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辺境の砦奪還戦②

 エルザと別れた私はブロッケン砦の城壁へと駆けてゆく。

 軍隊ならまだしも、陽が傾き始めた黄昏時に人間1人を発見するというのは難しい。


 懐から取り出した複数のナイフを城壁に向かって魔力を込めて投擲すると、刃の中程まで深々と突き刺さる。


 そのナイフの柄を足場に城壁を跳ねるように駆け上がると、私の目の前に見張りらしき2人の兵士の姿が現れる。


「「え⁉︎」」


 2人で談笑でもしていたのだろう。

 突如城壁の外から飛び上がってきた私の姿を見て目を丸くしている。


 そのような隙を見逃すはずもなく、剣を一閃。見張りの首を斬り落とした。

 身を伏せた私は、2人分の体が崩れ落ちた音で別の兵士が現れないことを確認してから、傭兵や冒険者が駐屯している広場をそっと窺い見た。

 中庭には沢山の天幕が張られており、武装した者達が食後の休息を取っていた。


 威力の高い広範囲魔法を使えば一撃で半壊するほどのダメージを与えられるが、魔力に敏感な者には気付かれてしまうかも知れない。

 それに捕まっている村人も居るかも知れない。

 此処は威力は低くても広範囲で発動速度が速い魔法を使うべきね。


「【氷雨(アイス・レイン)】」


 魔法で創られた小さな氷の粒が広範囲に渡って降り注ぐ。

 一撃で命を奪う程の威力は無いが、突如、氷の塊に打ち据えられた傭兵や冒険者達はパニックを起こす。

 氷の塊は小石程の大きさから人の頭程の大きさまで様々。

 腕や足に当たれば骨に罅くらいは入る上、当たりどころが悪い者は意識を失っている。


 混乱が続く中庭に降り立った私は近場に居た冒険者パーティらしき集団から斬り殺していく。

 下働きの下男や下女は村人かも知れないので手は出さず、武装している者は片っ端から斬り捨てた。


 氷の雨が止んだ頃になって、ようやく敵襲を知らせる鐘が鳴り始め、多少の冷静さを取り戻した傭兵や冒険者が魔法を撃ち込まれただけでなく、襲撃者の存在に気付き始めた。


「敵襲だ!敵が居るぞ!!」

「女だ!フレッドがやられた!!」

「ちくしょう、ちく……がぁ⁉︎」

「アンディ!!」


 浮き足立つ敵軍の間を駆け抜けながら、次々と剣を一閃しては命を奪っていく。

 彼ら彼女らはあくまでも傭兵や冒険者。

 野盗や国の兵士ではない。

 しかし依頼を受けて戦場に立ったなら、相応の覚悟をしているはずだ。

 私はできている。

 私の邪魔をする者は誰であろうと排除する覚悟がある。


「居たぞ!あの女だ!」

「固まれ!盾持ちは前に出ろ!」


 多少は動きの良い奴らも居るわね。

 その場に居た者達が一塊になり、盾を持った大柄な者達が前衛を固め、その後ろに槍持ちや弓持ちが構える。

 基本に忠実な布陣だ。


「多分傭兵ね。でも例の奴らではなさそう」


 そこそこの練度だけれど、この程度でブロッケン砦をあっさりと陥落させることは無理でしょうね。


「凍てつく突風 輝く吐息 我が名は氷狼(フィンリル)白銀の息吹(ブリザード・ブレス)】」


 一塊になっていた奴らを、纏めて氷漬けにする。

 短文詠唱とは言え、無詠唱の魔法とは比べ物にならない高威力魔法を受けた者達は一瞬で身体中の血液まで凍ってしまう。

 彼らの中に魔法使いが居れば多少はレジストできたのかも知れないが、残念ながらそれは叶わない。


「あの女、魔法も使うぞ!」

「さっきの氷の雨もあいつの仕業か!!」

「ひっ!ま、魔女だ…………あがっ!」


 魔女って……まぁ間違ってはいないけど。


 その後も私は目に付く端から敵兵を切り捨てていった。



 ◆◇★◇◆



「あちらは随分と派手にやっているみたいだな」


 エルザは悲鳴や破壊音が聞こえてくる方をチラリと窺った。


「余所見とは余裕だな!!」


 ガタイの良い冒険者が肉厚な大剣をエルザの頭上目掛けて振り下ろす。

 しかしエルザは手にしていた剣を大剣にそっと当てて斬撃の軌道を僅かに逸らす。


「まぁな」


 そのまま大剣に引かれて重心を崩した冒険者の首を刎ねる。


 こちら側に居た数は少なめで、広範囲への攻撃手段に乏しいエルザでも余裕を持って対処できていた。


「⁉︎」


 背後から矢羽が風を切る音を感じ、振り向きざまに矢を切り払う。


「はっ!」


 その瞬間、突き出された槍がエルザを襲うが、紙一重で躱し距離を取る。


 すると、揃いの革鎧を身に着けた集団がエルザを半円に取り囲むように広がっていた。


「ふっ!」


 その内の1人、端に居た男に斬りかかるが、すぐ隣に居た盾持ちの男がエルザの剣を弾く。

 その隙にエルザが狙った男が剣を突き出し、背後から矢が射掛けられる。


「ちっ!」


 エルザは身を投げ出すように跳び退くと、その集団から距離を取った。


 先程までの烏合の衆とはまるで違う練度、エルザはその集団が軍隊でも話題に挙げられていた傭兵団だとすぐに思い至った。


「随分と腕が良いな。あんたらが噂の傭兵団かい?」

「噂とやらは知らないが、あんたほどの実力者に褒められるのは悪い気はしねぇな」


 探るようなエルザの問いに集団の中から現れた男が答えた。

 くすんだ金髪を短く刈り込んだ男の顔には左右に大きな傷が走っている。

 その男は他の者達と揃いの革鎧を装備しているが、多少質が良い物を使っている。

 おそらく奴がリーダーか。


 エルザの予想通り、男は仲間たちへと指示を飛ばす。


「かなりの実力者だ!深追いはするな、囲んで少しずつ削れ!互いをフォローしろ!」


 その指示を聞いたエルザを取り囲む傭兵たちは、警戒を深くしつつ、油断なく武器を構えるのだった。

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(・ω・)ノシ

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