辺境の砦奪還戦③
「くっ!」
傭兵達は想定以上の手練れだった。
1人1人の技量はエルザと比べるべくもないが、互いが互いをフォローし合うことでエルザの攻撃を防ぎ、追撃をさせないように立ち回っていた。
エルザがわざと隙を作って攻撃を誘ってもリーダーの男がすかさず指示を飛ばして踏み込まないようにしている。
傭兵達の攻撃はエルザにかすり傷程度しか与えられていないが、それでも10、20と重なれば体は重くなり、集中力は欠けてくる。
「ふぅ、ふぅ」
「最後まで焦るな!間合いをとって確実に攻撃しろ!」
指示を出す男も自ら剣を握りエルザに斬りかかってくる。
リーダーらしく、他の傭兵達よりも頭1つ腕が立つ。
リーダーを相手しているうちに射られた矢でまたかすり傷が増えた。
「…………このままでは不味いか」
「そうだろ?投降するかい?」
「面白い冗談だ」
「ならどうする?」
「こうするのさ……神器【不屈の大剣】
エルザは手にしていた剣を傭兵のリーダーに投げつけ、その手に神器を生成する。
魔力が凝縮され物質化したその神器は長身のエルザが手にしても大きく見える大剣であった。
「ちっ!神器だ!退がれ!」
リーダーが鋭く叫ぶが、エルザか踏み込む方が早い。
盾を構えた傭兵が前に出て腰を落として構えるが、エルザは構わず大剣で薙ぎ払う。
「ぐぁ!!」
「ぎぃ!」
盾を構えた傭兵ごと数人の傭兵が弾き飛ばされる。
それは先程まで問題無く受け止めていた剣を奮っていた者と同じ人物の攻撃とは思えないほどの一撃。
「くそ!身体能力を上げるタイプか!」
基本的に神器を生成した者は体内の魔力が活性化し。身体能力が上昇する。
しかしエルザの神器【不屈の大剣】の能力上昇率はそれを遥かに超えていた。
通常時の【不屈の大剣】は多少身体能力が上昇するだけの剣に過ぎない。
その為、エルザも普段の戦闘ではわざわざ神器を使うことはしなかった。
だが【不屈の大剣】には1つ、特殊な能力があった。
それはエルザが傷つき窮地に陥るほど、身体能力を上昇させ、刀身は鋭く強靭になるという単純であるが、強大な能力だった。
この能力により、数々の死線を潜り抜け生還したエルザは、いつしか『不死鳥のエルザ』と呼ばれるA級冒険者となっていた。
◆◇★◇◆
「ひぃい、た、助けぐがっ⁉︎」
剣を捨てて両手を上げた男の命乞いを無視して斬り捨てた私は、『ふぅ』と息を吐き出し周囲を見回した。
私の周りはまさに血の海と化しおり、所々に凍り付いた冒険者や傭兵が鎮座していた。
「こちらはハズレだったみたいね」
例の傭兵らしき手練れは居なかった。
それとも気付かずに殺してしまったのだろか?
その時、少し離れた場所でエルザの魔力が膨れ上がり、すぐに凝縮されるのを感じた。
「今のは……」
この独特な魔力の動きは神器を生成する時の物だ。
「エルザが神器を使った?」
エルザの神器は窮地に陥った状況でなければ本来の能力を発揮できない物らしい。
私が自分の神器を明かしたからと、先程エルザ自身がそう教えてくれた。
「つまり、向こうが当たりだったってわけね」
件の傭兵は何か引っ掛かる。
此処で確実に始末しておいた方がいい。
そう判断した私はエルザが居る方へと駆け出していった。
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(・ω・)ノシ