心、王城から複数の黒煙が上がっていた。
「ど、どうなっているんだ⁉︎」
「陛下!今は急ぎ消火を!」
「あ、ああ、王都の水魔法を使える者を回して……」
グリント陛下が外で待っていた配下に指示を出そうとした時、更に複数の爆発音が響いてきた。
見れば王城だけではなく市街地からも新たな黒煙が上っている。
「な、何が起こっているんだ!」
「ぐっ!とにかく消火を急げ!王城は後回しで良い!民の避難を優先するんだ!」
「「「御意」」」
部下を急がせるグリント陛下にルーカス様も声を掛ける。
「我々も民の救出と消火に手を貸そう」
「……手間をお掛けする」
流石に他国の軍が大人数で王都に向かえば王都の住民がパニックになる可能性が高い。
その為、水魔法使いを中心に少数で王都へ向かうことになった。
残りの者達はこの場で怪我人の収容などの用意をする。
私も水魔法が使えるので消火のために王都へ向かって出発するのだった。
◇◆☆◆◇
サージャス王国の前でレブリック子爵領軍が布陣している反対側、王城の背が見える薄暗い林の中、黒い外套を羽織った者達が集まっていた。
その集団の中心にいた顔に大きな傷を持つ男、あの傭兵団のリーダーの男が誰にともなく呟く。
「そろそろか」
すると見計らったように爆音が鳴り響き、サージャス王国の王城から火の手が上がる。
「これでハルドリアのバカ王子がやらかした証拠は燃え尽きるだろう、多分」
「しかし、良いのですか?確実に処分しなくて?
もしかしたら燃えずに残るかも知れませんよ?」
「良いんだよ。上からは可能なら処分しろとしか言われてねぇんだからよ。
無理してまでやることじゃない」
「そうですか」
リーダーは立ち上る黒煙を見ながら吸っていたタバコを消して立ち上がる。
「さてお前ら、傭兵ごっこは終わりだ!
これより本国へ帰還する。コナー少尉」
「はっ!」
「部隊を分けて行動を開始しろ。
追跡には充分に警戒する様に」
「はっ!これより分散し本国へ帰還致します!」
「よし、気を付けて帰れよ」
「はっ!グレアム大佐殿もお気を付けて」
「おう、本国で会おう」
男達は数人のグループに分かれると速やかにその場を後にした。
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(・ω・)ノシ




